栄養が偏ると、様々な病気になることが知られています。
豊かな食生活の現代では、栄養不足による病気は縁がない、と思うかもしれません。
しかし本記事で紹介する脚気は、気を緩ませていると現代でも発症する可能性がある病気です。
脚気は、かつて原因不明の疾患といわれていました。
しかし、旧日本海軍での食生活の見直しに起因する研究から、栄養が原因であると特定されました。
脚気は日本の食生活や栄養と非常に関連が深く、日本人にとっては避けて通れない病気なのです。
脚気の原因はビタミン不足や偏った食生活
脚気は、偏った食生活が原因となって起こる病気です。特に、ビタミン不足が大きな原因となります。
ビタミンは、水分に溶けやすい水溶性ビタミン(B、C など)と脂肪分に溶けやすい脂溶性ビタミン(A、D、E、Kなど)に大別できます。
この中でも、水溶性ビタミンであるビタミンB1が不足することで発症するのが脚気です。
ビタミンB1は水分に溶けやすいビタミンのため、調理のときに食材から栄養が失われてしまうことが多いです。
また、摂取したとしても体内に蓄えることが難しく、すぐに尿として排泄されてしまうのです。
実際に摂取できるビタミンB1は、もとの食品に含まれていた量の半分程度ともいわれます。
このビタミンB1は、ご飯やパンなどに大量に含まれているでんぷん質を分解し、体内で栄養分に変える(糖代謝)ときに活躍している栄養分です。
つまりビタミンB1が不足すると、体の中で正常にエネルギーを作ることができなくなります。
以下のような人はとくにビタミンB1が不足しがちなので、気を付けてください。
- 甘いものが好きな人
- お酒が好きな人
- 白米を沢山食べる人
- スポーツ選手
加えて、夏はビタミンB1を消耗しやすい時期です。夏バテなどで食欲がなくなると麺類や清涼飲料水といった糖質の摂取量が増えます。
また、汗をかくと水溶性のビタミンB1が失われやすくなることも理由として挙げられます。
脚気に気付くための、症状や検査方法は?

「なんだかだるい」に要注意
脚気では、神経や筋肉の働きが低下することで様々な症状が現れてきます。
筋肉や神経は非常に栄養分を必要とする器官で、糖分を常に分解し、エネルギーを作り立つことで活動を維持しています。
このため、ビタミンB1の不足によって糖分の分解がうまく行われなくなると、食欲不振やだるい、感覚の麻痺などの症状が現れてきます。
このまま症状が進行すると足のむくみや動悸が現れ、やがて手足に力が入らなくなってしまいます。
このまま症状が進行していくと心臓を動かすために必要な糖分の分解まで不足してしまい、心不全を起こす衝心脚気に至ってしまうのです。
膝の下を叩いてチェックしよう
脚気は非常に簡単に検査ができるので、病院ですぐに検査をしてもらえます。
健康な人では、膝のお皿の骨の下の部分を叩くと、足が跳ね上がります(膝蓋腱反射といいます)。
この反射は、脚気が進行すると出てこなくなってしまいます。
つまり、膝の下部分を叩いても足が跳ね上がってこない場合、脚気のおそれがあるのです。
このチェック方法は、場合によっては自分でも調べることができます。
だるさや麻痺を感じている時に試してみて、膝蓋腱反射が起こらなかった場合には病院で検査を受けるといいでしょう。
脚気が進行すると、ウェルニッケ脳症という病気を併発してしまうことがあります。
ウェルニッケ脳症も、ビタミンB1が不足することで起こる病気です。
脚気の症状に加えて、運動失調、眼球運動の異常、記憶障害、意識の消失などの症状が現れた場合には注意が必要です。
ビタミンB1はどうして不足してしまうの?

明治時代、脚気は「国民病」だった
江戸時代から明治時代にかけて、脚気は国民病ともいえるほど日本国内に蔓延していました。
江戸時代の末に日本人が白米を主食にするようになってから患者が増え始め、当時は「江戸患い」として知られていたといいます。
明治以降、脚気は全国に広がりました。特に日露戦争においては、白米を主食としていた陸軍では25万人もの脚気患者が出ました。
当時、脚気の原因がビタミンB1不足だということは分かっておらず、脚気を伝染病だと考える医師も少なくなかったといいます。
その約20年後、島薗(しまぞの)順次郎博士によって脚気の原因はビタミンB1だと明らかにされました。
その後、脚気の患者は減少し、現代に至っています。
現代でも起こる脚気、その原因は?
ビタミンB1は、主に肉類に多く含まれる栄養分です。
動物性の肉製品をしっかりと摂取することでビタミンB1を摂り続けることができるのですが、食生活が偏ってくるとビタミンB1の不足が起こることがあります。
ビタミンB1は元来、日本食においては魚などから摂取することができました。
しかし現代の日本の食生活では炭水化物や脂質の割合が増加してしまい、エネルギー源となるでんぷんの摂取が多くなっています。
さらに、近年の菜食志向もビタミンB1の不足の原因の一つです。
野菜を中心とした食生活では、どうしてもビタミン類の偏りを避けることができません。
つまり、食生活が極端に菜食に偏り過ぎてしまうと、それが脚気を招く原因になってしまうのです。
上記のように魚や肉などを摂取する割合が相対的に減少している状態が続くと、でんぷんの分解に必要となるビタミンB1は不足しがちになります。
毎日の食生活で、バランス良く動物性のタンパク質を摂取することが重要なのです。
まとめ
脚気は、かつては国民病と考えられていました。
しかし、現代ではまた異なった形で栄養の偏りによって起こる疾患となってきています。発症する数は多くありませんが、日常生活に潜む原因を知り、脚気にならないように気をつけましょう。
なかなか疲れがとれない、手足に麻痺がみられるなどの症状がある場合は、医師に相談することをおすすめします。