タンパク質は人間の体に欠かせない大切な物質ですが、タンパク質は必要なものが必要な分だけ作られることも大切です。異常なタンパク質が増えて、脳・心臓・腎臓・消化管・神経などに沈着し、機能障害をおこしてしまう病気を「アミロイドーシス」といいます。「アミロイドーシス」には聞き覚えはなくても、アルツハイマー病は耳にしたことがあるのではないでしょうか。これらも、「アミロイドーシス」のひとつです。

目次

アミロイドーシスとは?

アミロイドーシスとは、「アミロイド」と呼ばれる繊維状の異常タンパク質が体内に沈着してしまうことで引き起こされる病気の総称です。

タンパク質は、筋肉などの構造を作ったり、物質を運搬する役割を果たしたり、体内でエネルギーを作るための化学反応を助けるなど、体内の生命維持・活動に不可欠な働きをしてくれている物質です。本来であればタンパク質は、体内で正しい形のものが必要な分だけ生産されるようコントロールされています。

ところが、アミロイドーシスでは、何らかの原因で誤った構造のタンパク質(アミロイド)が作られ、それがどんどん蓄積されていくことで、ときにいろいろな症状を起こすのです。

なぜ「アミロイド」が作られるのか?

アミロイドーシスは、異常タンパク質「アミロイド」を形成する前段階にあたるタンパク質(前駆体)により、31種類に分類されています(難病情報センター)。

原因となる31種類のタンパク質は、生成される過程や沈着してしまうメカニズムに違いがあります。すべてに共通することと考えられているのは、アミロイドの原因となるタンパク質が体内で生産され、それが変換される過程で異常が起こり、凝集してアミロイド線維となる、というものです。

進行性の病気で、適切な治療をしないと進行を早めてしまい、さらに進行が速ければ、発病後数年で死に至ることもある病気です。

どんな症状が出るの?症状で病気はわかるの?

症状はアミロイドが沈着する臓器、器官が障害を起こすことで現れるので、それぞれの臓器ごとの症状があります。はじめの症状は全身の倦怠感、体重減少、貧血、むくみなどがありますが、ほかの病気でも出る症状なので、すぐにアミロイドーシスだとは気づきにくいものです。臓器ごとの症状としては以下のようなものがあります。

  • 心臓・・・不整脈、心不全
  • 腎臓・・・ネフローゼ症候群、腎不全
  • 消化器・・・嘔吐、腸閉塞、吸収不良症候群などの胃腸障害
  • 末梢神経障害・・・痺れ、麻痺、立ちくらみ、排尿の異常、下痢、便秘など
  • その他・・・舌、甲状腺、肝臓が腫れる、皮膚が部分的に厚くなる、など

どんな種類があるの?どう診断するの?

アミロイドーシスのなかで、複数の臓器に障害を及ぼしているものを「全身性アミロイドーシス」といい、5つの型に分類されます。型により効果的な治療方法も違います。また、一つの器官や臓器の一か所に限定的にアミロイドが沈着するものを「限局性アミロイドーシス」と呼びます。限局性は例えば、脳なら脳アミロイドーシス、皮膚なら皮膚アミロイドーシス、といった呼び方になります。

症状のある臓器に対するする検査が診断の入口ですが、臓器から組織を一部とって(生検)、顕微鏡でアミロイドの沈着が確認されると、確定診断となります

全身性アミロイドーシスの5つの型と治療

リンゴと人の手-写真

免疫グロブリン性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)

免疫グロブリンが原因タンパク質となり発症するタイプです。多発性骨髄腫などに合併するものと、原発性のものがあります。治療としては、自己末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が選択されます。ボルテゾミブ(多発性骨髄腫の治療薬)の単独治療も行われるようになっています。

*免疫グロブリン

血液中や、組織液に中に含まれる血清タンパク質のひとつで、ウイルスや細菌などの異物に対して、抗体として働くものです。IgEはアレルギー検査でも使用されるもので、目にする機会が多いかもしれません。ほかに、IgG、IgA、IgD、IgMがあり、それぞれはたらきが違います。

AAアミロイドーシス(反応性アミロイドーシス)

リウマチ性疾患が原因となって起こることが多いものです。抗リウマチ薬による治療が主体です。抗IL-6受容体抗体を用いた治療が有効であることが明らかになってきていて、今後の治療の主体になることが期待されています。

IL-6・・・AAアミロイドーシスの原因となるアミロイドAの前駆体を生産する物質。抗IL-6受容体抗体はその働きを抑えます。

透析アミロイドーシス

10年以上の長期の透析が原因となります。そのため、予防として改良された透析膜が効果を上げています。

家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)

遺伝性のもので、熊本県と長野県に集積地があります。トランスサイレチンというタンパク質が原因であり、そのほとんどが肝臓で作られるため、治療としては肝移植が行われます。また、薬剤では、ジフルニサル(アミロイドに変換されることを阻止する薬剤)による治療に加え、タファミジスがニューロパチーの進行を遅らせることが明らかになっています。

老人性全身性アミロイドーシス(SSA)

老人性、というだけあって、加齢が原因です。これも原因タンパク質はトランスサイレチンなので、ジフルニサル、タファミジスによる薬剤治療が行われます。

上記のうち、ALアミロイドーシス、FAP、SSAの3つは厚生労働省の指定難病になっています

限局性の種類

限局性アミロイドーシスも大きくは5つに分類されます。

  • アミロイドーシス
  • 内分泌アミロイドーシス
  • 皮膚アミロイドーシス
  • 角膜アミロイドーシス
  • 限局性結節性アミロイドーシス

脳アミロイドーシスの中に分類されるものに、アルツハイマー病脳血管アミロイドーシスがあります。

アルツハイマー病では、脳のいたるところにアミロイドの沈着が起こります。沈着により神経細胞の働きが障害され、うまく働けなくなった神経細胞が死滅してしまうことで脳の萎縮が起こります。高齢化の進む日本では、今後も患者数が増加することが予測されます。塩酸ドネペジルという薬剤が進行を遅らせ、症状を軽減するものとして使われます。

脳血管アミロイドーシスは、脳の血管にアミロイドが沈着する病気です。アルツハイマー病とは異なり、脳出血や白質脳症などの脳血管障害の原因となります。加齢も原因のひとつとされており、有病率は60歳以上で10~50%、90歳以上であれば74%との報告もあります(アミロイドーシス診療ガイドライン(PDF)より)。

まとめ

聞きなれない病気でしたが、病気をたどっていくと、意外にも身近な病気がそのひとつであることがわかりました。しかし、この病気は早期発見が難しく、治療法を決めるための分類にも時間がかかります。できるだけ早く治療に繫げるため、厚労省が専門医のリストを出しています。アミロイドーシスの疑いがある場合は、早めに専門医の診察を受けましょう。