流行性耳下腺炎は、別名おたふく風邪と呼ばれ、その名のとおり、おたふくのように顔の下半分が腫れる症状で有名です。流行性耳下腺炎を発症した患者さんの45~47%は4歳以下で、0歳は少ないため、幼児が保育園や幼稚園で感染することの多い病気です国立感染症研究所より)。

様々な合併症を発症する可能性があり、後遺症として一生に関わるものもあるため、早期の診断・治療が重要になります。ここでは、流行性耳下腺炎の症状、感染経路、合併症、治療法などについてお話ししたいと思います。

目次

流行性耳下腺炎とは?

流行性耳下腺炎は、ムンプスウイルスというウイルスによる感染症で、唾液腺(唾液を出す部分)が急に腫れてくるのが特徴です。多くの場合は耳の下にある耳下腺が腫れますが、顎の下にある顎下腺が腫れることもあります。

両側が腫れる場合が多いですが、片側だけ腫れる場合も25%程度あります(厚生労働省より)。また、片方ずつ腫れる場合もあります。

腫れと共に痛みを伴う場合があり、発熱、全身のだるさ、食欲不振、頭痛などの症状が出ることが多いです。症状は通常1周間程度で軽快します。登園・登校禁止期間は、発症翌日から5日間です。

予防接種で流行性耳下腺炎のワクチンを接種することで、感染を防いだり、症状を軽くしたりする効果が期待できますが、日本では現在、流行性耳下腺炎の予防接種は任意接種のため、接種率が30~40%と低迷しており、4~5年ごとに大流行しています。ワクチンを打つと注射をした部位が腫れることがありますが、これは2~3日で引くことが多いようです。

唾液腺の開口部(唾液が口の中に分泌する部位)が炎症や唾石などで塞がると、おたふくのように腫れることがあります。これは繰り返すことが多いので反復性耳下腺炎とも呼ばれています。

流行性耳下腺炎の感染経路

春から夏にかけて流行しやすいです。感染する経路は下記のとおりになります。

飛沫感染

感染している人がくしゃみや咳をした際に、口から飛んだウイルスを含む小さな水滴をほかの人が吸い込むことで感染することをいいます。2m以上離れていれば感染しないとされています。

接触感染

感染している人の手などに付いたウイルスが、握手などによる接触や、ドアノブや階段の手すりなどを介して感染することをいいます。

怖い合併症

流行性耳下腺炎になると、下記のような合併症を起こす可能性があります。後遺症として一生に関わる可能性があるのが、睾丸炎と感音性難聴です。

無菌性髄膜炎

大抵の場合、無症状ですが、発熱、頭痛、嘔吐などの髄膜炎の症状が出る場合が10%程度あります。

睾丸炎

思春期以降の男性が流行性耳下腺炎になった場合、20~30%が睾丸炎を発症し、その10数%程度に機能障害が残り、男性不妊の原因となる可能性があります国立感染症研究所より)。

睾丸炎は、耳下腺の腫れた後8日以内に起こることが多く、睾丸の腫れと激痛、体温上昇、頭痛、悪心、下腹部痛などの症状が出ます。ほとんどの場合、睾丸の症状は片側のみです。

卵巣炎

成人女性が流行性耳下腺炎になった場合、7%程度が卵巣炎を発症しますが、ほとんどの場合、不妊症にはならないとされています。

膵炎

胃痛、発熱、嘔吐などの症状がみられ、激しい腹痛やショック症状を起こす場合もあります。

感音性難聴

感音性難聴は、0.1~1%の頻度で発症し、片側性の難聴が一生残る場合があります。稀ですが両側の高度感音性難聴になる場合もあり、補聴器や人工内耳が必要になる場合もあります。

成人の場合は、耳鳴りやめまいを伴うことが多く、耳の聞こえにくさなどで気づきやすいですが、幼児の場合、本人からの訴えがなく気づかれない場合も多いため注意が必要になります。流行性耳下腺炎の後に難聴になる可能性があることは覚えておきましょう

 

上記のほかに、頻度は低いですが、脳炎、脊髄炎、心筋炎、腎炎、関節炎、血小板減少性紫斑病、甲状腺炎などを発症することがあります。

治療法

ウイルスによる感染症のため、抗生物質が効きません。有効な治療法がないため、症状に合わせて治療を行っていく対症療法で経過を見ていきます。

発熱に対しては、解熱鎮痛剤を投与します。また、脱水を防ぐためにこまめな水分補給が必要になります。酸っぱい食べ物や飲料で耳下腺の痛みが増しやすいため、酸っぱいものは避けておきましょう。

いつから登園・出席OK?

登園

学校保健法では、耳下腺、顎下腺又は舌下線の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止とされています。症状の出方は人それぞれですので、いつまで休ませるべきかは診察の際に聞いておくのがベストです。

まとめ

国立感染症研究所によると、流行性耳下腺炎の全感染者の30~35%で症状がほとんど出ず、感染していることに気付きません(不顕性感染)。そのため知らず知らずのうちに感染している場合があり、予防接種を受けておくのが一番の予防法といえます。

また、流行性耳下腺炎には有効な治療法がなく、男性不妊や難聴などの後遺症を起こす危険性もあるため、あまり罹りたくない病気です。
予防接種は2回接種(1歳以降と、小学校就学前の1年間)する必要がありますが、接種後に流行性耳下腺炎になる割合は1~3%程度まで下がるという報告もあります(国立感染症研究所より)。保育所や幼稚園に入るまでに予防接種を受けておいたほうが安心でしょう。接種を迷われている場合は、かかりつけの小児科に相談してみるといいかもしれません。