私たちは何か行動を起こす時、事前に計画を立てたり自分の能力で出来るのか判断したりします。また、計画通りに進まない場合は、途中でプランを変更して対応することもあります。しかし、交通事故などで脳がダメージを受けてしまうと、そういった思考や行動ができにくくなる場合があります。これは高次脳機能障害の一つ「遂行機能障害」の症状で、周囲の支援や対応が必要になります。今回は遂行機能障害について紹介します。

目次

高次脳機能障害とは

交通事故によって頭を強く打ったり、脳卒中など脳の疾患を発症したりすると、脳が傷つく場合があります。脳の傷ついた場所によって、自分がしたことを覚えていられない記憶障害や、体の片側にあるものを認識できない半側空間無視といった高次脳機能障害の症状が現れてきます。その中に遂行機能障害も含まれています。

高次脳機能障害について詳しく知りたい方は「性格まで変わる!?高次脳機能障害の原因と5つの症状」をご覧ください。

遂行機能障害とは

遂行機能障害とは、物事を計画して、実際に行動に移すことができない、つまりは段取りがうまくいかない状態のことを指します(脳解剖から学べる高次脳機能障害リハビリテーション入門p.56より)。日常生活や仕事の内容を計画して実行できないといった、プランニングの障害です。

主な症状を紹介します。

段取り良く行動することができない

意欲の低下や物事への興味が持続できにくいこともあり、目標を立てて行動することができなくなります。また、指示された行動に対しても取り掛かりが遅くなります。何をするにも時間がかかってしまいます。

優先順位がつけられない

目標を立てずに、思いつきのまま行動してしまうので、やるべきことの優先順位を決めることができません。

失敗しても行動がやめられない・制御できない

行動が適切でなく注意されたり叱られたりしたとき、前の行動にこだわってしまい、なかなか修正が効きません。

立てた目標に到達できない・急な変更に対応できない

目標に向かって行動できていても、最後までやりきれません。また、予期できないことが起きるとパニックになってしまうことがあります。

遂行機能障害の検査

アナログな置き時計を前にペンを進める女性

遂行機能障害の検査は前頭葉の機能にどれだけ障害があるか調べるもので、方法はいくつかあります。主な検査法を紹介します。

BADS(The Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome)

日常生活を送る中で出てくる、様々な問題を評価する方法です。以下の6検査と、障害の程度を調べる20の質問で構成された質問表からなります。質問表は本人だけでなく、家族や介護者も受けます。

  • 裏返しのトランプをめくって与えられた規則通りに答えられるか調べる規則転換カード検査
  • 計画できるか、またそれを実行できるか調べる鍵探し検査。10センチ四方の正方形を紙に描き、その中に鍵を落としたと仮定してどのように探していくかペンで描きます。
  • 管の中に入ったコルクを取り出す行為組立検査。コルクは道具を使うなど様々な手順を踏まないと取り出せません。どこまで自力でできるかチェックします。
  • 動物園内の地図を用意し、決められた場所をルールに従って通っていく動物園地図検査
  • 物事にかかる時間を論理的に推測できるか調べる時間判断検査
  • 10分間で6問(計算問題、絵の名前を答える問題、口述問題各2問ずつ)に取り組む修正6要素検査。「時間内に必ず6問とも手を付ける」「同じカテゴリーの問題は続けて答えてはいけない」というルールがあります。問題への正誤ではなく、ルールを守って時間配分がしっかりできるかを確認します。

慶應版ウィスコンシンカード・ソーティングテスト

色・形・数がそれぞれ異なる48枚を持って、目の前に並べてある4枚のカードに対して重ねて並べます。

重ねる際は、定められたルールに従います。テストの検査官は「正しい」か「誤り」の2語のみで受験者の回答に反応し、受験者はその反応に従いながら繰り返しテストを行っていきます。また、規則通りに並べることが連続でできた場合は途中でルールを変えて進めていきます。

トレイルメイキングテスト

紙にいくつか書かれた数字を1から順に線でつなぎ、それにかかる時間を計ります。

遂行機能障害とうまく向き合うには

遂行機能障害とうまく向き合っていくためには、自分が失敗しやすいことを理解し、自分が行動するにあたってどこで躓くのか知ることが大切です。そのためまずは、日常生活や社会生活で必要な行動を把握した上で、その行動をマニュアル化したり、パターン化したりするなどします。できればメモなど目に見える形にしておくと良いでしょう。

そして、その動作で実際にうまくいかない箇所があれば、繰り返し練習して獲得に努めます。また、行動するときには頻繁に確認するよう習慣づけましょう。

周囲ができること

周囲の方は、遂行機能障害を抱えた方と接するとき、相手の行動を支援する必要があります。特に、相手が行動していく上でうまくいかない箇所に対して、重点的にかかわっていきます。例えば計画を立てることが苦手であれば、一緒になって組み立てていくなどです。

また、相手が行動した結果に対して、振り返ってよかった点、改善できる点を共有することも大切です。

このほか相手に何か伝えるときは、曖昧な表現は避け、要点を絞って明確に伝えます。その際、具体例を出すなど相手がイメージしやすいよう分かりやすくしましょう。例えば、待ち合わせする場合は「○○駅に9時」ではなく、「7時に起きて、家を8時に出て、○○線に乗って○○駅で降り、右手にある階段を上がり、改札を出たところに9時までに来てください」という伝え方をします。

指示は1つ1つ、1つ終わったら次へ、何でも書き出してあげる、わからなくなったらいつでも質問できる環境作りなどがポイントとなるでしょう。

まとめ

遂行機能障害をはじめ、高次脳機能障害を抱えた人は、日常生活をこれまでどおり送ることが難しくなります。うまくできたこと、失敗したことをその都度把握しながら、うまく行動できることを目指していきましょう。また、本人の努力はもちろん重要ですが、周囲の支援は欠かせません。社会としてサポートしていく姿勢を見せることも忘れないようにしましょう。