20~30代の男性が注意したいがんの一つに、精巣がんがあります。ただ、かかる割合は多くなく、むしろまれな病気です。また、転移があってもしっかりと治療すれば完治する確率も十分あるがんです。今回は精巣がんについて、原因や症状、種類、治療法について紹介していきます。

目次

精巣がん(腫瘍)とは

精巣は左右の陰嚢(いわゆる「フクロ」)の中にあり、男性ホルモンの分泌精子の生成2つの働きをしている臓器、いわゆる「タマ」です。

腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍の2つに分類されます。良性腫瘍は転移することなく、発生母地(腫瘍のもととなる細胞)に留まってその場所で大きくなります。一方で悪性腫瘍、いわゆる「がん」は発生母地を超えて周りの組織、最終的には全身の臓器へと広がっていきます。

精巣腫瘍の大部分は悪性腫瘍です。このため「精巣腫瘍=精巣がん」と捉えるのが一般的です。

精巣がんの好発年齢は20~30代で、若い男性に多く、この年代における男性のがんでは最も頻度が高いです。乳幼児もかかることがあります。ただし1年間で新たに発病する割合は10万人に1人といわれていて、比較的珍しい病気ではあります(筑波大学附属病院より)。

精巣がんの原因は?

原因は遺伝的な要素と環境による要素が関与しています。

具体的には人種や精巣腫瘍の家族歴、胎生期におけるホルモン量の変化や母体の喫煙歴、未熟児・低出生体重児、停留精巣(ていりゅうせいそう:胎生期の異常により陰嚢の中に精巣が入っていない状態)など様々な因子が影響していると考えられていますので、絶対的な予防法はありません。

また不妊症や精液検査での異常、チーズや牛乳など乳製品を多く摂取する食事、高身長などもリスクとなり得ることが分かっています。

 特徴的な症状は?

膨らむバルーン-写真

主な自覚症状としては精巣(睾丸)の腫れしこりが最も多く、あまり痛みが出ないのが特徴的です。

既に全身への転移がみられる場合は、精巣以外にも様々な症状を認めることがあります。詳しくはがん対策情報センターのサイトをご覧ください→国立がん研究センターがん対策|がん情報サービス「精巣(睾丸)腫瘍」

精巣がんの種類は?

精巣がんは病理診断(顕微鏡を用いて細胞や組織を観察し、細かいレベルでがんの特徴を診断する)によってセミノーマ(精上皮腫)非セミノーマ(非精上皮腫)の2種類に分類されます。精巣を手術で摘出した後に診断します。

セミノーマ(精上皮腫)

セミノーマは精巣腫瘍で最も多い組織型です。化学療法放射線療法に対する感受性が高く、治療成績が良いという特徴があります。

非セミノーマ(非精上皮腫)

非セミノーマは、様々な組織が腫瘍のもととなっている精巣腫瘍で、顕微鏡で見るといろいろな組織が見られることが多いです。セミノーマより治療成績が良くないので、画像検査で転移がわからなくとも化学療法や転移しやすいリンパ節の切除手術が予防的に行われる傾向があります。

病期分類

精巣がんはⅠ~Ⅲの3つの病期に分類されます。Ⅰ期は早期がん、期以降進行がんとなり、治療方法や予後が異なります。

  • Ⅰ期:腫瘍が精巣周辺に(精巣、精巣上体、精索)に限局(狭い範囲に限られて存在すること)し、転移のないもの。
  • Ⅱ期: 腫瘍が精巣を超えて広がっているが、転移は横隔膜より下のリンパ節に留まるもの。後腹膜リンパ節への転移巣が5cm未満のものをⅡA期、5cm以上のものをⅡB期と分類する。
  • Ⅲ期:転移が全身へと広がっているもの。転移の箇所によってさらに細かく分類されます。

このほかにInternational Germ Cell分類という、精巣がんの30%を占める転移を有する進行性がんに対する指標があります。これは腫瘍マーカーや病変がある場所などによる分類法で、診断時に治療成績をある程度予想することができます。

治療法

精巣がんの治療法は、その種類と病期によって若干異なります。

この病気の最も大きな特徴は「化学療法(抗がん剤)が非常によく効く」ということです。しばしば固形腫瘍(血液のがんを除いたがんの総称)に対する化学療法のモデルケースとなります。年齢が若く、糖尿病や高血圧などの併存症がない患者さんが治療の対象になることが多いので、転移があっても可能な限り完治を目指します。

もちろん、早期発見・早期治療ができれば患者さんへの負担を軽減できるだけでなく、完治する確率もより高くなります。早期発見・早期治療が大切です。

セミノーマ

Ⅰ期

高位精巣摘出術(こういせいそうてきしゅつじゅつ:精巣だけでなく、精巣から腹腔側へ伸びる精索と呼ばれる束状の部分をまとめて取り除く手術)により、腫瘍を摘出します。手術後は経過観察して様子を見る場合が多いですが、患者さんの希望によっては予防的に化学療法や放射線治療が行われます。

再発の可能性は低いですが、再発した場合も化学療法や放射線療法により十分完治が可能なことが多いです。経過観察で指定された検査(CTなど)を必ず受けるようにしましょう。

ⅡA期

高位精巣摘出術に加え、放射線療法または化学療法を追加して治療します。

ⅡB期、Ⅲ期

高位精巣摘出術精巣のほか、転移病変巣に対しては基本的には化学療法が行われます。Ⅱ、Ⅲ期で化学療法を行った後、まだ転移病変が残っている場合は病変の大きさ・数・場所によって手術での完全摘除を目指します。

非セミノーマ

Ⅰ期

高位精巣摘出術により、腫瘍を摘出します。摘出した腫瘍を顕微鏡でチェックしてリンパ管・血管内に腫瘍が入り込んでいる(脈管浸潤)ことがわかった場合、追加で化学療法や予防的な手術を行う場合があります。

Ⅱ期・Ⅲ期

精巣摘出術に加え、化学療法を行い転移病変の完全消失を目指します。化学療法後に転移病変が残っている場合はそれらの病変を摘除する手術を検討します。非セミノーマに対しては放射線療法の効果は期待できないため行われません。

治療の副作用などについて

若い年代で発症する精巣がんは、治療後の生活も必然的に長くなります。そのため長期に治療を続けている場合は、放射線・化学療法の副作用によるがん(特に膀胱がん)に注意する必要があります。

化学療法による副作用には神経や腎機能の障害なども考えられるため、経過観察がとても重要になります。

また将来的に子供をつくることを希望する人は、化学療法や放射線療法によって妊孕性(にんようせい:受精しやすさ)は大きく低下することがありますので、担当する医師に精子凍結保存などについて十分に説明(インフォームドコンセント)を受けましょう。

まとめ

精巣がんは人生これから、という若い男性に多い悪性腫瘍です。ただ、なるべく早期に診断を受け、適切な治療が行われれば決して治らないがんではありません。精巣がんはがんができる場所が陰部で恥ずかしがる患者さんが多いことから受診が遅れがちな病気ではありますが、精巣にしこりや腫れを感じたら、速やかに泌尿器科を受診してください。