起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation)は、体が急速に発育する思春期によくみられる「自律神経失調症」の一種です。
頭文字から「OD」とも呼ばれます。
成長期は自律神経のバランスが乱れやすく、血圧の調整がうまく働かないことがあり、立ちくらみや疲れやすさといった症状があらわれます。
「朝起きられない」などの症状も出るため、怠けもの、さぼり病と誤解されがちですが、実はつらい病気なのです。
はじめに「自律神経」とはなにか?
人間の体には、中枢神経と末梢神経が通っています。
中枢神経は脳と脊髄で、そこから出る神経が末梢神経です。
末梢神経は体性神経と自律神経に分かれて体中に張り巡らされています。
体性神経は、自分の意思で体の各部分を動かすための神経で、刺激を感じたり、運動するときに筋肉を動かしたりします。
自律神経は、自分の意思に関係なく、自動的に体の機能をコントロールします。
独立して自動で働くため自律した神経と呼ばれています。
たとえば、
- 食べ物を消化する
- 眠っているときにも呼吸する
- 運動すると心拍数が上がる
- 興奮して血圧が上昇する
などは、自律神経の働きです。
自律神経の働きは、次の2つの正反対の役割から成り立っています。2つがバランスをとりながら、体を健康に保っているのです。
- 交感神経:運動など「体を活発に動かすとき」に働く神経
- 副交感神経:食事・睡眠など「体を休めるとき」に働く神経
立ちくらみや疲れやすいは、神経の遅れが原因
自律神経の仕組みは「血液を状況に合わせて適切に流すこと」と考えられます。
自律神経は、人間がどのような姿勢になっても血液が全身に流れるよう24時間調整を続けています。
たとえば、座った姿勢から起立すると、重力によって血液は下半身に一気に移動し、脳や心臓に戻る血液が足りなくなり、血圧が低下しはじめます。
するとそのとき、交感神経が働き、下半身の血管(静脈)は反射的に収縮して、下半身に血液がたまるのを防ぎます。
反対に、副交感神経は活動を低下させ、心拍の上昇をうながして血圧を維持しようとします。このようなバランスのよい働きを「代償機構」と呼びます。
起立性調節障害では、自律神経の乱れから「代償機構の遅れ」が起こります。
交感神経と副交感神経の連携がうまく働かない状態です。
すると、体を動かすたびに血圧は低下したまま、血流や血行は悪くなり、全身への酸素や栄養の供給がうまくいかず、次のような症状が現れます。
症状が現れたときは、横になると血流が回復し、体はだいぶ楽になります。
したがって、寝ている姿勢が多くなります。
「いつもゴロゴロしている」「怠けもの」「さぼり病」「心が弱い」などと、感情的な誤解を人から受けやすいのはそのためです。
「朝起きられない」は、2つの神経の連携が悪いため

起立性調節障害による「交感神経」と「副交感神経」の連携のズレは、昼と夜の切り替わりにも影響を及ばします。
健康な人は、朝になると「交感神経」が活動をはじめ、血圧や心拍は上昇し、体は動きを開始します。
そして夜には心身を安め、リラックスするため「副交感神経」が高まり、血圧は下がりはじめます。
しかし、起立性調節障害では、交感神経と副交感神経の切替えがズレて、朝になっても交感神経の働きが鈍く、血圧が下がったままで、体は動きたくても動けない状態です。
また夜になると、交感神経が活動を止めないため、寝つきが悪くなります。
症状がひどくなると、自律神経のズレは、5〜6時間にも及ぶこともあります。
そのため、午前中は思考や判断力がほとんどできないようになるのです。
朝起きられない、なかなか学校に行けない、午前中具合が悪いが午後には元気になる、などの症状が起こります。
これは一見すると「時間にだらしない」「夜更かしの朝寝坊」と判断されがちですが、その原因は自分の意志ではなく、自律した神経の異常が原因なのです。周囲はそのことを十分理解してあげましょう。
小学生の約5%、中学生の約10%が症状に悩む
起立性調節障害は、自律神経の乱れが原因です。思春期がはじまる時期(女児は10歳くらい、男児は11歳くらいから)は、体の成長に対して自律神経の発達が追いつかず、バランスを崩しやすくなります。
そのため、起立性調節障害は、小学校高学年から中学生の子供によくあらわれます。小学生の約5%、中学生の約10%が起立性調節障害にかかるといわれ、女児にやや多いとの報告があります(日本小児心身医学会より)。
血管が膨張しやすい春先に症状が現れやすく、秋から冬には軽快する傾向があるようです。
厚生科学研究の全国調査によると、小児科外来を受診した10〜15歳のうち、約8.5%が心身症・神経症等と診断され、そのうち約70%の患者は「起立性調節障害」と診断されています (日本小児心身医学会より)。
自律神経の回復は人によって様々です。
起立性調節障害が長引くと、不登校やひきこもりを周囲が心配するでしょう。
起立性調節障害の子供は、学校に行きたくないのではなく、「行きたくても行けない」状態です。
そのことを、本人をはじめ、家族やまわりの人が理解してあげましょう。そのうえで、子供に寄り添い、焦らず落ち着いて治療を始めます。
まとめ
起立性調節障害は、大人になるにつれて症状が回復するといわれています。また、成人してからかかる人もいるようです。
その場合、周囲に気を使う、自分の気持ちを抑え込むなど、心理的ストレスによって悪化することが分かっています。
また、最新の検査では自律神経に異常が分かり、決して仮病や怠けではないことは明らかです。
症状があらわれたら、無理をせず、周囲に理解を求めながら、治療に向き合いましょう。