皆さんは「ギラン・バレー症候群」を知っていますか?あまり聞き慣れない病名ですが、実は誰にでも発症する可能性があります。また発症した人のほとんどは回復しますが、後遺症が残ったり重症の場合は死亡したりする例もあります。今回はギラン・バレー症候群に関する基礎情報や原因、症状、似た他の病気を説明します。

目次

ギラン・バレー症候群発症のメカニズム

病原体が体に侵入すると、免疫の働きによりその病原体を攻撃するための抗体が作られます。ギラン・バレー症候群ではその抗体が、神経組織を病原体と勘違いして攻撃してしまいます。その理由は、ある種の病原体の構成成分が神経組織に似ていることから、作られた抗体が誤って自分の身体である神経に対して攻撃してしまう(自己免疫的機序)ことが原因と考えられています。

ギラン・バレー症候群を発症した約6割強の患者さんは、発症する1~3週間前に風邪、下痢など何らかの感染症の症状が出ていることが報告されています(KOMPAS(慶應義塾大学病院)より)。

神経は脳から脊髄まで伸びている中枢神経、中枢神経から枝分かれして体の隅々まで分布している末梢神経に分かれています。ギラン・バレー症候群ではこのうち、末梢神経が障害を受けます。

末梢神経には体を動かす運動神経、感覚を伝える感覚神経、呼吸などを無意識に行う自律神経が含まれます。ギラン・バレー症候群になると、これらの末梢神経が障害されてしまうため、手足に力が入らなくなったり、感覚が鈍くなったり、血圧・心拍数変動などの症状が現れます。

患者は男性の方が若干多い傾向があります。

原因となる細菌やウイルス

感染する病気の種類と割合は、カンピロバクター・ジェジュニ(腸炎病原菌)が32%と最も高いです。このほかサイトメガロウィルス(ヘルペスウイルスの一種)の13%、エプスタイン・バールウイルス(ヘルペスウイルスの一種)の10%、肺炎マイコプラズマ(肺炎のもとになる病原菌)の5%と続きます(全部見える脳・神経疾患 p.307より)。

カンピロバクター・ジェジュニは鶏肉に潜んでいる確率が高く、食中毒の原因菌の一つです。食中毒症状が出てから末梢神経障害が出現した場合は、カンピロバクター・ジェジュニ感染後のギラン・バレー症候群を疑い、検査で診断が確定すれば、できる限り早めに治療を始めることが必要になります。

医薬品が発症のきっかけになるのはまれ

ワクチン接種による影響でギラン・バレー症候群を発症する人もいますが、非常にまれです。

発症する割合は、インフルエンザワクチンで接種者100万人に対して1~2人程度です。他にもポリオワクチン、肺炎球菌ワクチンでも発症が報告されていますが、ワクチン効果のメリットの方が大きいため、ワクチン接種が推奨されています。

ただ過去にギラン・バレー症候群になった経験がある人は、接種前に医師と必ず相談しましょう。

このほかインターフェロン(肝炎治療)、ペニシラミン(関節リウマチ治療)、ニューキノロン系抗菌薬(感染症治療)、抗ウイルス化学療法(HIV治療)でもギラン・バレー症候群を発症する可能性はあります。過去に発症歴のあるひとは医者に伝えておきましょう。

主な症状は運動麻痺

呼吸器を装着する男性-写真

風邪、下痢などを発症した後、数日から3週間ほど経過して「手足に力が入らない、感覚がない」といった運動麻痺症状がみられます。ワクチン接種による場合は、接種から数日~6週間以内に症状がでます。

症状の出方は完全に左右対称というわけではありませんが、多くは片側に症状が出た場合、もう片側にも症状が出ます。

その後「食べ物、飲み物を飲み込めない」「目、口が閉じられない」「物が二重に見える」などの嚥下障害、眼球運動障害症状が現れることもあります。症状が重いと呼吸する力も麻痺し、人工呼吸器管理が必要になります。

発症から4週間ほど経つと、徐々に回復し始めます。一般的に治りは良い病気です。一方で一部の人に後遺症が残ることもあります。

類縁疾患「フィッシャー症候群」

物が二重に見える、運動失調、腱反射の低下や消失といった症状がでるフィッシャー症候群は、ギラン・バレー症候群の亜型(特殊な形)です。ギラン・バレー症候群と同様に先行する感染症のあと、自己免疫によって神経が攻撃されることで発症します。男性が多い点も似ています。

ギラン・バレー症候群は四肢の筋力低下が主な症状ですが、フィッシャー症候群は下記3症状が主となります。

外眼筋麻痺

目を動かすためには外直筋、内直筋、上直筋、下直筋、上斜筋、下斜筋という6種類の筋肉からなる外眼筋が必要です。その外眼筋が麻痺すると見たい方向に眼球を動かせなかったり、物が二重に見えたりします。

運動失調

神経が自己免疫によって攻撃されるため、ふらつき、歩行困難が生じます。

深部反射の消失

座った状態で膝を叩くと足が勝手に前に出ますが、これは膝蓋腱反射(深部反射)と呼び、フィッシャー症候群患者さんはこの反射が低下、消失します。深部反射の消失はフィッシャー症候群だけでなく、ギラン・バレー症候群も含めた末梢神経疾患に共通して認められる所見です。

まとめ

ギラン・バレー症候群は治りが悪い病気ではありませんが、症状が重篤、または症状がピークを迎えるまでに期間の長い人ほど後遺症が残りやすくなります。風邪など引いた後に麻痺が出始めたら速やかに神経内科を受診しましょう。