はじめに

起立性調節障害(Orthostatic Dysregulationは、心と体が急速に発育する思春期によくみられる「自律神経失調症」の一種であり、この頭文字からODとも呼ばれます。体のバランスをとる自律神経が乱れることによりますが、周囲の無理解などにより、心身症の側面より不登校・引きこもりなどの社会的な影響を及ぼす場合があります。

ここでは、起立性調節障害における、自宅や学校、医療機関での対応に関してお話しします。

目次

起立性調節障害の症状・原因

起立性調節障害では、自律神経の乱れから「代償機構の遅れ」が起こります。
交感神経と副交感神経の連携がうまく働かない状態です。

すると、体を動かすたびに血圧が低下したままになるため、血流や血行が悪くなり、全身への酸素や栄養の供給がうまくいかなくなります。

起立性調節障害では、次のような症状が現れます。

  • 立ちくらみ、ふらつき、めまい
  • 疲れやすく、疲労回復が遅い
  • 少しの運動で、息切れや動悸がする

症状が現れたときは、横になると血流が回復し、体はだいぶ楽になります。
起床時から午前中は脳への血流が低下していることが多く、起きることが困難となり、学校に遅刻することもよくあります。

起立性調節障害の身体的重症度の判定

起立性調節障害の身体的重症度は、医療機関で血圧・脈拍の変動により判定を行うことがあります。
重症度判定項目の一つに「症状や日常生活状況」の項目があります。

この項目に関して簡単に記載します。

  • 軽症:時に症状があるが、日常生活・学校生活への影響は少ない
  • 中等症:午前中に症状が強く、しばしば日常生活に支障があり、週に12回の遅刻や欠席がみられる
  • 重症:強い症状であるため、ほとんど毎日、日常生活、学校生活に支障をきたす。

心理社会的関与に関しての判定

また、起立性調節障害には、心理社会的背景を伴うことが多いです。

心理的なストレスによって体の症状の悪化などの影響を受けやすい、「心身症」傾向があります。
起立性調節障害の約半数は不登校を伴っているため、「心身症としての起立性調節障害」の判断も必要です。

以下に、「心身症としての起立性調節障害」のチェックリストを記します。

  1. 学校を休むと症状が軽減する
  2. 身体症状が再発・再燃を繰り返す
  3. 気にかかっていることを言われると、症状が悪化する
  4. 1日のうちでも身体症状の程度が変化する
  5. 身体の症状を2つ以上訴える
  6. 日によって身体症状が次から次へと変化する

以上のうち、4項目以上がときどき(週1~2回以上)みられる場合、心理的ストレスが病態に関与している、言い換えると「心身症」の印象があると判断されます。

重症度に合わせた治療対応の組み合わせ

中学生-写真

前述の身体的重症度、心理社会的関与に関して判断された後は、次のステップにより治療をすすめていきます。

1.病気に関しての教育

本人は起立性調節障害の症状の理由が分からず不安になっています。

その一方、家族の多くは「精神的なもの」「気の持ちよう」と考える傾向があります。両者の意見がかみ合わないと、心理的ストレスが悪化します。
結果、起立性調節障害の原因である「自律神経アンバランス」が強くなり症状が悪化します。

このため、お子さんには起立性調節障害が「心と身体のバランスの乱れ(自律神経のアンバランス)」によるものであること、「午前中には症状が強いが午後から回復する」「春から夏にかけては悪化する」という特徴を説明して、気の持ちようや夜更かしなどの生活習慣の是正だけでは、すぐには治らないことを理解させてください。

自宅では「少しくらい辛くても頑張れ」と無理強いせず、「あなたの体の辛さを一緒に治していこう」「できることを少しずつ、時間をかけて」という、協力的なメッセージを送り、お子さんの心理的な安定を図ることが、心理側面で重要です。

2.非薬物療法(日常生活での注意点)

上述の通り、生活習慣を正すだけでは、起立性調節障害はすぐには治りません。
しかし、薬剤による治療を行うのと同時に、日常生活における工夫や心掛けも必要となってきます。

水分・塩分は多めに

血圧を保ち、血流を保つため、日常生活においては、水分は多めにとってください(目安として1日1.5-2リットル程度)。
また、塩分も多めにとってください(1日塩分摂取量として10-12g)。

醤油を多く使用する、みそ汁や野菜のスープの味を濃くするなどの対応でよいでしょう。

軽い運動を取り入れましょう

また、運動は心臓に軽い負荷がかかる程度(心拍数として120/分程度)をおすすめします。

はじめはウォーキングやジョギングを15分程度から始めます。水泳は体にかかる重力が少なく、おすすめです。

調子が良い時も、寝た状態から起きるときは、30~60秒かけてゆっくり体を起こしてください。歩き始める時には頭を前のめりにすると脳への血流低下を抑えられ、症状悪化を抑えられます。

立っているときでは、足踏みをして、両足をクロスに交差することにより、血流を保ち血圧低下を予防することができます。
短時間のストレッチも血圧低下予防には効果的です。

生活リズムにも工夫が必要

早寝早起きなどの規則正しい生活リズムを心掛けることも、治療のために必要です。
朝の7-8時に日光を浴びる、お子さんに声をかけることは実行してください。

また、気温が高いところは極力避けてください。

暑気は末梢血管の拡張、発汗による脱水により血圧低下で症状が悪化します。
体育の見学は、涼しい室内や日陰がよいでしょう。

3.学校との情報共有や対応

学校の担任・養護教諭に対して、あらためて自分のお子さんが起立性低血圧であることを理解していただいてください。

保健室などの安全基地があるという安心感も、症状の悪化を抑えることに繋がります。
また、診断書の提出は、学校への理解を高めます。

学校での生活では朝礼など静止状態での起立を3分以上は続けないような対応を依頼してください。

また、体育は、重症度による対応が必要です。

軽症では運動制限はなく中等症・重症以上であれば、競争を要する運動(バスケットボールやバレーボールなど)は控えたほうがよいでしょう。
体調不良があれば、速やかに体を横にして、涼しいところでの安静をあらかじめ依頼します。

4.薬物療法

前述の1-3で改善しない場合、あるいは重症度として中等症以上であれば、医療機関において昇圧剤漢方の併用を行います。

この内服の効果は、おおむね2週間程度かかりますので、即効性がないからといってすぐに止めないように、家族からも指導が必要となります。

中学生以上であれば、自分で薬を管理して自分で薬を飲む習慣をつけるとよいでしょう。

まとめ

起立性調節障害に関して「重症度」と「心身症としての側面」、そして、生活の場所での気を付けるポイントを記載いたしました。
起立性調節障害の治療は、1年以上を超えるケースもあります。

焦らずに日々できる生活習慣を心がけ、起立性調節障害という体質を周囲に理解していただくと同時に、生活に負担がないような配慮をしていただくことが重要です。