交通事故や脳卒中などで脳にダメージを受けると、記憶障害や失語症といった高次脳機能障害が現れる可能性があります。そのうちの一つに、半側空間無視という症状があるのを知っていますか?今回はなかなか聞き慣れない言葉である半側空間無視の原因や症状、リハビリなどについて紹介していきます。

目次

高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは、頭部外傷脳血管障害、感染症による脳炎、低酸素脳症などを原因として脳の一部が障害されることで生じる機能障害です。

運動麻痺や感覚(触覚、温痛覚など)の低下とは異なり、言語や思考、記憶、学習、注意などに異常が生じます。その結果、性格変化や注意力・集中力の低下、記憶力の低下などの症状として現れます。

詳しくは「性格まで変わる!?高次脳機能障害の原因と5つの症状」をご覧ください。

半側空間無視の原因

脳(大脳)は大きく前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つの領域に分かれています。半側空間無視は、頭のてっぺんにあたる頭頂葉のうち後方にある下頭頂小葉上頭頂小葉の障害によって生じます。

このほか側頭葉と頭頂葉の接合部や、後頭葉の内側の障害によって生じることもあります。そのため空間を認識する機能は脳の広い領域に渡っていると考えられています。

左右に分かれる脳のうち、物事に注意を向ける機能は主に大脳の右側が担っています。なので右の脳に障害が生じた場合に、半側空間無視は現れやすくなります。

脳は身体の右側の情報は左脳で認識・処理し、左側の情報は右脳で認識・処理しています。そのため右の大脳が損傷すると左半側に無視が起こります。左脳の損傷によって右半側空間無視が起こることもありますが、その頻度は低く、軽症かつ早期に改善することが多いといわれています。

左半側空間無視の症状

半分だけお皿に残ったパン

半側空間無視は、視界に人や物体は入っているものの、それを認識することができない状態です。

よく知られている症状としては次のような行動がみられます。どれも障害に気付いていない側に起こります。

  • 食べ物をお皿の片側だけ残してしまう
  • 歩いていると体の片側だけ物体に身体をぶつけやすい
  • 片方から声をかけられても気付かない

半分が全く見えていないわけではなく、視界に入っているのに注意が向かないというのが半側空間無視の病態です。目の障害ではなく、意図的に無視しているわけでもありません。

半側空間無視の代表的な検査

半側空間無視の有無、重症度を調べるための検査を一部紹介します。

線分抹消試験

紙全体に40本の線をランダムに引いたものを用意し、その線1本1本に印をつけるよう指示します。

左半側空間無視の場合は紙の右半分にある線には印をつけますが、左半分にある線に気付かず印がついていないことが多いです。

線分二等分試験

A4程度の紙に1本の長い線を引き、「真ん中に線を引いてください」と指示します。左半側空間無視の場合、もともとの線の左半分を無視するため左右のバランスが悪い場所に線を引きます。

模写試験

時計などの左右対称的な簡単な絵を提示して、それを見ながら白紙に書き写す試験です。左半側空間無視の場合、時計であれば7~11あたりの左側の文字盤を書かずに終了してしまいます。

半側空間無視のリハビリ

半側空間無視のリハビリには、注意がいかない方向に意識を向けさせる方法が取られます。いくつか紹介します。

体幹回旋

左半側空間無視の患者さんでは注意が右に向いているため、首が右に回旋した状態を維持していることが多くなっています。この状態を補正するために頭を中央で固定したまま体幹を左へ回旋させると、無視の範囲が狭くなることが報告されています。

視覚走査トレーニング

左右に点灯するボタンのついたパネルを用いて、目でしっかり追いながら、その点灯に合わせて上肢を動かす方法です。注視しながら追跡させることで、無視している空間への注意を促します。

プリズムアダプテーション

右に10度ずれるように見えるプリズム付き眼鏡をかけた状態で、目標の物体に触れるという動作を繰り返す方法です。視覚を操作することで、視覚情報の適切な処理を促し、それに対する対応力を身につけます。

このほかあえて左側から声をかけたり、通路の左側に目立つ色のテープを貼ったりすることも大事です。左側へ注意を向ける練習を繰り返すことで、障害された機能が徐々に回復していくことがあります。

まとめ

半側空間無視の患者さんは病識(自分が病気であるという認識)を欠くことが多いです。入院生活は問題なく行えていても、日常生活に戻った途端に困難に直面することがあります。本人に気付いてもらうよう、周囲の人が障害を理解しサポートしてあげることも重要です。