排泄の仕方が変わる人工肛門(ストーマ)は、なかなかイメージがわかず不安になるかもしれません。今回は人工肛門がどういったものなのか詳しく紹介します。生活にどういった影響を及ぼすのか、どう使うのか、食べ物に気を使う必要があるのかなどチェックしてみてください。

目次

人工肛門とは

病気の治療で肛門が使えなくなったとき、代わりにお腹に新しい排泄の出口を作ります。お腹に装置をつけるのではなく、自分自身の腸をお腹から出します。

腸の粘膜は赤いため、人工肛門も赤色になります。一般的には丸く少し突き出ていて、粘液や腸液が分泌されている影響で常に潤っています。人工肛門自体には神経がないため痛みはありません。また腸は常に内側から外側へと圧力がかかっているので(腹圧)、中に水が入ってくることはありません。

大きく異なる排泄の仕方

人工肛門では、排泄の仕方が通常の肛門と大きく異なります。排便のコントロールができなくなるのです。

通常、肛門は直腸に続いています。直腸は、便を溜めたり、出したり、便意を我慢したりといった働きを持ちます。しかし人工肛門は便を出す働きしか担っていません。つまり、消化が終わったタイミングで排泄されることになり、自分でタイミングをコントロールすることができないというわけです。

人工肛門は便を出す働きだけなので、消化されるたびに自分の意識とは無関係に便が出ていきます。人工肛門を付けている方の排便方法は2つあり、一般的には自然排便法が用いられます。

自然排便法

基本的に用いられる方法です。袋(採便袋)をお腹につけて、出てくる便を溜めます。ある程度の量になったら袋を交換します。交換は1日用、3~5日用、7日用などさまざまなタイプがありますが、発汗量や便の状態によっても交換時期が変わっていきます。

採便袋と皮膚が密着する部分には皮膚保護材が使われています。長期に密着して皮膚がかぶれたり、真菌が増えたりするのを防ぐ役割があります。

洗腸法

器具を使って大量のお湯を腸に流し込み、腸を洗浄します。洗浄後完全に便が出れば一定の期間は便が出ないため、働いている間に便が出て困る人がこの方法をとることがあります(体力のある方に限られます)。

ただ、洗腸には1時間近くかかるためトイレに籠る必要があり、周囲の理解、協力が求められます。この方法は大腸の長さがある程度残っているS状結腸や下行結腸の人工肛門の場合に有効です。小腸は大腸よりも広げにくいので、小腸から人工肛門をつくっている人には不向きです。また、不適切な方法で行うと腸穿孔などを起こしてしまう可能性があるので、医療機関でしっかりと指導を受ける必要があります。

どういうときに人工肛門は必要なのか

人工肛門を必要とする疾患の種類によって、永久的につけるか一時的につけるか分かれます。

永久的に人工肛門を必要とするケース

一番多い疾患は直腸がんです。手術によっては肛門と大腸を取り除くので肛門から便を出せなくなり、人工肛門が必要になります。

そのほか以下のものが考えられます。

  • 肛門がん
  • 他の臓器のがんの直腸への浸潤(他の臓器の癌が増えて直腸へも広がること)
  • 脊髄損傷

一時的に人工肛門を必要とするケース

直腸や肛門に炎症が起きて治療中にしばらく患部を休ませたいとき、便を外に逃がすため人工肛門を取り付ける場合があります。

治療後、炎症が治まり正常に機能できれば人工肛門は閉じられます。考えられる病気は以下のものがあります。

  • 腸閉塞
  • 潰瘍性大腸炎
  • クローン病(大腸、小腸などが長年慢性的に炎症を繰り返す病気)
  • 鎖肛(先天的な肛門の奇形で、便が正常に出なくなる)
  • 巨大結腸症(結腸が詰まったり狭くなったりしていないのに大きくなってしまう病気。結腸摘出などの措置をとらないと腸に穴が開く)
  • 憩室穿孔(腸の壁の一部が袋状に外に飛び出したもの。便が詰まるなどして炎症が起き、穴が開いて出血すると危険な状態になる)
  • 痔ろう

人工肛門の使い方は?

人工肛門を洗うためのたっぷりの泡

交換の目安は種類によります。皮膚保護材や皮膚に便が付いたままだと皮膚トラブルの原因になるので早めに取り替えます。

交換方法

準備

人工肛門や周囲の皮膚を洗うために石鹸、キッチンペーパーやタオルを用意します。また新しい装具の排泄口が閉じているか確認します。使用済みの装具を入れるためのビニール袋も必要なら用意します。

貼っている装具を皮膚からはがす

皮膚を押さえながらゆっくりはがします。無理やり、勢いよくはがすと皮膚を傷つける原因になるため止めましょう。はがしにくい場合は皮膚用リムーバー(解離剤)を皮膚と接着面の間にしみ込ませながらはがします

人工肛門を清潔に

便が付いている場合はやさしくふきとります。そして石鹸をよく泡立て、人工肛門の周りに泡をのせて転がすように洗ってシャワーで流します。石鹸が皮膚に残ると皮膚が荒れたり、新しい装具がくっつきにくくなる原因になります。

乾かす

キッチンペーパーや清潔なタオルで押さえるようにして水分をとります。ドライヤーは粘膜を傷めるので厳禁です。

装具を再び貼り付ける

お腹のしわやたるみを伸ばし、汗がひいてから装具を貼りつけましょう。皮膚保護材を用いる場合はこのタイミングで使います。装具を貼りつけてから2~3分押さえておくと、皮膚の体温で接着面がなじんで密着性が高まります。

使用済みの装具を捨てる

トイレの排水(汚水排水)と洗面所やお風呂の排水(雑排水)は分かれているので、装具中の便はトイレに流します。使用済み装具はビニール扱いです。ビニール袋に入れて各自治体のごみ処理法に従いましょう。

服装は?

手術前と同じ服を着ることができ、着物やジーパン、ガードルを着ている人もいます。また水着を着て水泳を楽しむ人もいます。ベルトと装具が当たってしまう場合はベルトを緩めたり、サスペンダーを利用したりしてみます。

食事はどうすればいいの?

食事制限は必要ないため手術前と同じものを食べられますが、暴飲暴食はやめましょう。また急いで食べると空気も一緒に飲み込んでしまってガスを発生しやすくなります。

ガスを多く発生させたり、においが強くなったりする食べ物を知っておくと、人と会う前に量を減らすなど調整できます。便秘下痢を引き起こしやすい食べ物、改善する食べ物も把握しておけば便利です。

下痢を招きやすい食品、成分

アルコール、カフェイン、炭酸飲料、イカやタコ、香辛料、豆類やキノコ類、アボカドやピーナッツなど脂肪分の多い食品

下痢を改善するのに有効な食品

じゃがいも、りんご、バナナ、ももなどの水溶性食物繊維の多い食品、ごはん、もち、パン、うどん、マシュマロ、葛湯、白身魚

ガスを発生させやすい食品

ビール、炭酸飲料、イモ類、甲殻類、豆類、貝類、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ごぼう、ネギ、大根、ラーメン

ガスの発生を抑える食品

ヨーグルト、乳酸飲料、納豆、パセリ、レモン

においの強くなる食品

ネギ、にら、豆類、玉ねぎ、にんにく、アスパラガス、チーズ、卵、貝類、甲殻類

においを抑える食品

ヨーグルト、乳酸飲料、レモン、パセリ、オレンジ、グレープフルーツ、クランベリージュース、アセロラジュース、緑茶

まとめ

人工肛門を身に着けていても仕事、水泳などのスポーツ、着物を着てのお出かけ、旅行など人生を楽しんでいる人は多くいます。初めは戸惑うことがほとんどですが、少しずつ慣れていけば行動範囲も広がっていきます。医師や看護師のアドバイスを受けながら、うまく付き合っていきましょう。

また、人工肛門や人工膀胱を保有している方たちのための団体もあります(日本オストミー協会など)。人工肛門とうまく付き合うための情報が多数掲載されていますので、ぜひご覧ください。