お子さんが足を引きずって歩いていたり、股関節に痛みを訴えていたりすることはありませんか?それは子供が発症する股関節疾患「ぺルテス病」が原因かもしれません。ペルテス病は放置してしまうと、骨が損傷、変形してしまい大人になってからも影響を及ぼす可能性があります。今回はペルテス病について詳しく紹介していきます。

目次

ペルテス病とは

ペルテス病は大腿部(太もも)を支える大腿骨の股関節側(骨頭)で血流が悪くなり、大腿骨頭の成長が阻害されて壊死(えし、組織が死ぬこと)が起こる病気です。1歳半から大腿骨頭が成長し終えるまでの期間に発生します。

特に4~7歳の子供に起こりやすく、10万人に4~5人の頻度で、男女比では男の子に多くみられます(田中久重ほか「宮城県におけるペルテス病の発生頻度」などより)。また低出生体重児身長が低くて小柄な子供という特徴もあります。

適切な治療を開始しなければ、壊死して脆くなった骨頭が変形損傷を来し、痛み歩行障害に繋がります。

ぺルテス病の症状

あぐらをかきながら音楽を楽しむ子ども-写真

症状の経過

初めは股関節の痛み片足を引きずって歩く(跛行)ことがみられます。跛行だけしかみられない場合も全体の8%程度あります(Kim W-C et al Multicenter study for Legg-Calve-Perthes disease in Japan.より)。痛みは股関節に限らず、大腿(太もも)や膝関節に及ぶこともあります。

また注意しておきたいのが、股関節の疾患でありながら大腿や膝関節だけ痛くなるケースも存在することです。跛行だけ、大腿や膝関節の痛みだけの場合、発見が遅れてしまう恐れもあるため、注意が必要です。

その後は徐々に股関節の運動制限が現れてきます。具体的には90度以上に深く股関節を屈曲させる運動、あぐらをかくように膝を曲げた状態で股関節を外側へ倒す動き、お姉さんずわりをするときのように膝を曲げた状態で内側へ倒す動きに制限が生じます。

股関節の運動制限がみられると、足を動かしにくくなって筋肉が使われなくなるため股関節周囲や大腿の筋肉が痩せ細って硬く縮みます

症状が進行した場合

ぺルテス病が発症すると約1年に渡って大腿骨頭の血行が途絶えていき、その後少しずつ血行が回復していきます。骨の組織が壊死した部分は、脆くなって損傷や変形を起こしやすい状態となります。

血行が回復し始めると、壊死した部分が吸収されて新しい骨の組織が作られ始めます。ただ新しい骨の再生が始まっても、しばらくは壊死した部分と新しく骨の組織が作られる部分とが入り混じっていて、骨は傷つきやすい状態です。

発症してから壊死した部分の回復が終わるまでには数年間かかります。その間に時期に合った適切な治療を行わなければ、骨頭が損傷や変形を起こして将来的に変形性股関節症となるリスクが高くなります。

ぺルテス病の症状の重さや発症する年齢は、人によって異なります。一般的には発症する年齢が低いほど予後(治り)は良いといわれていますが、そうでない例もあります。

ぺルテス病の原因

ぺルテス病は成長過程にある大腿骨頭への血行が悪くなることで起こりますが、その原因ははっきり分かっていません。

活発で多動傾向にある男の子に多くみられる病気であることから、怪我や打撲などの外傷を繰り返すことで大腿骨頭への負荷が少しずつ積み重なり、発症するという考えがあります。

また6~7歳ごろの男子は大腿骨頭への血流が少なくなりがちであることや遺伝妊娠中の喫煙や家族の喫煙による副流煙などとの関係性も指摘されています。

ぺルテス病の診断・治療

診断

後遺症を残さないためにも、早期の診断は重要です。

診断にはレントゲンやMRIが必要となります。レントゲンでは骨の壊死そのものが見えるわけではなく、骨頭がつぶれたり、骨頭に骨折線が見えたりします。

ただ、病気の早い時期では、画像診断で分からないことも多くあります。その際は痛みが続いている間、レントゲンを複数回撮ったり、経過を見ながら何度か撮影したりすることもあります。また、鎮痛剤を使って激しく動かないようにしてからMRIを取らないと分からないときもあります。

どの方法にしろ、診断ができず時間がかかることも少なくありません。医師の説明をよく聞き、診断の重要性、流れを理解しましょう。

治療

治療は手術を行わない保存療法と、手術療法があります。ぺルテス病の予後は発症した年齢と症状の重さによって異なるため、個別に治療方法が検討されます。

特別の治療は必要なく経過観察のみの場合もあります。

保存療法

4歳未満、もしくは5歳未満で発症した場合には積極的な手術は行わず、保存療法を行うことが多くなります。この判断は医師によって異なります。ただ保存療法を行っていても、診断が遅れて変形が出た場合や、経過などから手術が必要となるケースもあり得ます。

保存療法では大腿骨頭の損傷が起こらないよう経過を見守りながら、リハビリで股関節の動きを維持、改善することが行われます。

5歳以上で発症した場合には、保存療法では足を引っ張ることで大腿骨頭の位置を修正する牽引(けんいん)療法や、装具を着けて股関節の良肢位(良い姿勢)を保ち、大腿骨頭への負荷を軽減する装具療法が行われます。装具の種類は股関節の状態や年齢、治療を受ける病院の方針によっても異なります。

装具療法では装具の管理を行うために本人の理解と家族の協力を得られること、装具を利用できる環境であることが必要です。

手術療法

大腿骨頭の損傷が大きい場合や装具療法が難しいと判断される場合には、手術療法が選択されます。

手術では大腿骨頭を骨盤の臼蓋(きゅうがい)で完全に包み込むよう、大腿骨頭や骨盤の骨を切って移動させて形成する手術が行われます。

成長期の終了に近い年齢で発症して大腿骨頭の壊死している部分が広範囲の場合や、既に大腿骨頭の変形が著しい場合には、新しい骨の再生による修復が期待できません。そのため壊死している部分に荷重がかからないようにする手術が行われることもあります。

その後の経過は?

早い時期に診断ができ、また年齢が幼いときになった場合は、治療後非常に良い家化をたどっていくときが多いです。4歳未満では経過を見ていくだけで良いこともあります。

しかし、5歳以上で放置すると、骨頭が変形したり、早い時期に変形性股関節症になったりすることもあります。また、9歳以上に起こるとその可能性が上がります。

全体として変形性股関節症に至らないのは60%前後で、元々の変形の程度によりますが、50歳以降に変形性股関節症になるのが40%程度です(小児科診療2015年Vol.78No.4p83~より)。

まとめ

ぺルテス病は子供のころに発症する疾患です。時期や状態によって適切な治療を施さなければ、将来的に変形性股関節症を生じて日常生活や社会生活に支障を来すようになります。そのため早期に診断し、適切な治療を受けることが大切です。お子さんに足を引きずるような歩き方や股関節の痛みがみられた場合には医療機関を受診しましょう。