筋ジストロフィーは厚生労働省の指定難病であり、主に全身の骨格筋が障害される遺伝性の病気です。障害される筋肉の部位や症状の特徴、発症する年齢、遺伝の形式によって、ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型、ベッカー型)、肢体型、先天性、筋強直性、顔面肩甲上腕型、エメリー・ドライフス型、眼咽頭型の臨床病型に分類されます。筋ジストロフィーの症状と原因について詳しく解説していきます。

目次

筋ジストロフィーの初期症状

始めにみられる症状は、骨格筋(こっかくきん:一般的に筋肉と呼ばれている骨に付着している筋肉で、身体を支えたり、随意的に動かす働きをする)の筋力低下です。転びやすい、支えがないと階段が上りにくい・立ち上がりにくいなどの症状がみられます。

先天性やデュシェンヌ型のように子供の頃に発症する筋ジストロフィーでは首が座る時期、お座りができるようになる時期、歩き始める時期が遅いなど、成長過程の遅れがみられます。

筋ジストロフィーでは、骨格筋の障害と共に内蔵の機能障害も認められます。

息切れや動悸などの心不全症状は、筋ジストロフィーの多くの病型で合併を認める症状です。特に筋強直性、エメリー・ドライフス型では心伝導障害、不整脈が高頻度に認められ、予後に影響を与える場合もあります。食べ物や飲み物が飲み込みにくくなったり、むせやすくなったりする嚥下障害もまた、多くの病型で認められ、栄養障害をきたす原因になり得ます。

筋ジストロフィーの進行

慢性的に骨格筋の筋力低下が進行し、歩く、立つ、起き上がる、手足を動かすことなどの運動機能が低下して、ADL(日常生活動作)の低下が進行していきます。

手足を動かす筋肉以外にも、体幹、顔面の筋肉(呼吸に関わる筋肉、飲み込みに関わる筋肉、顔の筋肉や眼球を動かす筋肉等)、また心筋、平滑筋という内臓の筋肉に筋力低下が起こります。これらの筋力が低下することで、呼吸機能、嚥下機能、構音機能、眼球運動、心機能、胃腸運動の低下がみられるようになります。さらに、呼吸不全、低酸素血症(呼吸機能の低下によって、十分に酸素を摂り込めず、血液中の酸素濃度が低下する)心不全、不整脈、栄養障害、眼瞼下垂(がんけんかすい:まぶたを開きにくくなり、瞼が下がる状態)、便秘などの症状もみられます。

運動機能が低下すると、段々と自分で動くことが難しくなっていき、関節をしっかり動かす機会も減るため、関節の拘縮(こうしゅく:動かせる範囲が狭くなること、動かなくなること)や変形も生じるようになります。体幹の筋力低下から姿勢を保ちにくくなって、背骨や胸郭(きょうかく:胸椎、肋骨、胸骨からなる胸部を構成している骨格です。肺・心臓を支持して守っており、呼吸の運動にも関与しています)の変形が生じると、肺や心臓などの内臓が圧迫され、呼吸機能にも関わってきます。

その他にも、合併症として脳の異常や知的障害、認知症、発達障害、難聴、脂肪肝、胆石、糖尿病、脂質異常症、白内障、てんかん、腎不全、網膜症などがみられることがあります。

筋ジストロフィーの原因

筋ジストロフィーは筋肉の構成成分をつくる遺伝子の変異が起こり、筋肉が変性・壊死を起こすことによって生じます。

遺伝子の変異は親から子へと遺伝する場合と、突然変異を起こす場合とがあります。日本では、デュシェンヌ型の約1/3は突然変異(孤発例)とされています。

筋ジストロフィーはどのように遺伝するの?

手をつなぐ親子-写真

筋ジストロフィーの遺伝の仕方はX染色体連鎖、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝があります。

X染色体連鎖はジストロフィン異常症、先天性、エメリー・ドライフス型でみられ、X染色体に筋ジストロフィーの原因遺伝子が存在しており、女性の場合は原因となる遺伝子を持っていても発症はしません。原因遺伝子を持つ母から生まれる男の子は1/2の確率で発症します。生まれたのが女の子だった場合には1/2の確率で原因遺伝子を保有します。

常染色体優性遺伝は、肢体型、先天性、顔面肩甲上腕型、筋硬直性、エメリー・ドライフス型、眼咽頭筋型でみられ、親が筋ジストロフィーを発症していた場合は、男の子、女の子に関係なく1/2の確率で発症します。

常染色体劣性遺伝は、肢体型、先天性、エメリー・ドライフス型でみられ、両親とも筋ジストロフィーを発症していないけれども、原因遺伝子を保有していた場合に生まれるお子さんは男の子、女の子に関係なく3/4の確率で原因遺伝子を保有し、1/4の確率で発症します。近親婚で発症する確率が増えることがわかっています。

遺伝の仕方は、筋ジストロフィーの個々の状況により、形式通りではない場合もあるため、詳細につきましては主治医への相談をおすすめします。

まとめ

筋ジストロフィーの原因となる遺伝子についての研究はまだ解明が進められている段階であり、既存の筋ジストロフィーの型に当てはまらない原因遺伝子もたくさん存在しています。今後、さらに原因遺伝子の解明が進むことにより、筋ジストロフィーの分類や遺伝子の持つ機能によってどのような障害が生じるかという発症メカニズムの解明につながっていき、さらに根本的な治療方法の確立が期待されています。