前回の記事では、小児における感染性胃腸炎の症状と原因について概説しました。今回は家庭で様子を見る時に、注目するべきポイントについて具体的に見ていこうと思います。

目次

感染性胃腸炎の看病におけるポイントとは!?

感染性胃腸炎における治療の第一目標は、いかに脱水を避けるかにあります。また脱水以外にも病原体に応じた合併症を生じることもあり、合併症を起こしていないかに注意を払うことも重要です。さらに周囲に感染を拡大させないという観点も忘れてはいけない点です。「脱水」、「合併症」、「感染予防」の三つをキーワードとして項目毎に詳細を述べていこうと思います。

脱水を避けるために

スプーンで何かを食べる赤ちゃん-写真

感染性胃腸炎は前回の記事でも述べましたが、「嘔吐」→「下痢」と症状が変化します。お子さんの症状に応じて適切な対応をすることが、脱水を避けるためも重要です。

以下の記載は脱水症状が強いお子さんに対しての推奨です。もし症状が強くない場合には、通常通りの食事(乳児であれば母乳・ミルクも含めて)を続けていただいて問題ありません(UpToDate|Patient education: acute diarrhea in children)。

1.嘔吐の時期(発症後6~12時間以内)

発症して数時間のうちは嘔吐症状が続きます。ひとしきり胃の中のものを吐ききると、自然に嘔吐をすることも少なくなり、本人も水分を欲するようになります。しかしまだまだ胃腸の動きも悪い時期であるため、本人任せに水分をあげるのではなく、親御さんが少量ずつ与えるようにしてください。極端な話、スプーン一杯の水分をあげてみて嘔吐しないことを30分から1時間観察した後にその倍量をあげるなど、極少量ずつこまめに与えることがポイントです。

嘔吐時には水分以外にも糖分やミネラル等も失われます。そのため、水やお茶だけでは不充分であり、市販の乳児用経口イオン水が脱水を避けるためにはベストです。しかし、味の問題から嫌がるお子さんもいらっしゃるので、リンゴジュースを薄めたりすることも許容されています。なお乳製品は下痢症状を悪化させるので、胃腸炎の時には避けるようにしてください。この時期には吐き気止めを併用することも有効です。

2.下痢の時期(発症後半日から数日)

嘔吐は半日ほどすると治まりますが、徐々に下痢が始まります。水分摂取の重要性は変わりませんが、徐々に食事を与えることも考えるフェーズです。胃腸の働きは弱っている時期ですので、おかゆやうどん、野菜スープやゼリー等、柔らかいものを中心にあげてください。繊維質の多い野菜や脂肪の多い食べ物、お菓子等は避けましょう。この時期になると吐き気止めの比重は低くなり、整腸剤を飲むことも適応になります。

経過中に体重が減ることもありますが、一過性のことがほとんどです。急性期にはいかに脱水を避けるかに注意を払い、適切なタイミングで水分/固形物を与えることが肝要です。

合併症が生じていないか?

感染性胃腸炎ではどうしても水分摂取がうまくいかず、脱水が進行して点滴が必要になることもありますし、また脱水以外の合併症を生じることもあります。脱水以外にも、脳症や腸重積、ギランバレー症候群や溶血性尿毒素症症候群などを起こすこともあります(WHO|Diagnosis and Management of Foodborne Illnesses)。これら合併症は胃腸炎が治ったと親御さんが安心される時期にも発症するため、胃腸炎発症後1〜2週間程度は注意が必要です。以下の症状がある時には、別記事も参考にしつつ医療機関への受診を考慮しましょう。

  • 元気がない、ぼーっとしている
  • 排尿が6時間近くない、泣いた時に涙が出ない、目が落ち込む等の脱水症状を認める
  • 特に乳児では、数時間の間水分を飲むことを拒否する(急速に脱水が進む懸念があるため)
  • 緑色の嘔吐物(胆汁の嘔吐)がある
  • 腹痛が1時間以上持続する
  • 血便や血尿を認める
  • 手足の動かしづらさを認める

感染拡大予防について

小児における感染性胃腸炎はウイルス性のものが多く、原因ウイルスが何であれ周囲に感染が拡大するリスクがあります。原因が何であれ大切なのは、お子さんが下痢・嘔吐を呈している時には、感染拡大のリスクがあるものとして一般的な感染対策を徹底することです。

感染性胃腸炎では、便中や嘔吐物中にウイルスが混入しており汚染物を口にすることで感染が成立することを理解すると、感染拡大予防対策が立てやすくなります。そのため、30秒以上石けんを使用して手洗いすることが重要です。オムツや嘔吐物の処理の際には可能であれば手袋を着用して対処することも有効です。また感染者とタオルや箸を共用しない意識も大切です。

これら感染性胃腸炎全般的にできる対応以外にも、原因ウイルスに応じて個別にできる予防方法もあります。医療機関では通常ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスをその場で同定する(見極める)ことが可能です。これらのウイルスにはアルコール消毒は無効であり、塩素系漂白剤を使用する必要があります。具体的には次亜塩素酸の濃度として0.5%程度に希釈したものを用意し、汚染が疑われる部位が浸るようにした後にペーパータオルで拭いたり、汚染された服を5〜10分ほど付け置きした後に洗濯したりするなどで使用します。消毒方法については、別記事も参考にしてください。

まとめ

感染性胃腸炎について、症状と原因、家庭でできるケアについて本記事及び別記事の2回に渡り概説をしました。胃腸風邪はお子さんが成長するにあたり避けては通れないありふれた病気の一つです。本連載を通して、少しでも家庭でのケアにお役に立てていただけたら幸いです。