お子さんの包茎のことを相談すると「放っておけばいい」という意見を聞くことが少なくないと思います。これもある意味「正しい考え方」です。では、なぜ岩室紳也という泌尿器科医がここまでこだわって子どもの包茎に向き合っているのでしょうか。それは、「親が、誰かがちゃんとむいて洗うということを教え、そのことが習慣づいていたらトラブルに巻き込まれずに済んだのに・・・」と思うケースを数多く見てきたからです。

目次

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「包茎を正しく扱う」とは?

「子どもの包茎」医師が教えるおちんちんの基礎知識』で何よりご理解いただきたかったことは、「包茎」という状態は子どもにとって正常な状態だということです。しかし、「包茎」はあくまでも子どもにとって正常な状態だというだけで、そのまま放っておいても問題はない状態だということではありません。車を坂道に限らず停車させる際に、必ずブレーキをかけるように、その状態、特性を正しく理解し、きちんと扱わなければいろんなトラブルが起きます。

「包茎」という正常な状態によるトラブルを回避するには、何よりも先の記事で紹介したいわゆる「仮性包茎」の状態にすることです。どうやって「仮性包茎」の状態にするかは、もう少し「なぜ仮性包茎の状態にする必要があるか」をご理解いただいてから解説します。その前に、「包茎」を正しく扱わないことで起こり得るトラブルについて紹介します。

子どものときに起こるトラブルの代表例は、不本意ながらトイレを汚す、立っておしっこをする立ちションができない、亀頭包皮炎、ミクロペニスという誤診、埋没陰茎の診断で不安、バルーニングによる腎不全などです。ただ、「包茎」を正しく扱っていないからといって、全員がこれらのトラブルに巻き込まれるわけではないのでそこは誤解しないようにしてください。

トイレ事情の変遷

最近、昔の和式のトイレがめっきり少なくなりました。もちろん、まだ学校などの公共施設で和式のトイレがありますが、家では洋式なので、学校のトイレを和式から洋式のトイレに変えて欲しいという要望が保護者から出ているようです。ただ、大便用の便器が和式から洋式に変わっても、公共施設での男子の小便用の便器は健在です。これは男子の場合、いちいち個室に入っていたら小便でのトイレの回転率が低下し、大混乱になるからです。

ところが、近年、この小便用の便器を上手く使えない子どもたちが増えています。その理由はちゃんと家庭で立ちションの方法を教えていないからです。

立ちションができない

小さい男の子が排尿時におしっこが便器から外れて床などを汚すため、保護者、特にお母さんの中には「トイレを汚すから便器に座っておしっこをしなさい」と躾けている方がいらっしゃいます。「何がいけないのですか?」と反論を受けそうですが、家で立ちションをさせないでいると、社会に出たときに立ちションができず、本人が困ってしまいます。それこそ、「お前は一日に何回ウンチをするんだ」とからかわれて「(トイレに行くとからかわれるため)保育園に、幼稚園に、学校に行きたくない」という事例もあります。

むいて一歩前へ

立ちションをしてトイレを汚した息子さんに「ちゃんと便器を狙ってしなさい」と叱った経験をお持ちのお母さんはいないでしょうか。この叱り方、アドバイスは息子さんを混乱させるだけです。息子さんは頭の中で「ちゃんと狙ったのにまっすぐ飛ばなかったんだ。お父さんはちゃんと命中しているのに、僕はどうして狙ったのにまっすぐ飛ばなかったんだろう???」と考えています。そのような疑問が頭の中を駆け巡っている息子さんには、ぜひとも科学的なアドバイスをしてあげてください。では、どうして狙ったのにまっすぐ飛ばなかったのでしょうか。

腎臓でつくられたおしっこは膀胱に貯められた後、尿道を通って外尿道口から対外に出されます。しかし、外尿道口の先には包皮があるので、包皮をかぶったままおしっこをすると、その包皮にぶつかった尿は意図しない方向に飛んでいきます(図1)。そこで、包皮をずらして外尿道口が露出した状態で排尿すると、尿線は狙った方向に飛んでいきます(図2)。ぜひ包皮を剥いて排尿することを教えるためにも、便座のふたの裏に「むいて一歩前へ」のシールを貼っておくことをお勧めします。

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亀頭包皮炎

昔から「ミミズにション便をかけるとちんちんが腫れる」と言われてきたように、男の子がおちんちんを腫らす亀頭包皮炎は多くの男の子が経験することです。亀頭包皮炎とは、字のごとく亀頭とそれを覆っている包皮に炎症が起こることをいい、小さい赤ちゃんから大人まで、不潔にしていれば男の子なら誰でもなる可能性があります。これまで亀頭包皮炎になって私の外来を受診したお子さんは423例(2017年4月現在)ですが、全員に共通していたのが、包茎を正しく扱っていなかったということです。

亀頭包皮炎が起こる原因は、包皮口から亀頭部と包皮の間のすき間に細菌が入り込むためです。「ミミズにション便をかけるとちんちんが腫れる」という言い伝えは、実はかなり合理的な言い伝えです。正確に補足すると「小さい男の子がミミズを土の中からほじくり出す時に手が汚れ、手に細菌が付いた状態のまま、ミミズにション便をかけようとしたものの、包皮が邪魔をしたためおしっこがまっすぐ飛ばず当たらない。方向修正をしようと汚い手でおちんちんの先をいじっている間に包皮の中に細菌が入っておちんちんが腫れる」のです。しかし、仮にミミズをいじったり、ション便をかけたりしている間に細菌が包皮の中に入ったとしても、その夜、お風呂の時に包皮をむいて包皮内をきれいに洗えば亀頭包皮炎を起こすことはありません。

最近、無菌グッズが大流行りですが、周りの環境も、人間の体も細菌だらけです。人間が生きている限り、手に、体に、そしておちんちんに細菌が付くのは避けられません。大事なことは細菌をどう遠ざけるかではなく、細菌が体に害を及ぼさないようにするためにどうすればいいかをきちんと理解し、そのための行為を習慣づけておくことです。包茎であれば、包皮をきちんと剥いて、包皮内の、亀頭部の清潔が保ち続けることです。

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バルーニング

少し脅かすようで恐縮ですが、「たかが包茎、されど包茎」と言える深刻なトラブルと考えていただきたいのが「バルーニング」です。おしっこをするときに、風船(balloon)のようにおちんちんの先っぽが膨らんでしまう状態です(図3)。このバルーニングは時としてとんでもない重大な事態を招くことがあります。

このバルーニングは、包皮口が狭いために、外尿道口から出たおしっこがかなりいきまなければ包皮口から出ないことで起こります。そのため、包皮と亀頭部の間におしっこが溜まっておちんちんの先が膨らみます。正常であれば膀胱に溜まったおしっこは腎臓に逆流することはありませんが、おしっこを絞り出すように膀胱に力を入れ続けていると、時として膀胱に溜まった尿が腎臓に逆流し、最悪の場合、逆流性腎不全という状態を引き起こすことがあります。

私のおちんちん外来を受診した3,266人中、27人(0.83%)がバルーニングを訴えて受診しましたが、この数はあくまでも排尿時の亀頭部の状態が観察でき、かつそのことを問題として意識できた保護者たちの数です。このようなケースは必ず膀胱と腎臓の超音波検査を行い、腎臓等に影響が出ていないことを確認するようにしています。当然のことながら排尿時の状態を見たことがない保護者はバルーニングの存在どころか、そもそもどのように排尿が行われているかも分かっていないでしょう。

バルーニングを診断したときは、短時間で包皮口を広げ、まずはバルーニングという状態を解消するようにします。いわゆる仮性包茎にするための指導はその後にゆっくり行うようにしています。排尿時にバルーニングが起こっていなければ、それこそ包皮を剥くべきか否かは一人ひとりの判断次第ですが、バルーニングが起こっていれば、その状態はできるだけ速やかに、医学的に対処すべき状態となります。

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ミクロペニス・埋没陰茎

バルーニングが積極的な対処が必要になるおちんちんにまつわる重大な危機だとすると、正確な理解がないまま、保護者に不安だけを与えているのが「ミクロペニス」「埋没陰茎」です。

おちんちんの構造を理解しないまま、包茎のことを語ったり、見た目だけでミクロペニスや埋没陰茎などと診断したりする専門職の方が多いことに危機感を持っています。だからこそ読者の皆さんが、正確な情報をもとに、自らがきちんと判断しなければならない時代になったといえます。

図4の2つのおちんちんを見てどのように思いますか。見た目だけだと、右側が「小さ過ぎ」、「異常」、「かわいそう」、「将来困る」と思ってしまうかもしれません。ここでどのような反応をするかでおちんちんの構造をきちんと理解しているか否かがわかります。


おちんちんの状態を正確に評価するためには、見た目、すなわち、何もしない状態で目に入ってくる情報だけで判断をしないことです。おちんちんの構造、解剖で紹介した亀頭部の大きさや陰茎海綿体の長さをきちんと見極めて評価してください。図4だと見えている範囲では、左右のおちんちんに大きな差があるように見えます。しかし、断面図を見ると、亀頭部の大きさは全く同じだということもわかります(図5)。

おちんちんは亀頭部だけでできているのではないので、次に陰茎海綿体の長さを確認、評価します。小さいお子さん、特に乳児のときはおちんちんの周囲の皮下脂肪が多く、パッと見ただけだとおちんちんが小さく見える子が少なくありません。しかし、皮下脂肪を押し下げながら、陰茎海綿体を触ってみると、他の同年齢のお子さんたちと何ら変わらない長さや太さがあることに気づけます(図6、図7)。

おちんちんの構造をきちんと理解していない専門職は「ミクロペニス」や「埋没陰茎」といった病名をつけがちですので、こう言われたときは、まずは保護者がおちんちんの周囲の皮下脂肪を陰茎の根元に押し付けながら、陰茎海綿体の長さを直接触れていただき、「ちゃんとサイズがある」ことが確認できれば特に受診する必要もありません。

逆にここを読んでくださっている専門職の方は、ぜひ相談を受けたときは、ご自身でちゃんと陰茎海綿体の長さを確認するだけではなく、保護者の方にも触ってもらって、十分なサイズがあることを納得してもらってください。

ミクロペニス・埋没陰茎こそきちんとむきましょう

「ミクロペニス」や「埋没陰茎」といわれたおちんちんはほぼ全員その時点でいわゆる亀頭部を全く露出できない真性包茎です。これらのケースには必ず包皮翻転指導(むきむき体操)をお勧めし、早い段階で仮性包茎の状態にするように指導しています。そのままにしておくと、亀頭部や陰茎海綿体が成長する際に、亀頭部が押さえつけられた状態のままで、陰茎が伸びようとした時期に成長を阻害する可能性があるからです。

たかが包茎、されど包茎です。

さらに、次回記事に向けて…(編集部より)

「立ちション」は男性であれば当然のようにできることと思っていた方、立ちションができないお子さんが増えているという話を初めて耳にする方は、多かったのではないでしょうか。男性の陰茎にまつわる悩み・問題は、女性であるお母さんにとっては具体的に想像しづらくて当然のことかもしれません。

しかし、先生が仰るように「たかが包茎、されど包茎」です。きちんとした知識をもって正しく扱うことが、重大な健康被害を避け、不要な不安・心配を解消することへとつながります。

次回記事では、いよいよ包皮翻転指導(むきむき体操)のご紹介です。具体的な方法だけでなく、指導のタイミングなどについて詳しく解説します。