お尻の中でも肛門は体のデリケートな部分で、かゆみや痛みを感じることがあります。ただなかなか口にはできず、我慢しながら生活している人もいることでしょう。今回は人に言いづらい「肛門がかゆい」ときに考えられる病気について詳しく説明していきます。

目次

肛門掻痒(そうよう)症

肛門周囲のかゆみがみられる病気を総称して肛門掻痒症と呼びます。肛門周囲を掻きむしるため赤くなったり、湿疹がみられたりすることがあります。初めは入浴後や布団に入ったときなど体温が上がる場面でかゆみがみられます。その後段々と日夜問わず、かゆみを感じていきます。

原因

肛門周囲の皮膚に外的な刺激が加わるためです。外的な刺激は以下のことが考えられます。

  • 排尿、排便後の拭き取りが不十分で、肛門周囲に着いた尿や便が刺激となる場合
  • トイレットペーパーで肛門周囲をこすり過ぎて刺激となる場合
  • 温水洗浄によって刺激が加わる場合
  • 体を洗うときに肛門周囲をタオルでゴシゴシとこすり過ぎる場合
  • 石鹸で念入りに洗うことで皮膚を守るための油膜まで洗い流されてしまい、皮膚のバリア機能が低下してしまった場合
  • コーヒーなどのカフェイン、トウガラシなどの刺激物などを摂った場合

治療

便秘の改善や、洗いすぎ・こすり過ぎを避ける、石鹸の使用中止、刺激物をとることを避けるなどして原因を取り除きます。鎮痒剤の軟膏を使用するほか、かゆみが強い場合にはステロイドの塗り薬を使います。

接触性皮膚炎

皮膚が炎症を起こし、ただれやかぶれを起こすことでかゆみがみられます。

原因

肛門周囲に市販薬、生理ナプキン、下着、ウエットティッシュなどが接触し、皮膚に炎症を起こします。赤ちゃんはオムツが原因となることがあります。そのほか痔ろう(あな痔)から出る分泌物などによって皮膚に炎症が起きる場合もあります。

治療

にともなうかゆみは、その痔に合った治療を行います。その他の場合は皮膚が炎症を起こす原因となるものの使用を避け、炎症を抑える塗り薬が用いられます。

皮膚カンジダ症

湿った赤いブツブツが生じ、小さな水ぶくれや膿を伴って軽いかゆみがみられます。

原因

カンジダ(真菌でカビの一種)によって起こります。カンジダは普段ヒトの粘膜に存在していて無症状ですが、体力が落ちているときに異常に増殖して発症します。湿っぽく、不潔な環境で発症しやすくなります。

治療

カンジダに効き目のある抗真菌薬が用いられます。排尿や排便後には、肛門周囲を清潔に保ち、湿ったままにしないことが大切です。

肛門ヘルペス

最初に肛門にぴりぴりとした痛みや水ぶくれができます。それがつぶれて皮がむけたような状態になってから気付くことも多いです。

原因

単純ヘルペスウイルスによる感染症で、ヘルペスとも呼ばれています。単純ヘルペスウイルスには1型と2型がありますが、初感染では型に関係なく、体のどこにでも感染して発症します。過労、精神的ストレス、性交渉などが誘因となり、神経を伝わって皮膚に様々な炎症を引き起こします。このウイルスは一度感染すると一生涯、知覚神経節に潜伏します。

治療

抗ウイルス剤の内服抗ウイルス剤の軟膏が用いられます。痛みなどがひどい時は鎮痛剤を内服します。

ぎょう(蟯)虫症

人間の大腸と直腸で生きるぎょう虫(寄生虫)に感染して起こります。目立った症状は特にありませんが、朝にかゆみを感じることがあります。

原因

寄生したぎょう虫の雌が夜中に肛門周囲の皮膚に卵を産み付けます。その際、肛門周囲で動き回ったりぎょう虫から分泌される粘着物質が付いたりしてかゆみが出ます。

治療

卵からかえったぎょう虫を駆除する薬を服用します。肛門周囲を手で掻くと、爪の間に卵が入り込み、それを口にすると腸の中で卵がかえるため、手を口に入れることはやめ、トイレ後や食事前にしっかり手を洗いましょう。入浴時は肛門周囲を最初に洗い流し、卵を流すようにしましょう。卵は日光に弱い性質があるので、布団を晴れた日に干すことも良いでしょう。
日差し-写真

尖圭(せんけい)コンジローマ

性感染症のひとつで、性器や肛門周囲、尿道口などにカリフラワー状の腫瘍ができます。症状を感じることはほとんどありませんが、違和感やかゆみ、痛みを感じることもまれにあります。

原因

主に性交により、ヒトパピローマウイルスが皮膚や粘膜の小さな傷から侵入することで感染します。

治療

外科的治療では、レーザー、電気メス、液体窒素などで腫瘍の切除が行われます。軽度の場合は薬物療法が行なわれます。自然にウイルスが排除されることもあります。ただ放置すると女性では子宮頸がん発症する原因の一つと考えられているため、注意が必要です。

乳房外パジェット病

皮膚がんの一種です。陰部や肛門部、わきやへそなどにできるパジェット病です。湿疹や皮膚炎様の紅斑、色素斑、白斑ができ、かゆみを伴います。高齢の男性によくみられます。

原因

分泌腺がん細胞であるパジェット細胞が表皮の内側で増殖することによって起こります。

治療

手術での切除が基本となります。体の上体が悪かったり、切除できない部位にできていたりする場合は放射線や凍結治療が行われます。

直腸脱

直腸が肛門の外へ脱出する病気です。出血や痛み、便通障害などがみられ、肛門のかゆみもみられることもあります。

原因

肛門周囲の筋肉が加齢により弱くなってくることや、発育不全によるものと考えられています。

治療

肛門の外へと脱出している直腸を外から中へと戻す手術、またはお腹を開けて腹部から直腸を持ち上げて固定する手術が行われます。

まとめ

さまざまな原因から肛門のかゆみは起こります。放っておくと悪化してしまう病気もあるので、お尻専門の医療機関である肛門外科を受診して、適切な治療を受けるようにしましょう。