直腸脱は、肛門から直腸が脱出してしまう病気です。高齢者(特に女性)や、乳児に多くみられます。命にかかわるものではありませんし、痛みも感じないものの、不快な気持ちを抱えがちな症状の一つだと思います。
下着に便がついたり、「痔が出ている」と感じた場合、直腸脱の可能性もあります。今回は直腸脱について、痔との違いや原因、治療法を解説していきます。

目次

直腸脱と痔の違いとは?

直腸脱は骨盤内臓器脱(骨盤の中にある臓器が肛門を通して外側へ出てしまうこと)の一つです。痔は部分的な症状で骨盤内臓器脱ではありません。

痔は大きく分けて以下の3つに分けられます。直腸脱は内痔核との鑑別(何の病気か見分ける)のが難しく、素人ではより困難です。

  • 痔核:直腸肛門部の血行が悪くなって血管の一部が膨れあがり、出血や脱出する。
  • 痔瘻(じろう)肛門から細菌感染が起き、肛門周囲に膿が溜まる。
  • 裂肛(れっこう):硬い便によって肛門が裂け、痛みや出血が起きる。

直腸脱の原因とは?

直腸脱は乳幼児から高齢の方まで幅広くみられます。主な原因には肛門の周囲を支えている筋肉(肛門括約筋)や骨盤を支える組織(肛門挙筋)の発育不全、加齢に伴って筋肉が緩んで直腸を支えられなくなっていることが挙げられます。

高齢化に伴い直腸脱の患者さんは、年々増えてきています。

このほか直腸脱になる原因として以下のものが考えられます。

  • 直腸がもともと短い
  • 肛門括約筋が弱い
  • 便秘による排便困難からのいきみ
  • 重たい物を持つ仕事をしている

高齢の女性妊娠や経腟分娩(膣から子供を産むこと)などの影響から、骨盤底の筋肉や靭帯、結合組織が弱くなったり伸びたりすることで、骨盤内臓器が体外に出てしまうことがあります。

帝王切開で出産した人は経腟分娩の女性と比べると直腸脱の割合は少なくなります。

直腸脱の症状、治療法は?

手術の風景-写真

どんな症状が出る?

直腸が裏返しになって肛門から出てしまうので、便汁(腸液)が漏れたり、便がなかなか出にくかったり、下腹部や肛門周囲に不快感を覚えたりします

最初は排便時にいきむと出て、力を抜くと自然に戻ります。段々と進行していくと歩いたり立ち上がったりするだけで直腸が出てしまい、その後は手で戻さないといけなくなります。

治療法は?

薬では治すことができません。体調や病状の進行によって脱出した直腸がむくんで手で戻すことが困難になったときは、手術をしなければなりません。

手術する場合は会陰(肛門側)から行うもの、開腹術(お腹を切り開く)、腹腔鏡下(お腹に数箇所小さな穴を開け、そこから器具を入れる)で行う場合の3通りがあります。

小児で直腸脱がみられた場合は外科的手術を選択せず、腹圧をかけないようにして排便をコントロールできるようにしていきます。

治療した後に気をつけること

直腸脱の治療で手術を受けた人は直腸を含めた骨盤内臓器脱の再発を予防するため、便秘の予防腹圧がかからないような生活をしていく必要があります。

術後少なくとも2か月間は重たい物を持つことはやめ、骨盤底筋を鍛える体操(ケーゲル体操)を行うと良いでしょう。

骨盤底筋体操は簡単な上に場所や時間を選ばずにできる体操で、直腸脱の予防だけでなく、尿失禁や子宮脱などを改善する見込みがあります。

また肥満体型は腹圧がかかるため骨盤内臓器脱になりやすいといわれており、適正体重をキープする努力も必要です。

まとめ

直腸脱は排泄に影響するデリケートな病気です。臭いが気になったり、外出先でのトイレを気にするあまり出不精になってしまったり、気分が落ち込んだりします。身体や精神機能の低下に繋がっていきます。

今は医学が進歩して体に負担があまりかからない方法で、日帰りの手術も可能です。自覚症状がある方は、一度病院を受診してみましょう。