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世の中には沢山の「お約束」があります。この「お約束」というものは、決して明文化されているわけではないので、社会生活の中で学び、想像し、行動しなければいけません。しかしこの「お約束」が全く通じず、様々な局面で「空気が読めない」と言われる人がいます。そのような人たちはひょっとしたらアスペルガー症候群かもしれません。

アスペルガー症候群という診断名自体が、2013年に改訂されたDSMという診断基準からはなくなっています。代わりに自閉症スペクトラム障害という診断名となっていますが、今回は便宜上アスペルガー症候群として説明していきます。

アスペルガー症候群とは

アスペルガー症候群は自閉症の一つと考えられています。自閉症の中で、言語や知的な発達の遅れがないものを指し、大きく分類すると次の3つが特徴的な症状として挙げられます。

  • 対人関係、社会性の構築の困難さ
  • コミュニケーションの困難さ
  • 興味の限定、繰り返し

これらの症状をより分かりやすく言うと、空気が読めないと言い換えてもいいかもしれません。相手の表情が読めません。さらには相手の気持ちが読めません。また、行間を読んだり、言葉の真意を読んだりすることが出来ません。

例えば、何か大きな失敗をした友人がいたとします。見るからに落ち込んだ表情をし、近寄り難い雰囲気を醸し出していますが、お構いなしに自分のペースで話しかけます。その状況をみていた友人が皮肉の意味を込めて「あの状況で話かけるなんて、お前はすっごく優しい奴だな」と伝えても、彼は言われた言葉通りに受け取りますので、自分は優しいと褒められていると考えます。このようにコミュニケーションが困難で、対人関係の構築が難しいといった特徴があります。

また、大勢に全く影響ない細かい部分にこだわってしまい、その結果、作業効率が極端に悪いということがあります。「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、目の前の事だけに意識が強く向いてしまい、全体を俯瞰的に捉えることが苦手です。こういったことから社会性の構築が難しいといった特徴があります。

もう一つの特徴に、興味の限定、繰り返しが挙げられます。人によってそれぞれですが、ある特定の分野に対して深く興味を示し、その分野においてのみですが、辞書並みの、もしかするとそれ以上の知識量を持っていたりします。

アスペルガー症候群の人への対応

風呂-写真
これらの症状があるアスペルガー症候群の人は、社会生活を送ること自体が非常に困難なものとなっています。そこで、アスペルガー症候群の人と接していくには周りの人間はどうしたらいいか、以下に具体例を挙げて説明します。

 

中から湯気がもくもくと上がり、いかにも熱そうな熱湯で満たされた透明な浴槽。
そこにさっきまで衣装をきちんと着ていた芸人が、衣装を脱いで水着となり、風呂の温度を確かめようと近づく。
浴槽の横に用意された階段を登り、浴槽の上に不安定な格好で四つん這いになる。
「押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ」
と大声で言ったと同時に後ろから押されて、熱湯の中に滑り落ちる。
お湯の熱さを言葉と身体全体で表現しながら、浴槽からなんとか這い出て、近くに用意されている氷で身体を冷やす。

 

テレビなどでおなじみ、熱湯風呂というリアクション芸の一つです。「絶対に押すなよ」と言っているのに押すことで成立します。この芸がいつどんな場面でもきちんと成立するのは、もちろん当事者たちの阿吽の呼吸もありますが、それだけではなく「お約束」を明文化したことでより成立しやすくなっています。最初2回の「押すなよ」は準備中を意味し、3回目の「絶対に押すなよ」には「今押してくれ」という意味だ、と押される当事者であるダチョウ倶楽部や出川哲郎さんは解説しています。このように「お約束」をきっちりとルールとして説明することで、共演者が変わっても成立するようになっています。

何が言いたいかというと、身の回りにあるルールや暗黙の了解などをしっかり明確にしましょうということです。アスペルガー症候群の人は相手の表情や、その場の空気を読むことが苦手とされていますが、言語理解には長けていて文章などの指示はしっかりと理解し実行に移すことが出来ます。アスペルガー症候群の人と接していくうえで肝となるのは「お約束」をしっかりと明文化する、ということです。明確に決まっていれば安心して取り組めます。決まり事をしっかりと指示通り行うということはむしろ得意な方々だったりします。

 

熱湯風呂という突飛な例を挙げてしまいましたが、今度は日常生活での対応方法を具体例で説明してみたいと思います。

「この資料、次の会議で使うから、人数分、よろしく」
と上司に言われて紙束の資料が渡されました。
上司としては「人数分コピーして配っておいて」という意図で伝えたつもりでしょうし、その通りに動いてくれた部下もいたでしょう。しかし、アスペルガー症候群の人には文言化されていない部分はなかなかくみ取れません。何が「よろしく」なのか理解できないまま、なんの準備もせず会議の時間を迎え、上司に叱られてしまうでしょう。さらにはなぜ上司が怒っているのか理解できなくて、謝る素振りもみせないでしょう。

このような状況にしないためには次のように指示を出す必要があります。

具体的に

何度も繰り返しになりますが、明文化することが一番です。

簡潔に

木を見て森を見ずの状態にしないためにも、余計なことは言わずに指示を簡潔にすると良いでしょう。

順序立てて

全体像を捉えにくいので、一連の流れが分かるようにしてあると作業が行いやすくなります。

口頭ではなく文書で

耳からの情報よりも視覚的に得た情報のほうが理解しやすい傾向にあります。メモだったりメールだったりで伝えるほうが効果的です。

 

今回の例では

  • 14時からの会議で使う資料です。
  • 8部コピーして配布してください。

とメモ書きして資料と一緒に渡すと良いでしょう。

しかし、いくら上記のように対応しても、どうしても苦手なことがいくつかあります。急な予定変更や複数の作業を同時進行すること、相手の表情を読み取ることなどはどうしても苦手です。そのような場面では早めにサポートしてあげることが必要です。むしろそのような場面を作らないような環境設定をしてあげられるとよりよいかもしれません。

アスペルガー症候群の特徴を活かすために

また、特徴の一つとして興味の限定が挙げられますが、自分の興味がある分野であればとことん頑張るので、才能を発揮することができるかもしれません。一般的には機械を相手にすることは得意と言われていて、アメリカのとあるIT関連企業ではアスペルガー症候群の人だけを採用しているところもあります(1)。

何度か「木を見て森を見ず」という例えを使いましたが、「木を見る」、すなわち細かいところに集中する能力は著しく、気付きにくい誤字やほんの僅かなフォントの違いなどを見逃しません。校閲も向いていると言えるでしょう。得意な分野は人それぞれです。その得意分野を日常で活かせるよう工夫できると良いでしょう。

最後に

アスペルガー症候群の人達との接し方について書いてみました。個人的には言葉足らずな社会のせいでアスペルガー症候群の人達をだいぶ困らせてしまっているな、と思っています。阿吽の呼吸も良いですが、しっかりと言葉で伝えるということは、とても重要なことですよね。