筋ジストロフィーは骨格筋(骨に付いている筋肉で姿勢の保持や身体の運動に関わる筋肉)の筋力低下が起こり、歩く、立つ、座る、手足を動かすなどの運動機能が障害される病気です。筋力低下は神経の異常によっても起こりますが、筋ジストロフィーは筋肉自体に異常がみられ、その原因によっていくつかの病型に分類されています。さらに各病型ごとに、心不全や呼吸不全、嚥下障害、中枢神経障害など様々な合併症を伴うことが知られています。

現在、筋ジストロフィーに対する根本的な治療薬はなく、治療は対症療法、リハビリテーションが中心となります。また唯一、デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおいては、一定の症状に対してステロイドの有効性が確認されています。以下、それぞれみていきましょう。

目次

ステロイド療法

ステロイド療法とは

ステロイドとは副腎皮質ホルモン製剤のことで、ステロイド療法は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療において、筋力低下、運動機能の低下の進行を遅らせることに有効であるとされています。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは子供の頃に症状が現れ、だんだん筋肉が弱くなり、歩くこと、姿勢を保つこと、手を使うこと、物を操作することなどが行いにくくなってきます。ステロイド療法で、筋力低下の進行を遅らせることで、歩く能力、運動能力を長い期間、保つことができ、色々な体験や経験を行うことができます。運動機能の低下に伴ってみられる背骨の変形も軽減することが可能です。

ステロイド療法は、臨床的に様々な疾患で汎用される有効な治療法である一方、副作用も一定の頻度で出るため、副作用の症状が重症とならないように予防しつつ、適切に用いることが必要となります。

ステロイド療法を始める時期

ステロイド療法は、歩く機能が保たれている時期で、運動機能の発達が平行線となった頃に開始されることが推奨されています。歩くことができなくなっても、手の機能の維持や背骨の変形、呼吸機能、心臓機能の低下の予防を目的として用いられます。

ステロイド療法で用いられる薬剤と副作用

プレドニゾロン(販売名:プレドニン)が主に用いられます。副作用は、体重増加、満月様顔ぼう(お月様のように顔がまんまるに膨らむ)、体毛の増加、にきび、低身長、性の発達の遅れ、感情や行動の変化、感染症にかかりやすい、高血圧、高血糖、胃腸障害などがみられます。

ステロイド療法は専門知識を持った医師によって管理され、副作用の状態を診ながら、ステロイド薬の投与のタイミングやスケジュールが調整されます。この為、自己判断によるステロイド薬の増減、休薬などはかえって体調を崩す可能性が高くなりますので、必ず処方を受けている医師に相談の上、用量の調整を行って下さい。

リハビリテーション

理学療法士、作業療法士によって、筋力低下による運動機能の低下の予防、関節可動域の維持、関節拘縮(かんせつこうしゅく:関節が固まって動かなくなること)や背骨の変形の予防、日常生活動作の維持を目的としたプログラムが行われます。

具体的には、関節可動域訓練(関節を動かし、筋肉の柔軟性、関節のスムーズな動きを促すこと)、姿勢を保つ練習、歩行練習、日常生活動作練習などが行われます。呼吸機能の低下がみられる場合、予測される場合は深呼吸や咳込みの練習など、呼吸リハビリテーションも行われます。

関節拘縮や背骨の変形などに対して、適切な姿勢を保てるようにと、さらなる変形を予防するために義肢装具士による車椅子や姿勢保持装置、装具の作成や調整を行う場合もあります。

呼吸機能の低下に対する治療

鼻マスク-写真
 
呼吸に関わる筋肉の筋力低下により、深呼吸をすることが障害され、感染症にかかりやすくなります。定期的に呼吸機能の検査を行い、咳込むことや深呼吸を行う練習を医師や看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの指導の下に行っていきます。

呼吸筋の筋力低下が進むと、呼吸機能が低下して、寝ている時や活動中に自分で呼吸を行うことがつらくなってくるので、鼻マスク(NPPV:非侵襲的陽圧換気)や、気管切開をしての人工呼吸器管理などの呼吸を補助する機器による治療が必要となります。

心機能の低下に対する治療

心臓を動かしている筋肉が弱ってくると心機能の低下が起こります。心機能が低下していても自覚症状がないことも多いため、定期的な検査を行い、心機能を確認しておくことが大切です。心機能が低下すると、心不全症状不整脈などがみられるようになり、日常生活に支障を来します。

心機能の低下がみられたら、その病態に応じてアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β遮断薬、利尿薬などを投与する薬物療法が行なわれます。

嚥下機能の低下に対する治療

嚥下機能の低下がみられ、むせ誤嚥(肺に食べ物や飲み物が流れ込むこと)がみられる場合には言語聴覚士によって、飲み込みに必要な口や喉の機能の訓練が行われる場合もあります。

嚥下障害があり、口から十分な栄養や水分がとれない場合は、鼻から胃までチューブを通して栄養や水分を確保する方法や胃ろうの造設(直接、胃に栄養を注入するための穴を腹部の皮膚につくること)が行われます。

まとめ

筋ジストロフィーは徐々に進行していく病気のため、機能低下や合併症が予測される機能の検査を早期から定期的に行い、早期に治療が開始できるようにしておく必要があります。

リハビリテーションを行って関節の拘縮や変形を予防し、できるだけ今の生活を維持できるようにしながら、運動機能の変化に合わせて、安全に動作が行なえるように環境を調整していくことも大切です。

今後、筋ジストロフィーの治療薬の開発がさらに進み、安全に使用できる薬が治療で用いられるようになることが期待されています。