肺水腫は、肺の中に水がたまってしまい、呼吸困難をはじめ様々な症状が出る病気です。心筋梗塞などの心臓にまつわる病気や、肺の病気に伴って発症することがあります。
肺水腫は原因別にいくつかの種類に分類されますが、どれも「他人事」の病気ではありません。
肺に水が溜まる…肺水腫ってどんな病気?
肺水腫は、肺の内部に水分が溜まる病気で、肺の毛細血管から血液中の液体成分が滲み出した状態です。
肺には、酸素を取り入れて二酸化炭素を排出するための肺胞(はいほう)という構造物があります。肺胞は小さな袋のような形をしており、その周りを網目状に取り巻く毛細血管が、血液中の酸素と二酸化炭素の交換を行っています。肺水腫は、この毛細血管から肺胞の中へと水分が滲み出てしまう病気です。
酸素は、二酸化炭素と異なり水に非常に溶けにくい性質があります。このため、袋状の肺胞に水分が溜まってしまうと酸素が血管まで行き着かず、血液中にうまく取り入れることができなくなります。その結果、呼吸が著しく制限されてしまうのです。
肺水腫の原因は?
肺水腫は様々な原因で発症します。内臓が異常を起こし、肺の病態を悪化させてしまうことが多いです。主に、静水圧性肺水腫と透過性亢進型肺水腫の2種に大別されます。
1.静水圧性(せいすいあつせい)肺水腫
肺の毛細血管の静水圧(いわゆる「水圧」)が上昇したことで起こる肺水腫を、静水圧性肺水腫と呼びます。肺水腫の原因の大半は、心臓の異常による心原性肺水腫です。
心臓の異常によるもの(心原性肺水腫)
心臓の血液の流れは、右心系と左心系という2つの系統に分かれています。
- 左心系:酸素を取り入れた血液を肺から受け入れ、全身に送り出します。
- 右心系:全身を巡って炭酸ガスを取り入れた血液を肺に送ります。
このうち、肺水腫の原因となるのは左心系に起こった異常(心筋梗塞、弁膜症など)です。
左心系の機能低下により血液の流れが滞ると、肺の内部に血液が溜まってしまいます。すると血管から水分が染み出してしまい、肺水腫を起こしてしまうのです。
腎臓の異常によるもの
腎臓は老廃物を体外に排出するほか、血圧の調整や、体液量やミネラルの調節を行っています。
慢性腎臓病(CKD)などで腎臓の機能が低下すると、余分な水分や塩分を体外に排泄することができなくなります。すると身体の中にある水分が多すぎる状態(体液過剰)となってしまいます。このため、腎臓病ではしばしばむくみの症状がみられるのですが、これがさらに進行したときに肺水腫につながる場合があります。
腎機能の低下は、糖尿病などが原因になることが多いです。
肝臓の異常によるもの
肝硬変などによる肝機能障害も肺水腫を引き起こすことがあります。
肝臓の機能が低下すると、血液中のアルブミンというタンパク質が減少します。アルブミンは肝臓で作られており、血液の膠質浸透圧(こうしつしんとうあつ:血管内に水分を保とうとする力)を担っています。アルブミンの濃度が下がると膠質浸透圧が低下し、血管内に水分を保つことができなくなるため、肺水腫を引き起こすことがあります。
肝機能障害を引き起こす肝硬変の原因としては、C型肝炎ウイルスの感染をはじめとする様々な種類の慢性炎症が考えられます。
2.透過性亢進型(とうかせいこうしんがた)肺水腫
急性呼吸窮迫症候群(ARDS:Acute Respiratory Distress Syndrome)とも呼ばれます。肺が直接、または間接的に損傷を受けると炎症反応が起こります。すると肺胞の壁が障害を受け、水分が漏れ出やすくなってしまうのです。
下記のような病気で生じます。特に、敗血症によるものが多いです。
- 敗血症
- 肺炎
- 誤嚥
- 多発外傷
- 熱傷
肺水腫の症状は?
1.静水圧性肺水腫の症状
- 呼吸困難:特に夜間の呼吸困難や、運動時・日常動作時(労作時)にみられます。喘鳴を伴うこともあり、適切な検査を行わないと、喘息と誤診されてしまうこともあるので注意が必要です。
心不全(特に左心不全)による喘鳴と呼吸困難を心臓喘息と称することもあります。 - チアノーゼ:顔や指先などの末端が青くなってしまいます。
- 痰:ピンク色の泡のようなものが混ざります。
- 起座呼吸:肺水腫では寝転がる時に呼吸状態が悪化するため、起きて座ったまま呼吸を続ける起座呼吸がみられることがあります。
2.透過性亢進型肺水腫の症状
- 呼吸が浅く、早くなる
- 咳・痰が出る
- チアノーゼ
- 頻脈・不整脈
ARDSは、救急治療の必要な病気です。適切な治療を行わなければ、心臓や脳などが機能不全を起こす場合もあります。
このほか両者とも、聴診器を胸にあてると「パチパチ」「ブツブツ」という音(コースクラックル)が聞かれます。
肺水腫の治療は?
まずは酸素を投与し、呼吸を改善します。酸素投与のみで改善がみられない場合は、NPPV(マスクを用いた換気)、人工換気(気管挿管や気管切開によって気道を直接確保する)などを行います。
その後、原因を取り除くための薬物治療を行います。例えば、心臓に原因がある場合の肺水腫では、利尿剤、強心剤、モルヒネなどを用いた治療が行われます。敗血症や肺炎の場合は、抗菌薬による治療が行われます。
ARDSでは体内の水分管理をするため、利尿薬の投与や輸液制限を行う場合があります。
まとめ
肺水腫は、心臓の異常や腎臓の異常など、誰にでも起こりうる病気が原因となって発症します。肺に水がたまることで呼吸が制限されてしまうため、できるだけ早く呼吸の改善を行わなくてはいけません。
肺水腫の予後(経過)は原因となる病気によって大きく異なりますが、まずは適切な治療を受けることが何より大切です。呼吸困難をはじめとする異常な症状がみられた場合、呼吸器内科に相談してください。