在宅医療の現場では、介護を受けている患者さんの症状を同居されている方が判断しなければならない状況が多くあります。

例えば小さな子供もご家族が状況を判断して病院へ連れて行かれると思います。ご高齢の方々も症状が重症化しやすかったり、認知症のため自分で症状が判断できなかったりといった問題が起こるのです。

さて、そのような中でよく皆さんが困って連絡をしてくる症状がいくつかあります。今回はその中でも特に多い発熱転倒について解説したいと思います。

目次

高齢者の発熱、よくある原因と予防法

高齢者の発熱の主な原因は生活環境感染の二つにおよそ分けることができます。

生活環境によるもの

高齢者では末梢循環の悪化や自律神経機能の低下により体温が上がりづらく、からだが寒いという訴えが多くなります。また喉の渇きも感じにくく、夏場でも冷房をつけなかったり、水分を十分に摂取していなかったりします。それに加え代謝が低下しているので、汗で体温を逃がすことができず、熱が体内にこもりやすくなっています。

また、褥瘡(じょくそう、床ずれ)予防のための体圧分散マットレスなどを使用している方も多いですが、これらのマットレスは熱を逃がしにくく、より一層体温が上昇しやすい環境にあるといえるでしょう。

感染症によるもの

高齢者では熱が出にくいこともあり、感染で発熱したときにはすでに重症化してしまっている場合があります。特に多いのは誤嚥性肺炎です。

誤嚥とは、食道に入るべき食べ物・飲み物が気道にはいってしまうことです。誤嚥性肺炎は、この誤嚥により細菌が気道に入ることで感染します。高齢者の場合は嚥下機能が低下することで、気がつかない間に唾液や食事の残渣(食べ物のかす)が気管に流入し、誤嚥性肺炎になってしまうことがあります。普段から口腔ケア嚥下の運動をすることで予防効果があるといわれています。

他に、尿路感染胆嚢炎大腸憩室炎蜂窩織炎なども比較的よくある病気です。尿路感染は夕方に熱が出ることが特徴です。胆嚢炎や大腸憩室炎は腸に孔が開いてしまうなど、非常に重篤になるまで軽微な症状しかありません。嘔吐や食欲の低下が著しいときは注意が必要です。蜂窩織炎は皮下組織に感染を起こすことですが、足のむくみが強い方は起こし易いので、普段からマッサージや弾性ストッキングなどの使用で予防しておくことが良いでしょう。

熱が出たときの対応

まず体温を下げるよう、空調を調整して室温を下げたり、氷嚢(ひょうのう)を使用したりしましょう。氷嚢は、首や脇の下、股のつけ根を冷やすのが効果的です。かかりつけの医師から解熱剤を処方されている場合は、あらかじめどのようなときに使用するか確認をしておきましょう。

熱以外に何か症状がないか、熱の出方(熱型)はどうかを確認しましょう。いつもと明らかに様子が違うときはすぐかかりつけの医師に相談しましょう。

高齢者の転倒、3つの大きな原因

高齢者では転倒が多いことがわかっています。これは高齢者が虚弱(=フレイル)に陥るためです。フレイルは加齢に伴う変化と考えられています。

フレイルはもともと体が虚弱であるということを意味していました(身体的フレイル)が、最近は介護環境や住宅環境などの社会的問題(社会的フレイル)、口腔内など歯科領域の問題も含めた広い意味で使用されています。

筋肉量・筋力が低下した状態をサルコペニア、筋肉以外にも骨・神経などの疾患や障害を原因に、移動機能が低下する場合をロコモティブシンドロームと呼びますが、このような方々でも転倒が多くなります。また、高齢者では多数の薬剤を服用していることが多いですが、服薬数が多くなると転倒率が高くなるといわれています。

何が怖い?転倒の弊害と対策

転倒による骨折、打撲は要注意

転倒した場合、高齢者では簡単に骨折してしまうことが問題です。特に腰椎は何の症状もなくすでに圧迫骨折を起こしていることも多くあります。四肢の場合は転倒して痛がっている部分に骨折の可能性があり、症状や視診・触診で判断がつくこともありあます。一方で肋骨などの体幹の骨折は臓器損傷を起こすこともあるので、症状が軽微でも注意が必要です。

転倒し頭部をぶつけた場合は、その時問題がなくても硬膜外血腫になっている場合もあります。数ヶ月して意識障害が起きることもあります。特に抗凝固剤を服用している場合は注意が必要です。頭蓋内に問題がなくても、顔面に血腫が広がることもあり、一時的に視野障害が出て日常生活に影響がでることもあります。

まずは「転倒させない」対策を!

このように、転倒で怖いのは怪我・後遺症によりADL(日常生活動作)が低下してしまうことです。万が一入院してしまうと元の生活に戻ることが難しくなったり、ときには認知症が進行してしまったりすることがあります。

また、在宅医療を受けている患者さんは老々介護になっていることも多く、転倒した後に家族で患者さんの体を起こせない、ベッドに戻せないということもよくあります。

そのため、まずは転倒しないような対策をとっておくことが重要です。

転倒への対策は、段差をなくすようにバリアフリーにすることや個々のADL(日常生活動作)を考慮し必要な福祉用具の設置をすることです。厚生労働省から転倒チェックシートが出ているので、これを参考に点数が高い方は普段から注意していく必要があるでしょう。

また骨粗しょう症が明らかな方はその治療をすることで骨折のリスクを減らすことができます。

特に転倒を繰り返しているときは、万が一転倒したときの対処方法をあらかじめ確認しておくこと、もう一度介護状況を見直し、場合によっては必要な介護サービスを導入していくことも考えましょう。

転倒した時の対応

転倒したときはまず下記の3点を確認しましょう。

  • 会話ができるかどうか?
  • ぶつけた部位はどこか?
  • 現在どのような状況か?

その上でかかりつけの医師に相談しましょう。訪問看護師がいる場合は看護師に相談してみても良いでしょう。無理に動かしたりせず、医療者の指示に従ってください。

骨折によっては経過を見るだけで良い場合もあります。しかし、疼痛以外にも何らかの症状がある場合は病院での検査をしておいた方が良いでしょう。高齢であっても手術が必要な場合もあります。かかりつけ医と病院受診した方が良いか相談しましょう。

転倒リスクチェックシート

下記は、厚生労働省監修の『介護予防研修テキスト―一人ひとりの健康寿命をのばすために』の転倒リスクチェックをもとに作成されたチェックシートです。転倒リスクとなる項目がまとめられており、6点以上あてはまる場合には転倒のリスクが高いといわれています。

転倒リスクチェックシート-図解

1~3は歩行能力に関連する項目で、特に重要とされています。バランス能力、筋力などの身体的能力にかかわる項目のほか、室内に障害物があるかといった周囲の環境に関する項目も用意されており、転倒リスクが総合的に判断できるようになっています。

転倒リスクと対策-図解