子供の頃、夜寝ているときにお漏らしをしてしまった経験は多くの方がお持ちだと思います。睡眠中に排尿してしまうことを「おねしょ」「夜尿症」といい、基本的に成長するにつれて自然となくなっていきます。しかし、ある程度大きくなってくると学校でのお泊りの行事があるなど、本人や家族の方も気になるようになります。

そもそも「おねしょ」はどんな原因で起こるのでしょうか?子供のおねしょは治療が必要なのでしょうか?また、治療が必要な場合、どんな治療法、トレーニングがあるのでしょうか?

目次

「夜尿症」とは?

夜尿症とは「5歳を過ぎて週に2回以上の頻度で、少なくとも3か月以上の期間において夜間睡眠中の尿失禁を認めるもの日本泌尿器科学会より)」と定義されています。生まれたばかりの赤ちゃんはみんな「おねしょ」をしますが、成長するにつれ少しずつ排尿機能が備わっていきます。これは、おしっこが溜まる感覚やトイレに行きたいという感覚を覚え、膀胱が発達してある程度おしっこを溜められるようになるためです。

排尿機能の発達は個人差が大きいため「夜尿症」は決して珍しい症状ではなく、5歳で15~20%、10歳で5~10%ぐらいの子供にみられます(東京女子医科大学病院より)。

夜尿症の3つのタイプとは?

夜尿症の原因として考えられることは多岐にわたりますが、主な原因は夜間の尿量が多いことと、夜間に膀胱が尿をためることができる容量が少ないことであるとされています。どちらにしても、夜間の尿量が、夜間の膀胱の許容量を超えることで夜尿症につながります。

夜尿症は、以下の3つのタイプ(病型)に分けることができます。

  • 多尿型:夜間の尿量が多く、膀胱の容量が正常なタイプ
  • 膀胱型:夜間の尿量が正常で、膀胱の容量が小さいタイプ
  • 混合型:夜間の尿量が多く、膀胱の容量が小さいタイプ
  • 正常型:夜間の尿量が正常で、膀胱の容量が正常なタイプ

夜尿症の原因とは?

夜尿症になるのは、子供の性格に問題があるのではないかと心配される方もいらっしゃるようですが、一般的にはそのようなことはありません。また、特に原因が不明な正常型夜尿症もあります。

夜尿症の原因と考えられることを以下に挙げてみましょう。

夜間の尿量が多い

夜間の尿量のコントロールには、抗利尿ホルモンが関係しています。このホルモンは、通常、昼間は少なく夜間は多く分泌されるので、夜間の尿量は昼間の尿量よりも少なくなります。しかし、子供はまだホルモンの分泌が不安定なこともあり、夜間の抗利尿ホルモンの分泌が少なく夜間の尿量が過多になる場合があります。

膀胱の機能が未熟

膀胱の容量が少ない、尿がたまると膀胱が収縮するなど、膀胱の機能が未熟であるということもあります。膀胱の機能は成長するに伴って発達し、夜間は昼間の尿量の1.5~2.0倍くらいためることが可能になりますが、膀胱の発達にも個人差があります。

その他の原因

水分の摂り過ぎ、塩分の摂り過ぎ

普段の生活習慣の中で、水分や塩分を摂り過ぎることで尿量が多くなります。特に、就寝前に水分の摂り過ぎに注意することで症状が改善することもあります。また、塩分が多い食事や間食をすると喉が渇くので、その結果、水分を多く摂ってしまいます。

ストレス

心理的なストレスは自律神経の働きに影響します。自律神経は脳の視床下部(全身のホルモン分泌をコントロールする器官)と深くかかわっているため、心理的なストレスがホルモン分泌に影響し、夜尿症を引き起こすことがあります。

膀胱、腎臓の器質的な原因や基礎疾患

ごくまれですが、膀胱や腎臓の奇形などが原因となる場合があります(膀胱・腎臓の器質的な原因)。昼間の尿漏れがある場合は、こうした器質的な原因が疑われます。また、多尿の原因となる糖尿病尿失禁の原因となるてんかん発作などの基礎疾患(ある病気や症状の元となる病気)も夜尿症の原因となることがあります。

受診の目安は?

金髪の男の子

夜尿症の多くは徐々におさまっていくものですので、過剰な心配は不要です。しかし、おねしょをしてしまうことによる本人の自信喪失や泊まりで出かける際のストレスなど、本人や家族の精神的負担が大きいこともあります。

小学校に入る頃にも夜尿が続いている場合には、小児科や泌尿器科の受診が勧められています。また、夜尿だけでなく日中に尿や便を漏らす場合には、原因疾患が隠れている場合があるので医療機関を受診するようにしましょう。

また、夜尿症の治療においては起こさず、焦らず、叱らないが原則です。起こしてトイレに連れて行っても、それはトイレでする夜尿ということになるので、夜尿は治りません。

生活指導、トレーニング

最初は、排尿を自分でコントロールできるよう生活習慣の改善や、トレーニングにより、生活指導を行います。

規則正しい生活を習慣にする

規則正しい生活は、膀胱や尿道の働きを調節する自律神経の働きを整え、抗利尿ホルモンが夜間に適正に分泌されることにもつながります。就寝時間、起床時間、食事の時間を毎日一定にするように心がけましょう。

水分摂取のリズムを意識する

水分の摂取リズムに関しては、夜尿症のタイプの多尿型、混合型には特に重要となります。夜尿対策で水分を減らす場合は、ただ減らすだけではなく午前中は多めに摂り、午後は減らし気味にし、夕方以降は制限するようにし、水分摂取にリズムを作ることが大切です。特に寝る2~3時間前からは摂取を控え、摂取が必要な場合でも200ccまでに留めましょう。

おしっこを我慢する訓練をする

膀胱型の場合は特に重要です。膀胱の容量を増やすためにはおしっこを我慢する訓練が効果的です。しかし、あまり我慢しすぎると腎臓を痛める危険がありますので、注意しながら行います。

 

排尿時に、膀胱にたまった尿を出し切れない人がいます。そのため、就寝前には1時間前と直前の2回トイレに行きます。また、排尿中に一時排尿を止める練習は尿意による覚醒を誘導することがあります。

お薬による治療とアラーム療法

投薬治療

投薬による治療は、以下の薬剤を単独または複数を組み合わせて行います。処方の内容は年齢や症状によって変わります。

抗コリン剤

膀胱の収縮を抑制し膀胱の働きを安定させることで、膀胱に溜まる尿量を増やす目的で使用します。アラーム療法などと組み合わせることではじめて効果があります。子供の場合副作用は少ないとされていますが、頭痛、めまい、喉の渇きを訴えることがあります。

三環系抗うつ薬

尿意覚醒作用、尿量減少作用、抗コリン作用があります。古くから夜尿症の治療薬として使用されていますが、最近はあまり使用しません。心毒性、肝障害などの副作用が生じる場合があるため、医師の指示に従い、経過観察を行いながら服用していきましょう。

抗利尿ホルモン剤

寝る前に抗利尿ホルモンを補うことで夜間尿量を減少させます。服用時は、水を摂り過ぎると水中毒になる恐れがあるため、夕食から就寝時までは水分を摂り過ぎないよう注意が必要です。

アラーム療法

下着に取り付けた水分感知センサーによって、夜尿の際アラームが鳴り覚醒させる仕組みになっています。これは、センサーによって尿意覚醒(尿意で目が覚める)を促すのではなく、睡眠中に排尿を我慢する訓練となり、結果、膀胱容量を増加させる目的です。

まとめ

夜尿症は、多くが自然におさまっていくものですが、小学校に入ってからも続く場合などは、やはり心配になるものです。夜尿症は日常の生活を見直すとともに医療機関でも治療を受けることができます。また、まれに隠れた病気がある場合もありますので、一度医療機関に相談してみると良いでしょう。