日本では感染症法という法律により十数種類の疾病が「感染症」として定められ、国による公衆衛生管理の対象となっています。そのうち、四類感染症という分類に「ハンタウイルス感染症」という疾病が定められています。普段あまり名前を聞かない病名ですが、どのような疾病なのでしょうか。

目次

ハンタウイルス感染症とは

ハンタウイルス感染症とは、ハンタウイルスと呼ばれるウイルスが感染することにより引き起こされる感染症です。四類感染症には、動物や食べ物などを媒介して人に感染する疾病が分類されていますが、ハンタウイルス感染症の場合、ハンタウイルスを保有するげっ歯類(ねずみなどの仲間)との直接的・間接的な接触が感染の原因となります。人から人への感染はありません。

海外では1930年代以降から風土病として度々流行し、多くの感染者を出してきました。日本国内では、1960年代に大阪梅田の衛生環境の悪い地区で100以上の感染者が出た例(感染症情報センターより)や、1970年代半ば以降の動物実験施設でラットを扱う実験者の発症例があります。

どのような症状を起こす?

ハンタウイルスには、少なくとも23の種類(分類の方法により数が変わります)がありますが、感染するハンタウイルスの種類により症状の内容や程度が異なります。大きく分けると、腎症構成出血熱(HFRS)とハンタウイルス肺症候群(HRS)の2つです。

腎症候性出血熱(HFRS)

軽症型の場合には自覚症状がほとんどなく、症状が出ても風邪のような症状だけで回復します。一方、重症型は、突然の高熱、頭痛、背部痛、腹痛といったインフルエンザに似た症状から始まります。3~4日目には顔全体が紅潮する症状が出て、引っ掻くとみみずばれのような跡がのこるようになり、この頃におよそ半分ぐらいの方に軽度の低血圧が見られます(メルクマニュアルより)。低血圧は一過性のものですが、一部の方はショック状態に陥ることがあるため、特に注意が必要な時期です。その後、腎不全の症状として尿量が減る乏尿期、尿量が増える利尿期を経て、回復に向かいます。

ハンタウイルス肺症候群(HRS)

腎症工出血熱と同様、インフルエンザのような症状(突然の発熱、頭痛、悪寒)が初期に起こります。2~15日後には肺水腫の状態となり、呼吸困難チアノーゼ(唇や指先などの体の末端が青くなる)といった症状がみられます。

死に至る場合も?

全死亡率はそれぞれ、腎症候性出血熱が6~15%、ハンタウイルス肺症候群が50~75%です(メルクマニュアルより)。腎症候性出血熱では、重症型の場合に死亡ケースが集中しており、低血圧性ショック、急性腎不全の症状、臓器の出血には、特に慎重になる必要があります。また、ハンタウイルス肺症候群の場合、症状が出てからの数日間を乗り越えれば回復に向かうものの、死亡率が高く、早期に適切な治療を行うことが望まれます。

日本でも感染の恐れ

過去の国内感染例はいずれも腎症候性出血熱です。また、現在ハンタウイルス感染症はいずれも感染報告はありません。しかし、国内のウイルスが根絶されたわけではなく、北海道や湾岸地区でハンタウイルスを持つネズミの生息が確認されています。

ハンタウイルスの感染経路は、ハンタウイルスをもつ動物との接触です。直接的に噛まれるといったことがなくとも、ハンタウイルスに感染した動物の糞尿や唾液で汚染されたほこりなどを吸い込むことで飛沫感染します。日本では法制度やインフラ整備により公衆衛生管理が徹底されていますが、自然環境の変化によりウイルスを保有する動物が増えることで、感染発生や流行の可能性も否定できません。

治療と感染予防の必要性

キッチンの掃除-写真

現在、ハンタウイルス感染症には有効な予防ワクチンはなく、国内においては抗ウイルス薬も存在しないため、予防徹底が何より重要です。予防のためには、ウイルス保有動物との接触を避けること、衛生管理をすることが基本となります。

  • 食べ物・残飯はフタの閉まる容器に収納する
  • 住居やその周辺を清潔に保つ
  • 住居の修復をするなど、動物の侵入経路がないかチェックする
  • 動物の排泄物を処理する際には、ウイルスに汚染された粉塵を巻き上げないよう、清掃箇所を漂白剤で湿らせてから拭き取ってゴミ袋に入れる
  • 掃除の際は、手袋・マスクを着用する
  • キャンプ等の野外活動では、忌避剤を用いる

まとめ

ハンタウイルス感染症は、重篤な症状を起こす危険性のある病気で、身近に感染源が存在する可能性がある疾病のひとつです。有効な治療なく、治療では対症療法が施されます。万が一流行した場合には、人から人へ感染する新型ウイルスが発生することも考えられるため、予防が重要です。予防は基本的に衛生管理を徹底することですが、これは他の感染症対策においても有効です。