若い年代から中高年の男性の中で、真ん中付近が暗くなったり「物がゆがむ、小さい」と感じたりしたことはありませんか?その症状は目の疾患「中心性漿液性脈絡網膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)」が原因かもしれません。基本的には自然に治っていきますが、再発を繰り返す場合もあります。今回は普段聞き慣れない中心性漿液性脈絡網膜症について原因、症状、治療法を紹介します。

目次

中心性漿液性脈絡網膜症とは

眼底の光を感じる部分が網膜で、この網膜の周りに脈絡膜と呼ばれる膜があります。脈絡膜は血管が豊富で、網膜は脈絡膜から栄養をもらっています。

中心性漿液性脈絡網膜症では脈絡膜の血管から水分(漿液)が必要以上に漏れて、網膜下に溜まり、網膜が脈絡膜から剥がれてしまう網膜剥離(漿液性網膜剥離)が出現します。網膜剥離にもいくつかの種類があり、ここで言う漿液性網膜剥離は、失明になり得る裂孔原性網膜剥離とは異なります。

20~50歳の男性に多くみられる病気です。50歳以上で似たような症状が出現する場合は加齢黄斑変性という別の病気が疑われ、治療も異なります。

原因は

過労、ストレスなどが影響すると考えられています。また、膠原病や腫瘍などに対する副腎皮質ステロイド治療の副作用として発症することもあります。

過労、ストレスによって、内因性ステロイド(コルチコイド)が上昇することが分かっており、いずれも体内のステロイドが上昇しています。ステロイドはアドレナリン作用を亢進(度合が高まること)しており、アドレナリン作用によって脈絡膜血管の収縮と血管からの血液が漏れやすくなる(透過性亢進)ことが中心性漿液性脈絡網膜症の主要原因だと考えられています。

症状は

暗闇が過ぎる小径
視力が落ちる(視力低下)、物が歪んで見える(変視症)、物が小さく見える(小視症)、見ている視野の中央部分が周りより暗くなる(中心暗点)、実際の色と違うように見える(色覚異常)、遠視などの症状があります。

視力の低下は軽度ですが、治った後も見えにくさが残る人もいます。ほとんどの人は片目だけ症状が出ますが、治癒した後に反対側の目も発症することがあります。

病院で受ける検査は

眼底検査で、黄斑部分が網膜剥離を起こしているか検査します。

また、蛍光眼底造影検査を行うと脈絡膜から網膜下に漿液が漏れ出ている箇所を特定できます。蛍光眼底造影検査は腕の静脈から造影剤(フルオレセイン)を注入し、造影剤が目に辿り着くタイミングで眼底検査を行います。

しかし、現在は3次元眼底像撮影装置(OCT)の登場により、蛍光眼底造影検査を行う頻度は少なくなってきています。OCTは眼底の網膜、色素上皮、脈絡膜の断層像を撮影する装置で、蛍光眼底造影検査に比べて瞬時に結果を得ることができ、また、造影剤を静脈に注入する必要もありません。

治療方法は

3~6ヶ月で自然に治っていく場合が多いです。第一選択は経過観察で、多くは末梢循環改善薬も処方されます。また、ステロイド投与による副作用の場合は、可能ならばステロイドを中止し、ストレスが原因と考えられる場合はライフスタイルを変えることによって、改善が期待されます。

数ヶ月待っても改善が見られず、慢性化した場合は、治療が必要です。

治療法として、レーザー光凝固術、抗VEGF療法、光線力学療法、薬物療法があります。日本での健康保険内の治療はレーザー光凝固術のみです。アメリカでは光線力学療法が第一選択ですが、その費用と副作用から、新たなレーザー光凝固術である(閾値下)マイクロパルスレーザー療法と薬物療法の一つであるコルチコイド拮抗薬(商品名セララ)が注目され、これらによる治療が増えています。

レーザー光凝固術

水分の漏れ出ている場所にレーザーを照射する方法です。レーザー光凝固術を行うことによって、早期に回復します。従来型レーザーでは、レーザーの照射部位は見えなくなり、そのため、漏れ出ている場所が網膜のうち最も中心である中心窩の近くの場合は、レーザー光凝固術を行うことはできませんでした。

これに対して新たなレーザーとして(閾値下)マイクロパルスレーザーが登場し、注目されています。このレーザーでは照射しても網膜には損傷が起こらず、中心窩近傍(きんぼう、付近)に照射することが可能です。

抗VEGF療法(抗血管新生療法)、光線力学療法

VEGF療法(抗血管新生療法)光線力学療法(PDTはいずれも有効な治療法です。抗VEGF療法は抗VEGF薬を目に注射する治療、光線力学療法はお薬を点滴しながら特殊なレーザーを照射する治療です。特に、光線力学療法は最も有効な治療法です。

問題点は、中心性漿液性脈絡網膜症においてこれらの治療は健康保険適応外使用(医師の判断の下、国内で承認されている病気以外で使用すること)であるため、高額になることです。抗VEGF療法では自費で15万円前後、光線力学療法は自費で40万円以上です。

薬物療法

原因のところで述べた通り、体内ステロイド上昇が原因の一つと考えられており、この体内ステロイドの効果を抑制するコルチコイド拮抗薬が有効だと考えられます。アメリカでは、既にこの有効性は証明済みで、このコルチコイド拮抗薬内服が行われていますが、日本では、この内服薬は高血圧の治療薬で、中心性漿液性脈絡網膜症は健康保険外になっており、実際に治療を行うためには内科との連携が必要です。

まとめ

20歳から50歳で真ん中付近が暗くなったり、「物がゆがむ、小さい」といった症状が出現したりする場合、最も疑われる疾患が中心性漿液性脈絡網膜症です。中心性漿液性脈絡網膜症はストレスなどが引き金となって起こる可能性があります。自然に軽快していくことが大半ですが、繰り返したり、改善が見られたりしない場合は治療が必要です。治療法として、新たなレーザー光凝固術である(閾値下)マイクロパルスレーザー療法とコルチコイド拮抗薬内服薬が注目されています。