通常は病院やクリニックの外来に病気の方が出向き、診察を受けると思います。在宅医療はその反対で、医師が病気の方のご自宅に伺って診察を行います。最近在宅医療が新聞などで話題になることが多くなっています。これにはいくつか理由があります。

在宅医療が必要とされる理由、サービスの実態、今後の課題などについて概観していきたいと思います。

目次

なぜ今、在宅医療なのか?2つの理由

1.2025年問題

現在日本では他国に類を見ない高齢化が進んでいます。2025年問題といわれていますが、団塊の世代が後期高齢者(※1)になると国民の5人に一人が75歳以上という状況になります。また地域間の高齢化の格差もますます進むと考えられています。これにより病院のベッドや介護者が不足することが予想されています。特に死ぬ場所、最期を迎える場所がないといった問題が出てくると考えられています。

このような現状がある一方で、内閣府による終末期の場所に関するアンケートでは7割の方が自宅で最期を迎えたいと答えています。このような結果から国を挙げて在宅医療が推進されているのです。

※1:後期高齢者…医療制度による区分で、通常75歳以上の高齢者

2.医療機器の進歩、IT化

医療機器の小型化やカルテの電子化、モバイル化が進み、在宅医療の普及に拍車をかけています。今まで病院でないとできなかった検査や治療が、自宅で行うことができるようになってきたためです。例えば超音波検査や内視鏡はもちろん歯科領域では自宅でレントゲンも撮影できるようになりました。

また、ICT(※2)の普及により検査やカルテ情報が病院間、サービス間で情報共有できるような環境も整備されつつあります。

※2:ICT…Information and Communication Technologyの略。情報通信技術のこと。

在宅医療の実際

在宅医療の対象になるのは病院への通院がたいへんな方々です。例えば、私たちのクリニックではパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などの神経難病や脳血管障害による身体麻痺のある方が半数、他に認知症の方や癌末期の方などの診療を行なっています。

自宅では通常の診療に加え、人工呼吸器や点滴などの管理、緩和ケアなどを受けることが可能です。最近ではご自宅で看取りまで行うことも増えてきています。

通常は月に2回ほど、あらかじめ相談した日時でご自宅に伺い診療を行います。診療の時間は病状で変わりますが、概ね20分程度です。血圧などの確認と、全身の診察、必要な検査など行います。薬が必要な方は処方箋を発行します。またそれ以外に具合が悪くなった場合は、臨時で往診を行います。

特に在宅支援診療所といわれる在宅医療を中心に行っている医療機関では、24時間365日対応できるようになっています。

在宅医療にかかる費用

医療にかかる金額の考え方

移動時間なども考慮すると、在宅医療は通院の場合と比べて医師が一人あたりの患者さんにかける時間が増えるため、それに応じた診療報酬が設定されています。診療報酬とは簡単にいえば医療費のことです。

まず、入院などの長期療養にかかる費用は、診療・治療・検査などにかかる医療費に、オムツなどの日用品費、入院の場合は室料差額を加えた金額です。このうち、医療費については「自己負担限度額」により患者さんの負担する金額には一定の制限があり、下記の金額が設定されています。

  • 非課税世帯:8,000円/月
  • 1割・2割負担の方:12,000円/月
  • 3割負担の方:44,400円/月

自己負担限度額とは、高額療養費制度により定められた個人が負担すべき医療費の上限のことです。医療費の家計負担が重くならないようにする目的で設けられており、各種の手続きをすれば、患者さん個人が一か月に支払う医療費を軽減することができます。

こうして、患者さん一人が負担する医療費は、

自己負担限度額+室料差額+日用品費・おむつ代など

となります。

在宅医療により軽減する患者さんの金銭的負担

在宅医療のサービスを利用した場合、患者さんにとっては医療費の部分は自己負担限度額により変化がありませんが、室料差額・日用品費の部分の負担を軽減することができます。

室料差額は病院によりさまざまですが、数千~数万円の金額が設定されていることが多く、この部分は高額療養費制度による負担軽減の対象にはなりません。もちろん、室料差額の発生する病床を断ることもできますが、病床に空きがないために使用することがやむを得ない場合もあります。さらに日用品費については、おむつ代や食事代、利用する場合には着替え代やテレビ代などがかかってきます。

40兆円を超える国の医療費も、在宅医療の利用で負担減

次に、医療費もあわせて見てみましょう。在宅医療の医療費は、自宅の環境や必要な処置、検査、薬剤などで多少費用が変わります。また、胃瘻、在宅中心静脈栄養、在宅酸素、在宅人工呼吸療法など特別な治療をお受けの場合、あるいは、注射などの治療や一部の検査を受けている場合、自己負担は増えます。特別な治療を受けない後期高齢者が月2回の訪問診療を受けた場合の金額は、基本的には下記のようなイメージになります。

  • 1割負担:約7,000円/月
  • 2割負担:約13,000円/月

入院(一般・緩和ケア)と比較すると、

  • 1割・2割負担の方:医療費最低約¥65,000~/月 +室料差額+日用品費・おむつ代(平均的に約30万~45万円/月くらい)
  • 3割負担の方:医療費最低約¥110,000/月 +室料差額+日用品費・おむつ代(平均的に約35万~50万円/月くらい)

が、平均的な金額です。なお緩和ケア病棟の場合の医療費は約¥50,000/日(1割負担で約¥5,000/日、3割負担で約¥15,000/日)で、月あたりにかかる金額はもう少し高い金額になります。また、療養病床は、制度が細かいので詳細は割愛しますが、

  • 1割・2割負担の方:医療費最低約¥100,000~/月 +室料差額+日用品費・おむつ代(平均的に約35万~60万円/月くらい)

です(参考:厚生労働省|医療費の自己負担について(PDF)より)。このように、医療費の部分が大幅に削減できることがわかります。個人が負担する金額には限度が設けられているものの、およそ40兆円もの医療費が国家の財政を圧迫している昨今、現在の制度を維持することが難しくなってきています。医療費の削減はもはや他人事ではなく、一人ひとりの問題といっても過言ではない状況です。

主な在宅サービス

訪問看護-写真

このように在宅医療を受けられる患者様の多くは介護保険の適応になる方々なので、他の医療や介護サービスを受けられています。在宅医療では特にIPW (inter-professional work :多職種連携) の重要性が高まっています。IPWとは様々な専門職が患者や家族の問題を協働して解決して行こうという理念です。その理由は治療一辺倒であった医療が生活モデルへシフトしてきたこと、独居世帯などの家族機能の低下などの介護上の問題ケースが増加してきていることなどが考えられています 。

主な在宅医療のサービスの一覧を載せました。

訪問看護

看護師が訪問し、身体の観察や医師の医療行為の補助、排泄の管理などを行います。

訪問介護

日常生活の身体介護(オムツの交換など)や生活援助(食事や洗濯、買い物など)を行います。しかし、ほとんどの医療行為や他の家族への援助や日常生活以外の援助(庭の掃除、ペットの散歩など)はできません。

訪問歯科

歯科医師が訪問し、口腔内のケアや歯科治療、嚥下の評価や指導を行います。

訪問薬剤師

薬剤師が自宅へ薬を届けるだけでなく、副作用の確認や服薬状況の確認、服薬指導などをおこないます。

訪問リハビリ

自宅へ理学療法士や作業療法士が訪問し、リハビリを行います。

訪問入浴

自宅へ専用の浴槽を持参し、脱衣から入浴後の状態確認まで、入浴をサポートするサービスです。

他に訪問のマッサージや美容師、弁当の配食などの保険外のサービスもあります。これらの介護サービスの調整を行なってくれるのがケアマネージャーという職種の方々です。

在宅医療の限界と今後の課題

在宅医療で行える医療にも限界があります。実際は救急時など救急車での搬送を依頼しなければならない場面もあります。また、残念ながら24時間医療者がそばにいることはできませんので、多くの時間をご家族にサポートしていただく必要があります。しかしこの点については、ご家族に求められるサポートがきちんと共有・指導されることで、解決できる部分もあります。今後、家族による介護のノウハウが蓄積されていく必要があります。

健康寿命を延ばす予防医学も叫ばれていますが、残念ながら誰もがいつかは高齢者となり、介護が必要な状態は訪れます。地域で高齢者などの身体的弱者の方々の医療と介護のサポートをどのよう行っていくか、診療所、病院、在宅医療とシームレスな連携が急務となっています。

最後に~在宅医療をはじめるには~

病院への通院ができない、外来での待ち時間が耐えられないなと感じたら、それは在宅医療を導入するタイミングかもしれません。そのような場合はまず主治医の先生に相談しましょう。クリニックなどでは主治医の先生がそのまま往診してくれることもあります。また病院にある医療相談室や地域の介護事業所のケアマネージャーなどに相談してみるとより具体的に相談に乗ってくれます。