男の子の赤ちゃんを持つお母さんは、乳児健診などで医師から「赤ちゃんのタマ(精巣)がない」と言われることがあるかもしれません。この状態を「停留精巣」といい、精巣が正しい位置に下りてこず体内にある状態を指します。今回は女性にとっては馴染みのない場所に起こる停留精巣について、説明していきます。

目次

停留精巣とは

お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんが男の子だった場合、精巣(睾丸、いわゆる「タマ」)はその時点で腎臓付近にあります。生まれる前に精巣は鼠径管(そけいかん)と呼ばれる管を通り、徐々に下りてきて陰嚢(いんのう、いわゆる「フクロ」)に入ります。

しかし下りてくるのが遅かったり、管の途中で止まったりして陰嚢の中に精巣が無い状態で産まれる場合が出てきます。それが停留精巣です。精巣は2つあるため、陰嚢の中に2つとも無い両側性と、1つだけ無い片側性に分けられます。

停留精巣は5%前後の新生児にみられ、珍しい病気ではありません(日本小児泌尿器科学会|停留精巣診療ガイドラインより)。特に37週未満で生まれた子や、生まれたときに2500g未満だった子では発生頻度が高くなります。

ただ出生後でも自然に下降してくることが期待できるため、1歳ごろには割合が1.0~1.7%にまで落ち着きます(日本小児泌尿器科学会|停留精巣診療ガイドラインより)。1歳以降になると自然下降は望めないため、手術が検討されます。

その他のタイプ

精巣が陰嚢の中にない状態は、停留精巣以外にもあります。

一つは移動性精巣といい、大きな違いは精巣が陰嚢に入らないのが「一時的」な点です。精巣には筋肉がくっついており(精巣挙筋)、足の付け根部分からぶら下がっている状態です。移動性精巣ではその筋肉に力が入って収縮すると、精巣が鼠径部に上がって、あたかも陰嚢の中に無いかのようになります。

お風呂の後などリラックスしている場合には陰嚢内に精巣が触れます。がんやヘルニアなどの合併症を引き起こすことはありません。

その他に陰嚢ではない部分に下りてきてしまった異所性精巣、一度下りてきた精巣が再び上がってしまう挙上精巣などがあります。

精巣が陰嚢の中にないとどうなる?

思春期になると精巣は精子を作り始め、生殖能力を持ちます。精子を作る細胞を維持したり、精子を作ったりするときには、体温より1~2℃低い環境が必要になります。精巣は体から出ているので最適な温度を保てます。

最適な温度より高い状態に精巣が長く晒されると、精子を作る細胞は徐々に数を減らします。また精子を作る細胞の能力も低下してしまいます。

停留精巣と関連する病態・病気

1.妊孕力の低下

子供を作る能力を妊孕力(にんようりょく)と言います。精巣の温度が高いと少しずつ精巣の機能が落ちるため、妊孕力が低下します。

2.精巣腫瘍(精巣がん)

停留精巣の人は、そうでない人よりも精巣がん(腫瘍)になる確率が高くなり、両側性で5.9倍、片側性で2.7倍という研究結果があります(日本小児泌尿器科学会|停留精巣診療ガイドラインより)。

停留精巣の手術を早期に実施して精巣腫瘍になる確率が変わるのか、はっきりとしたエビデンスはありません。ただ精巣がんになると精巣が段々大きくなるので、お腹の中にあるより陰嚢にあった方が自分で触診も可能になり、早期発見につながります。

3.精索捻転

精巣から伸びている細い精索(精巣に栄養を送る血管や、精子の通り道である精菅)が捻じれることを精索捻転と言います。精巣が陰嚢に固定されていないと精索捻転が起こりやすくなります。

下腹部痛のほか嘔吐などの症状があり、精巣の細胞が死んでしまうので緊急手術が必要になります。

4.鼠径ヘルニア

停留精巣の子は鼠径ヘルニアを合併している場合があります。ヘルニアとは脱腸のことで、腹圧がかかると足の付け根である鼠径部から腸が袋状に飛び出るので、下腹の膨らみによって発見されます。

腹圧が下がると膨らみも自然と戻りますが、腸がはまりこんで血流が障害されている場合は緊急手術が必要になります。

5.外見上の問題

生殖器の外見を整えることは、男の子の発育過程において重要です。停留精巣のままだと体や能力に精神的な引け目を持つ子もいます。

検査・治療法は?

検査

基本的には触診です。陰嚢を丁寧に診察して精巣の有無を確認し、精巣がどこにあるか調べます。乳児健診でも必ず精巣が2つ触診できるか確認する事項となっています。触れない場合は移動性精巣の鑑別も重要です。精巣がどこにあるか触診でわからない場合は超音波検査を行い、必要に応じてMRIが撮られることもあります。

停留精巣の位置による検査も異なってきます。腹腔内にとどまる停留精巣ですと腹腔鏡検査を行う場合もあります。お腹に小さな穴を開け、細い内視鏡(カメラ)を入れてお腹の中をテレビ画面に映し出します。触診ではわからない精巣を見つけたり、精巣の大きさなどを調べたりすることができます。

治療法

治療法は手術になります。手術を受ける時期に関しては、1歳前後~2歳ごろが望ましいとされています。移動性精巣の場合は、小学校高学年から思春期ごろまでに精巣は固定されることが多いため、基本的に手術は不要です。

鼠径部に精巣があることが体の外から触って分かる場合、鼠径部を2~3cmほど切って精巣を探し、陰嚢を1cmほど切って見つけた精巣を陰嚢の中へ固定します。手術跡は成長とともにほとんどわからなくなります。

精巣が鼠径管でなく腹腔にある場合は、腹腔鏡手術が採用されることがあります。その場合はお腹にカメラ用の穴のほか、もう2箇所ほど小さな穴を開けます。そこから手術に必要な道具を差し込み、画面を見ながら精巣を陰嚢に固定します。

男性ホルモンを投与して精巣を下降させる治療法もありますが、日本では一般的でなく、保険も適応していません。

まとめ

停留精巣は将来的に子供を作る能力に関わってくるものです。精巣腫瘍の発症にも関与します。状態をしっかり理解した上で医師とよく話し合い、適切な治療法、対策を相談しましょう。