シャイ・ドレーガー症候群という病名はあまり耳慣れないかもしれませんが、多系統萎縮症と呼ばれる疾患に分類されている疾患です。さらにこの多系統萎縮症という病気は以前、脊髄小脳変性症と呼ばれる疾患に分類されていた病気のひとつです。脊髄小脳変性症とは、小脳や脳幹(小脳と脊髄・全身との連絡経路)が変性することで、運動失調などさまざまな症状があらわれる病気の総称で、全国に約3万人もの患者さんがいると推定されています(難病情報センターより)。

シャイ・ドレーガー症候群は、どのような特徴を持った病気なのでしょうか。関連の病気も含めて説明していきます。

目次

どんな病気なの?

脳脊髄ってどんな器官?

私たちの「脳」は、全身に向けて命令を出したりからだの各所の動き・はたらきを制御したりする役割を担う器官です。また、「脊髄」は脳からの命令を、あるいは身体の末端から受け取った情報を脳に伝わる際に経由する器官です(例外的に、「反射」では脊髄から命令がでます)。

脳の中でも「小脳」は、身体の平衡感覚の保持、姿勢・運動の制御、眼球運動、自律神経の調節、認知機能を司り、「脳幹」によって脳の他の部位、脊髄と繋がっています。脊髄小脳変性症ではまさにこの小脳や脳幹が変性してしまい、様々な症状があらわれます。

シャイドレーガー症候群とは?

1.非遺伝性である「多系統萎縮症」に分類

脊髄小脳変性症のうち約70%は非遺伝性です。この非遺伝性の脊髄小脳変性症の中でも、小脳の広い範囲にわたって変性が生じるものは多系統萎縮症と呼ばれ、小脳皮質という小脳の一部だけに変性が生じる皮質性小脳萎縮症とは区別されています。基本的に孤発性(遺伝はしない)であり、小脳以外にも変性が認められる点で、シャイ・ドレーガー症候群は多系統萎縮症に分類されています。

2.症状は進行性、初期は自律神経症状から

多系統萎縮症のグループは、小脳失調・自律神経症状・パーキンソン症状があらわれますが、どの症状が先行してあらわれるかによって3つの疾患に分けられています。シャイ・ドレーガー症候群では自律神経症状が先行し、進行することで運動失調、パーキンソン症状も徐々に見られるようになります。

現在のところ原因は不明で、進行性の疾患です。性別では男性に多く、年齢は50歳代に好発します。罹病期間は約9年程度といわれており、特に呼吸障害による睡眠時無呼吸は突然死の原因となるため注意が必要です(難病情報センターより)。

どのような症状があるの?

めまい-写真

先にも説明したとおり、多系統萎縮症に分類される病気は小脳性運動失調・自律神経症状・パーキンソン症状と呼ばれる症状が現れます。このうち、シャイ・ドレーガー症候群は、初期は自律神経症状からはじまり、病気の経過とともに、小脳性運動失調・パーキンソン症状が加わってきます。

それぞれ、具体的にどのような症状なのでしょうか。

自律神経症状

  • 起立性低血圧からくる、立ちくらみ、失神、めまい
  • 尿失禁や頻尿、排尿困難などの排尿障害
  • 勃起不全などの性機能障害
  • 発汗障害、体温調節障害
  • ホルネル症候群(交感神経の障害によりまぶたが下がる、瞳孔が小さくなるといった症状が出る)
  • 呼吸障害

小脳失調運動失調

  • 起立時、歩行時のふらつき
  • 構音障害(発音が正しくできない)
  • 手指のふるえ
  • 眼振(意思と関係なく眼球が動く)

パーキンソン症状

  • 動作が遅くなる
  • 手足がこわばる、つっぱる
  • 歩行障害
  • 転倒しやすくなる

これらの症状は、他の病気の症状でもあるため、経過を見ながら慎重な診断が要求されます。

どのような治療をするの?

特効薬はなく、出てきた症状ごとに対応していくこととなります(対症療法)。起立性低血圧、排尿障害、パーキンソン様の症状に対しては内服による治療が可能です。薬の効きづらい排尿障害に対しては、カテーテルによる導尿が選択されます。

また、呼吸障害は睡眠時無呼吸から夜間突然死の危険を伴うので、喉周辺の麻痺がある場合は気管切開をすることもあります。このようなケースでは睡眠中に特徴的な高いいびきを認めることが多く、声帯麻痺による呼吸障害を疑って早めに検査をすすめます。

生活指導、生活環境への注意も大切になります。起立性低血圧症では、寝ている状態や座っている状態から急に起き上がらないようにすることです。排尿、食事、入浴などの日常生活行為は、血圧が低下しやすく失神のリスクがあります。失神自体は数分で回復するものがほとんどですが、倒れてしまうことで頭をぶつけたり、骨折してしまうことがあるので注意しましょう。

まとめ

シャイ・ドレーガー症候群は、徐々に症状が進行する神経疾患です。多系統萎縮症全体では発病後5年程度で車椅子になり、8年程度で寝たきりの状態、全経過は9年程度とされます(難病情報センターより)。

しかしながら症状の進行には個人差もあり、疾患そのものに対しては、症状に対してできることをしながら、リハビリなどでQOL(生活の質)の維持を図ります。また、生活環境の改善・向上という観点からいえば、各種給付金やサービスの利用が可能な場合もありますので、地域の役所、保健所等にて相談されることをおすすめします。

 

編集部より

多系統萎縮症の診断基準における最近の取り決めによれば、このシャイ・ドレーガー症候群という疾患名は今後、徐々に使われなくなる方向のようです。しかし国内においての統一的な方針はまだ定まっておりませんので、「シャイ・ドレーガー症候群」という名称にて本疾患を扱わせていただきました。