南米出血熱は、南米大陸で見られる出血熱の総称で、アルゼンチン出血熱、ブラジル出血熱、ベネズエラ出血熱、ボリビア出血熱、チャパレ出血熱が含まれます。アルゼンチン出血熱以外の発生は稀ではありますが、日本では、危険性が極めて高いとされる1類感染症に分類されています。日本での2007年4月~2011年末の報告では、感染は0件という感染症ではありますが(横浜市衛生研究所より)、最近ではリオ五輪の開催が記憶に新しく、また発生地域はサッカー関連での行き来の多い地域でもあるので、まったくの他人事とは考えず知っておいてもよい感染症ではないでしょうか。

目次

発生地域と感染源は?

発生地域は名前のとおり、アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ、ボリビアといった、南米の地域で見られます。(チャパレ出血熱はボリビア出血熱患者から発見された新種のウイルスが原因で、ボリビアで見られる感染症です。)

それぞれ原因となるウイルスは少しずつ異なりますが、アレナウイルス属という同じ属性のウイルスが原因となるため、南米出血熱として総称されます。

ネズミ類がウイルスを保有しており、ネズミ及びネズミの糞尿によって汚染された食品を食べたり、汚染された食器を使ったり、塵や埃を吸いこむことで感染します。また、稀にですが、高度のウイルス血症となった患者の血液や体液に触れることから、ヒトからヒトへの感染が起こることがあります。

潜伏期間と症状、経過

潜伏期間は7~14日です。症状が見られる頃になると、発熱、筋肉痛、悪寒、背部痛、消化器症状がみられ、その後、衰弱、嘔吐、目まいなどが出現します。重症例では高熱、出血傾向、ショックをおこすことがあります。

特徴的な症状は歯肉からの出血で、皮下や粘膜からの出血をおこします。見た目に出血がなくても、圧迫すると出血が見られることもあります。

舌や手の振戦(ふるえ)から、せん妄、こん睡、痙攣といった神経症状が出ることもあります。こうした重篤化した症状がみられるのは患者さんの20~30%で、発病から8~12日後に見られます。有効な治療が行われない場合、致死率は10~30%とされています(横浜市衛生研究所より)。

回復へ向かう場合では10~13日目あたりから、症状が寛解傾向となります。しかし、しっかりと回復するまでには最終的には数ケ月かかることが多いようです。

予防・治療はできる?

予防法

日本国内では利用できる予防接種はありません。

アルゼンチン出血熱に関しては、アルゼンチン国内においてのみアルゼンチン出血熱の弱毒性ワクチンがあり、定期予防接種のひとつです。しかし、15歳未満には使用できないことから、15歳未満では患者数の割合が高い傾向にあります。

予防接種のない他国から流行地域へ赴く場合には、手洗い・うがいといった基本的な感染症対策に加え、

  • ネズミ類がいるような不衛生な場所に近寄らないようにすること
  • 汚染された食品を摂取しないようにすること

が予防策として推奨されています。アルコールや加熱、紫外線照射などによる消毒が有効な場合もあるようです。

また、流行地域ではネズミの駆除を行うこともあります。

治療法

治療にも特効薬のようなものはなく、症状に応じて対症療法を行います。

なお、アルゼンチン出血熱に対しては、抗ウイルス薬のリバビリンを投与することで、致死率を下げる可能性が示唆されています。そのため、アルゼンチン出血熱に感染した可能性のある人に対してこれらの治療を予防的に行う場合があります。

発生について

ネズミ-写真
冒頭で記載した通り、日本では2007年4月~2011年末の報告において南米出血熱の感染は0件です。発症例の多いアルゼンチン出血熱は、アルゼンチン国内において、近年では年間30~50人程度の患者が確認されています(横浜市衛生研究所より)。年によって変動はありますが、過去に年間3500人の感染を認めたことを思えば、ずいぶんと少なくなっている様子ではあります。アルゼンチン国内での感染対策の結果が出ているということでしょうか。

まとめ

発生数の多いアルゼンチン出血熱からの情報が多いのが現状ですが、予防接種以外の予防についてはほかの南米出血熱も同様です。発生地域に旅行される場合などでは、参考にしていただきたいと思います。