運動器の障害により移動機能に障害をきたす「ロコモティブシンドローム」。若い頃からの生活習慣が、中年・高齢期以降の移動機能に大きな影響を与えます。では、改善・予防のために、どんなことに取り組むべきなのでしょうか?

取材・後編では、まずはご自身のロコモ度をチェックする方法をご紹介します。また、聖隷佐倉市民病院の岸田先生には、ロコモティブシンドロームの改善・予防のポイントについて伺いました。

目次

あなたはロコモ?まずは挑戦!ロコモ度テスト

木製ボックス-写真

私たちの体は基本的に、20~30代に成長・発達のピークを迎えた後、徐々に衰えていきます。しかし、胃腸や肝臓などの消化器、心臓などの循環器の衰えと異なり、「運動器」の衰えは案外見落としがちです。

昔に比べて走れなくなった、階段の昇り降りがきつくなったと感じている方も、まさか自分が簡単に骨折してしまったり、歩けなくなったりするリスクを抱えていると認識している方は少ないのではないでしょうか。特に、まだまだ若い世代の方にとって、運動器疾患や移動機能の衰えは現実感のない話かもしれません。

日本整形外科学会では、移動機能を確認するためのテストとして「ロコモ度テスト」を勧めています。一定の高さの台から片脚で立ち上がれるかをチェックする立ち上がりテスト、2歩分の歩幅をチェックする2ステップテスト、体の痛みや生活習慣に関する質問に答えるロコモ25の3種類のテストを行い、総合的にロコモ度を判断します。

立ち上がりテストは、10・20・30・40cmの4種類の高さの台から、片脚で立ち上がれるかどうかをチェックします。このうち40cmの台は、普段私達が使用する椅子の高さとほぼ同じなので、講演会やイベントにご参加いただいた方だけでなく、今すぐチャレンジすることができます。

動画「【Try! 40cm】ロコモ度テスト「40cmの高さから片脚で立ち上がり」にあなたもトライ!!」では、色々な方が立ち上がりテストにチャレンジした様子をご覧いただけます。あなたは、椅子から片脚で立ち上がれましたか?

Try40cm=トライフォーティー。気軽に立ち上がりテストをトライしましょうという施策。

ご自身のロコモ度をチェックしていただいたところで、いよいよ岸田先生に、ロコモティブシンドロームの改善・予防について詳しく教えていただきたいと思います。

今からできることは運動と食事、安全性の確保を忘れずに

――若い方への啓発は、「ロコモ予防」の鍵となりますね。

岸田先生 例えば、50歳になって膝が痛くなってきてから、骨粗しょう症が見つかってから予防するよりは、若いうちからこつこつやっていく方が効果も出ます。骨折をしてから、「実はロコモだった」というよりは、予防するのが大事なので。若いうちから、食事に気をつけたり、運動したりしてほしいなと、考えています。

――改善・予防のための食事、運動のポイントはありますか?

岸田先生 食事については、運動機能を維持するためにはいろんな品目の食事を摂るといいです。日本整形外科学会では、10品目(肉、魚介類、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品、緑黄色野菜、海藻類、いも、果物、油を使った料理)の中で、バランス良く色んなものを食べることが低栄養を防ぐので、推奨しています。

また、運動に関しては色々な運動がありますが、簡単で安全でどこでもできるので、ロコトレを推奨しています。片脚立ちの運動スクワットの運動ですが、それぞれ1分間ずつ1日3回が目安です。こまめにやった方がいいので、1回あたり5~6回繰り返しましょう。

――運動は、そこまで回数・強度がなくてもいいのですね。

岸田先生 ロコトレは、安全であること、どこでもできること、そしてスクワットをすると筋力が確かに増強する、改善するという論文があることから推奨しています。例えば、太極拳は実は筋力がアップして転倒予防の効果があるというエビデンスがあるんですよ。

――ゆっくりとした動きも効果があるのですね。

岸田先生 そのとおり。スポーツを全くしないのは運動不足ということで問題ですが、逆に、若いうちにスポーツで怪我をしてしまうことで、将来的に変形性膝関節症などの原因になってしまうこともあります。適切なスポーツ環境がすごく大事だと思います。また、市民公開講座などを開くと、70歳以上の高齢の方も多く来てくださるので、安全にできるってすごく大事なんですよね。いろんな移動機能のレベルの方がいるので、その人のレベルに応じたことをやるべきだなと思います。

こういう話を聞いて、急にスポーツクラブに通おうと思う必要はないと思うんです。日常生活の中で体を動かすような習慣を取り入れたり、いろんな食品を摂ることを意識してもらったりしたいのですが、なかなか長続きしないですよね。もともと全然運動していないですよっていう人は、「運動しろ!」って言われてもなかなかできません。そのため、誰でもできることとして、ロコトレをまずおすすめしています。

体を動かすのは楽しい、楽しいことを続けられるように

岸田俊二先生-写真

――先生が、ロコモティブシンドロームの啓発に携わろうと思った、きっかけを教えてください。

岸田先生 僕は股関節の手術をよくするのですが、患者さんから、足が痛いから旅行に行きたいけど行けない、親の介護をしなければいけないけれど、介護ができなくなったらと心配している、買い物に行きたいけれど行くのが大変、といったお話を聞きます。手術後の患者さんが、「旅行に行けました!」とか言ってくれると、ああ良かったなと感じます。僕自身も運動をするんですけど、それは理屈抜きに楽しいですよね。マラソン大会とか出たりすると楽しいじゃないですか。

――実は私も立ち上がりテストに挑戦しました。自分でやってみると楽しいですよね。

岸田先生 体を動かすことは、やっぱり楽しいです。話を聞くだけじゃなく、自分でやってみると「できる!うれしい!」とか「できない!悔しい!」とか、感じると思うんです。それがきっと、体を動かすことが楽しいと感じる所以なのではないでしょうか。そういうことをずっと続けられるようにするのが、僕達、医師の使命なのかなと思っています。

編集後記

改善・予防のためには、バランスの良い食事と適度な運動を続けること。基本的なことですが、毎日の習慣を変えることは想像以上に難しいことです。毎日、無理なくできることを少しずつ取り入れていくこと、運動は安全性を確保しながら行うことが重要です。

また冒頭にもあったように、「ロコモティブ」とは推進する、前に進むという意味があります。何かができなくなってしまう…といったネガティブな意味ではなく、習慣を続けることで旅行に行ける、出かけられる、体を動かせるなど、ポジティブな意味で捉えてほしいと岸田先生は話していました。体を動かすことの「楽しさ」を発見・再確認することで、心が動く瞬間も体験していただけたらと思います。