赤ちゃんにオムツをつけるときに、股関節の開きが悪いと思うことはありますか?その場合、股関節が脱臼している可能性があります。この状態を先天性股関節脱臼といい、放置してしまうと大人になっても影響を及ぼしてしまいます。今回は先天性股関節脱臼について詳しく説明していきます。

目次

先天性股関節脱臼とは

股関節は骨盤の屋根のようになっている臼蓋(きゅうがい)の部分に、大腿骨頭がはまり込む形で安定しています。

先天性股関節脱臼は、臼蓋に大腿骨頭が上手くはまり込まず不安定になっている状態を指します。

不安定の程度には以下のような差があります。

  • 完全に臼蓋から大腿骨頭が外れている脱臼
  • 臼蓋から大腿骨頭が外れかかっている亜脱臼
  • 臼蓋が骨頭にしっかりかぶさっていない臼蓋形成不全

名称に先天性とありますが、産まれる前から脱臼を起こしているケースは少ないです。産まれてから何らかの要因が加わることで発症することが多いとされています。そのため発育性股関節形成不全と呼ばれることもあります。

女の子、冬産まれの子供、一人目の子供、骨盤位分娩(逆子の分娩)に多い傾向があります。

先天性股関節脱臼の症状

脱臼があっても特に痛みは出ない場合がほとんどです。乳児期に股関節を動かすと外へ開きにくいコキッと音がする左右の足の長さが違う、太もも内側の皮膚のしわの数や深さが左右で違うなどの症状、状態で発見されることがあります。

また一人歩きができるようになってから歩き方がおかしいと感じることで見つかることもあります。

放っておくと将来的に変形性股関節症となって痛みや歩行障害がみられる場合があるので、早期の治療が必要になります。

先天性股関節脱臼の原因

抱っこされる赤ちゃん-写真

先天性股関節脱臼は、遺伝などの元々股関節脱臼を発症しやすい要因と、産まれてからの股関節の肢位(しい、姿勢の状態)などの要因がいくつか合わさって生じると考えられています。

股関節の動きが妨げられずに自由に運動できる状態であると、股関節脱臼を発症しにくいと言われています。

遺伝

家族に先天性股関節脱臼の方がいる女の子は、発症率が高いことが分かっています。

性別

女の子に多く発症することから性ホルモンとの関係が指摘されています。

胎児が骨盤位(逆子)

母親のお腹の中で赤ちゃんのお尻が下となる姿勢(骨盤位、逆子)だと、赤ちゃんの股関節が伸ばされた状態となって脱臼を起こしやすくなります。

オムツや洋服、抱っこなどによる影響

赤ちゃんの股関節は、身につけるオムツや洋服、抱っこの仕方などの影響も非常に強く受けます。

腰から下を巻いてつける巻きオムツや赤ちゃんの股関節部分を両サイドから巻いて止めるタイプの三角オムツ幅の広いテープの紙オムツなど、足を曲げられず伸ばした状態で固定してしまうタイプは、股関節脱臼を起こすリスクが高くなります。

昔、日本で巻きオムツや三角オムツが主流であったころは今よりも股関節脱臼になる赤ちゃんが10倍も多かったとされています(Yamamoto T. Ishida K. Recent advance in the prevention, early diagnosis, and treatment of congenital dislocation of the hip in Japan. Clin Orthop 1984 : 184: 34-40より)。

また、スリング(抱っこひも)ラップ式のおくるみなどは、中にいる赤ちゃんの股関節が伸ばされた状態になっていることがあるので注意が必要です。

冬産まれの赤ちゃんに股関節脱臼の発症率が高いとされる理由には、赤ちゃんの股関節の運動を制限してしまう厚着が挙げられています。

向きぐせ

同じ方向ばかりを向いている赤ちゃんも発症するリスクがあります。向いている方向と反対側の足が伸びた状態となっていることが多いためです。

先天性股関節脱臼の治療・予防

先天性股関節脱臼を防ぐ抱き方
先天性股関節脱臼を防ぐ抱き方2

治療

年齢や脱臼の状態によって治療法は異なりますが、基本は脱臼の整復を行います。

その後は臼蓋に大腿骨頭がおさまるように促しながら、股関節の成長が終了する15~18歳まで経過をみます。生後間もない赤ちゃんの場合は何もせずに経過をみることもあります。

先天性股関節脱臼は3カ月児検診時に発見されることが多いです。しかし、先天性股関節脱臼の診断は難しいため、3カ月児検診で気が付かれず1歳をこえて見つかるケースが15程度見られます(服部 義、日本における発育性股関節形成不全(DDH)の過去と現在―疫学と保存的整復の推移―、日整会誌2016:90:473-479より)。

乳児期の治療では、リーメンビューゲルと呼ばれる両股関節を開いた状態に保つ装具を用いて整復を行うことがあります。装具を着けて定期的に股関節の状態をチェックし、2~3カ月ほど続けます。整復を確認できたら、装具を外す時間を設け、徐々に時間を長くして様子をみていきます。リーメンビューゲルで治療に適した時期は限られており、疑ったら早めに医療機関を受診することが大切です。

ただリーメンビューゲルの治療効果は絶対ではなく、治らないこともあります。また脱臼の状態によっても効果があるかないか変化します。

手術で整復を行うこともあります。ただ整復時に骨頭が傷ついて骨頭の血行が悪くなって壊死(えし:組織が死んでしまうこと)を起こす可能性があります。

早期発見・早期治療が重要ですが、将来的に変形性股関節症につながらないために、その時期と状態に一番あった治療法が選択されます。

予防

赤ちゃんの足を伸ばした状態で締め付けるオムツや洋服は避けましょう。また抱っこするときは足をM字型にするよう意識します。

向き癖については、向いている方の身体を少し持ち上げるようにバスタオルなどを赤ちゃんの身体の下に入れて工夫しましょう。

まとめ

赤ちゃんの望ましい股関節の状態は股関節をM字に開脚した状態で、赤ちゃんが自分で自由に足を動かせる環境です。

オムツで足の動きが制限されていないか寝ているときや抱っこしているときの赤ちゃんの股関節はM字に保たれているかなど、注意してみることで先天性股関節脱臼を発症するリスクが低くなります。普段の様子で気になる点があれば、健診や医療機関で相談しましょう。