みなさんは、ハンチントン病という病気をご存知でしょうか。初めて聞くという方も多いかもしれません。実はハンチントン病は遺伝性疾患のひとつで、遺伝子と深い関係があることが知られています。

今回はそんなハンチントン病について解説いたします。

目次

ハンチントン病とは

ハンチントン病とは、脳の神経の構造が徐々に変わっていってしまうことでおこる病気で、精神的な症状に加え、運動症状も引き起こすことが知られています。

それほど多く起こる病気ではなく、日本人では人口10万人に対し0.7人の患者さんしか居ないという報告もあり(難病情報センターより)、また国の難病指定を受けています。発症する年齢は幅広く子供から老人まで様々ですが、だいたい30歳前後で発病される方が多いようです。

ハンチントン病の原因

ハンチントン病は、遺伝子の異常によっておこる遺伝病で、食べものや生活習慣などによって引き起こされる病気ではありません。

人間には染色体という、体の設計図の役割をする物質があります。その中の第4染色体に存在するIT15と呼ばれる遺伝子に異常な変化がみられることでハンチントン病は発病します。

遺伝子はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4つの物質によって構成され、その並び順によって体の中の様々な物質の構造が決定するのですが、IT15遺伝子にはもともと、シトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)がこの順番で、CAGCAGCAG…と繰り返し並んでいる箇所が有ります。ハンチントン病ではこの「CAG」という配列の繰り返し部分が異常に伸びていってしまう(CAGリピート)ことが知られているのです。伸びてしまう原因自体はわかっていませんが、この配列異常こそが病気の原因となっています。

また、ハンチントン病は遺伝性の病気であるため、子供へと遺伝する可能性があります。

遺伝の形式は常染色体優性遺伝というもので、片方の親が病気だった場合、50%の確率で病気の遺伝子が子供に伝わることになります。しかしながら病気の重症度は必ずしも同じというわけではなく、家族内でも症状が軽かったり重かったりのばらつきが発生することがあります。病因遺伝子は、親から子へ遺伝することによってCAGリピート数が増える傾向があり、CAGリピート数が多い程、若年で発症する傾向があることが知られています。

ハンチントン病の症状

手を差し伸べる

ハンチントン病では、大きく分けると運動症状、不随意運動、精神症状の3つの症状が現れます。

運動症状

自分の意思で行う動作に現れる症状のことです。初めのうちは字を書く、箸を使うなどの細かい動作がうまくできなくなります。症状が進行してくるとすべての動作がしにくくなり、転びやすくなる、むせる、言葉が出にくいなどの症状が出て色々なことに補助が必要になります。

不随意運動

自分の意思とは関係なく発生してしまう運動のことで、顔面や四肢の素早い動きがみられます。手先が不規則に動いてしまう、顔をしかめてしまう、舌打ちをしてしまうなどの症状が表れ、これらは舞踏運動と呼ばれることもあるハンチントン病で特徴的な病状です。

精神症状

意識に現れる異常のことです。認知症とは異なり物忘れなどは目立ちませんが、物事を計画的に実行する能力が障害されたり、怒りっぽくなるなども性格変化が現れることもあり、さらにはふさぎ込んでしまったりなどのうつ症状がみられることもあります。

ハンチントン病の治療

ハンチントン病には残念ながら根本的な治療法はありません。しかし、不随意運動やうつ症状などを緩和する薬を用いて症状を落ち着けることは可能です。平成13年からは舞踏症状に効果がある薬として、テトラベナジンが日本でも使用できるようにもなりました。精神症状には向精神病薬等が用いられます。しかし、これらの薬には副作用が大きい物も多く、神経内科専門医によるきちんとしたコントロールが必要となります。

またご家族がハンチントン病を発症された場合、自分や子どもはどうなのだろうと不安に思われる方も多くいらっしゃると思います。そのような方の為に、遺伝相談を行っている病院もあります。病因遺伝子の検査を行い、発症の可能性について知ることができます。勿論、これは希望される場合のみであり、知りたくない方に強制されるものではありません。

まとめ

ハンチントン病は遺伝子の異常によって起こる遺伝病で、運動症状、舞踏症状などが現れ、薬によって症状を抑えることが主な治療となります。

国によって難病指定されており、それほど多い病気ではありませんが、遺伝病という性質から子供に遺伝する可能性もあり、知識を持っておくことも大切かもしれません。