エボラ出血熱は致死率の高い恐ろしい感染症として有名ですが、実際にはイメージが先に立っている部分もあるのではないしょうか。感染症から身を守るためには、感染症の正しい知識を得ることが大切です。
そこで、エボラ出血熱とはどのような感染症なのか、原因や症状、予防法などを順を追って見ていきましょう。
エボラ出血熱とは?
エボラ出血熱は、エボラウイルスというウイルスが原因となる感染症です。エボラウイルスには5つの種があることが発見されており、種にもよりますが致死率が20~90%と高いのが特徴です(国境なき医師団より)。
クリミア・コンゴ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱とともにウイルス性感染症と呼ばれており、「感染力、罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性が極めて高い感染症(三重県感染症情報センターより)」である一類感染症に指定されています。
出血症状がない場合もあることから、現在はエボラウイルス病という呼称が一般的になってきています。
「エボラウイルス」ってどんなウイルス?
エボラウイルスには次の5つの種があります。
- ザイール種(EBOV-Z)
- スーダン種(EBOV-S)
- ブンディブギョエボラウイルス(EBOV-B)
- タイフォレストエボラウイルス
- レストンエボラウイルス
このうち、とくにひどい症状を引き起こすものはザイール種(EBOV-Z)とスーダン種(EBOV-S)で、致死率はそれぞれザイール種が約80%、スーダン種が約30%と報告されています(群馬県保険医協会より)。記事タイトルにもある致死率80%のウイルスは、このザイール種のエボラウイルスです。
1976年に、ザイールのエボラ川流域、スーダン南部のヌビアでの集団感染が確認されて以降、しばしば流行を繰り返しています。2014年には、それまでアフリカ中部に限られていた流行地域が、ギニアでの流行を皮切りに西アフリカへ広がり、アフリカ大陸以外での地域で初めて発生が確認されました。
発症したときの症状は?
潜伏期間
ウイルスの潜伏期間は、通常は2~7日間(最長21日)とされますが、汚染注射からの感染の場合は短く、接触による感染の場合は長くなる傾向があります。
感染後、初めに自覚できる症状
エボラ出血熱は、以下のようなインフルエンザと似た初期症状が表れます。
- 突然の38℃以上の発熱
- 重度の頭痛
- 強い関節、筋肉の痛み
- 強い脱力感、倦怠感
- 酷いのどの痛み
発症後、しばらくすると現れる症状
初期症状が表れてから数日の間に、さらに以下の症状が表れてきます。
- 咳、胸の痛みなどの呼吸器の症状
- 下痢、嘔吐などの消化器の症状
- 肝臓、腎臓機能低下などの多臓器不全
- 白血球、血小板数の減少
- 粘膜充血症状
さらに悪化すると、吐血、下血、皮下出血など体の複数箇所での出血症状が表れることがあります。2000年のウガンダの流行を例に挙げると、上記の症状の中でも消化器の症状と衰弱がひどく、10%以下の感染者に出血症状が表れたとのデータがあります(国立感染症研究所より)。
診断と治療法について
エボラ出血熱は、初期症状が他の感染症の症状と似ていることから、症状からだけでは診断がつきにくいといわれます。しかし、状況などから感染の理由が明らかで初期症状がある場合は、患者の隔離と医療機関での確定のための検査が必須となります。
感染した場合、主に対症療法が行われます。点滴、合併症予防のための抗生物質の投与、鎮痛剤・ビタミン剤の投与など、患者自身の免疫による回復を助けるための治療が行われます。抗体が検出されるところまで持ちこたえられれば回復に向かい、完治すると感染した型のウイルスに免疫ができます。
加えて現在、エボラ出血熱に有効な治療薬が開発されています。抗インフルエンザ薬「アビガン(一般名:ファビピラビル)」はウイルスの増殖を抑える効果があり、研究段階ながらも使用が開始されています。治療薬やワクチンに関しては、現在も研究・開発が進められています。
どのように感染するのか?

アフリカでの感染のはじまりは、エボラウイルスに感染したオオコウモリ、チンパンジー、ゴリラなどの野生動物の死体・体液に人が接触したことによる可能性が高いとされています。
感染経路は、エボラウイルスに感染して発症している人・動物の体液(血液、分泌物、排泄物など)、に傷口や粘膜が触れることであると考えられます。また、体液に汚染された物質(注射針、シーツ、衣類など)が傷口や粘膜に触れることも感染の原因になります。
通常は、発症していない人から感染することはなく、空気感染はないとされています。WHO(世界保健機関)は感染リスクが高い人として、医療従事者、患者の家族・近親者、埋葬時に遺体に触れる参列者を挙げています。
日本でも感染するリスクはあるの?
流行している国で感染した人が入国すると、その患者さんが起点となって感染が拡大する可能性はあります。ただし日本国内では、急性期の患者さんをしっかりサポートする体制が整っていることに加え、治療に関しての技術も進んでいます。したがって、日本国内でエボラ出血熱が大流行するリスクはほとんどないと考えられます。
予防することはできるのか?
現在、承認されているワクチンはありません。根本的な治療法がなく、予防接種もできないことから、各自で実践できる予防策の徹底が基本となります。
以下のことに注意することが、感染のリスクを下げるうえで有効と考えられています。
- 感染が疑われる人、体液に汚染された可能性のある物に触れない。
- 流行地域での行動を避ける。
- 感染の可能性のある動物の死体や体液に触れない。
- 流行地域で、加熱処理が不確かな動物の肉(Bushmeat)を食べない。
- 石けんでのこまめな手洗い、アルコール除菌などの基本的な衛生管理を行う。
まとめ
エボラ出血熱は、ワクチンや治療薬がなく発症すると致死率の高い感染症です。しかし、正しい知識を持ち、基本的な予防を意識することで感染リスクの下げることが可能な感染症でもあります。過剰に心配することなく冷静に行動するようにしましょう。