歳をとると若い頃とは違って、「尿が出ない」「漏れてしまう」といった、トイレの悩みが増えることがわかっています。膀胱も、他の臓器と同様に年齢とともに機能が低下するためです。

尿が出なくなった場合の処置として、「尿道カテーテル」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。在宅医療の現場では特に、この尿道カテーテルが留置されたまま、自宅で過ごされている方がたくさんいらっしゃいます。

今回はこの尿道カテーテルの問題とその解決方法を解説します。

目次

おしっこが出なくなる「尿閉」

なぜ尿閉になるの?

排尿はみなさんが当たり前のように毎日行うことですね。摂取した水分の量にもよりますが、通常、尿は1日に1.5リットル程度作られます。膀胱は300ml程度尿を貯められるので、1日に5回ほどトイレに行くことになると思います。加齢によりこの膀胱の機能は低下し、重症となった場合にはおしっこが出なくなってしまう(尿閉)ことがあります。

尿閉はアルコールの摂取やかぜ薬、その他さまざまな薬剤で惹起される場合があります。特に男性は前立腺という臓器があるため、女性に比べて尿閉になる頻度が多いです。

尿閉になったらどうする?

尿閉になるとまず、病院で尿道カテーテルと呼ばれる管を尿道に入れなくてはなりません。尿道カテーテルとは、膀胱に溜まった尿を外に出すための管です。麻酔の使用をする、あるいは長時間に及ぶ手術を受けられた経験のある方は、手術時に尿道カテーテルを使用することがあるのでわかるかと思います。

尿閉になったとしても、比較的若い方であれば薬や手術で再び尿が出るようになることが多いですが、高齢の方では薬の効果が十分ではない場合や、手術ができずにずっと尿道カテーテルとの生活を余儀なくされる方もいらっしゃいます。

特に私が関わる在宅医療の現場では足腰が悪い、寝たきりであるなどの介護的な要因で、この尿道カテーテルが留置されたまま、自宅で過ごされている方がたくさんいらっしゃいます。

尿道カテーテル、その問題点とは…

尿道カテーテル-写真

(「尿道カテーテル」荏原ホームケアクリニックより提供)

1.衛生面の問題

尿道カテーテルはシリコンラテックスといった素材でできています。内腔を尿が通る構造になっています。先端が風船で膨らむため膀胱に固定することができます。異物ですので長期間留置されていると石が付着したり、尿路感染を起こしたりといった問題が起こってきます。

2.処置にともなう痛み

尿道カテーテルの挿入は尿道口から行いますが、2週間から4週間に一度交換をしなくてはならず、その度苦痛を伴います。また、途中で管が詰まってしまった場合はその都度交換が必要です。

3.手術におけるリスク、負担

前立腺の手術を行えば、尿道カテーテルを抜いて排尿できるようになる可能性があります。しかし手術は麻酔や出血、入院などで体への負担が大きいことや、不可逆(元に戻せない)性が問題となります。

4.在宅医療に特有の問題

在宅医療を利用される患者様の多くは、癌の末期や高齢者、神経難病など、身体的な理由で病院への通院が大変であったり、外来の待合室で待つことが難しい方々です。

こうした方々とって、無理のない範囲でからだを動かしたり、外出して周囲とのコミュニケーションの場に参加したりすることは、日常で必要な体力を維持し、心身ともにより快適な生活を送るうえで重要です。しかし、尿道カテーテルが繋がれていることで日常動作が制限され、外出の機会が減り引きこもりがちになったり、リハビリが進まなくなったりといった問題が起こりえます。

普及が進む「尿道ステント」

(「尿道ステント」荏原ホームケアクリニックより提供)

一方でこのような尿道カテーテルの手術ができないような方を対象に、尿道ステントという方法があります。以前から行われている方法で、その有効性はすでに確立しています。最近では、より安全かつ簡便に行えるようになり、普及が進んでいます。

尿道ステントとは?

尿道ステント 留置したところ-イラスト

(「尿道ステントが留置された様子」荏原ホームケアクリニックより提供)

尿道ステントはニッケルチタン製の形状記憶合金で作られています。冷水で柔らかくなり、温水で固くなる性質があります。この金属の筒を尿道に挿入することで尿道が広がり、排尿できるようになります。処置にかかる時間はおおよそ30分程度です。通常は日帰りで処置可能です。

痛みや管理の問題は?

尿道ステント-写真

(「尿道ステントを留置したところ」荏原ホームケアクリニックより提供)

留置後は特に痛みなどはなく、また、金属ですので感染に強い性質があります。MRIの撮影も可能です。残念ながら長期間の留置では結石の付着や位置のズレが起こる可能性があるため定期的(半年から1年)な交換が必要です。

一部の方では治療後に尿もれのためオムツが必要な場合や、頻尿が起こる場合があります。これは手術など他の治療を行っても同じです。というのも現在のところ一度機能の低下した膀胱を回復させることが難しいからです。もちろん症状によっては薬物治療で軽減する可能性があります。

この点、ステントは抜去や再留置も可能ですので、一度カテーテルのない排尿の状態をみて今後の治療を考えるといったこともできるでしょう。

ただ現時点では男性にしか治療の適応がありません。残念ながら女性は尿道が短く固定が難しいことと、尿道周囲の膣や腸への影響が懸念されるためです。

在宅医療介護におけるメリット

先にも述べたように、在宅医療を利用される方々は、もともと外出や日常動作の困難な患者様しかいません。尿道カテーテルによりさらに日常動作が制限されることで体力・筋力が落ち、さらに病気やからだの状態が悪くなることが懸念されます。同時に、介護をする家族の負担が増えることもあるでしょう。

在宅医療・介護を考えるうえで、患者様自身ができる限り体力を維持することは、患者様と介護をする側であるご家族との双方にメリットがあるといえます。

まとめ

おしっこが出なくなった場合には尿道カテーテルは絶対必要な処置です。しかし、在宅医療の現場では本人だけでなく介護者の負担も常に考えて治療することが重要です。特に高齢者や障害者だからという理由で漫然と尿道カテーテルが留置されている場合は、今回ご紹介した尿道ステントで生活が大きく変わる可能性もあります。

尿道カテーテルが留置された場合は一度泌尿器科専門医の診察を受け、治療方針をご家族も含め相談することが良いでしょう。