名前の通り、耳の下にある耳下腺と呼ばれる唾液腺の痛みと持続する発熱が特徴です。近年、小児期ではワクチンは2回接種が推奨されておりますが接種率は低く、2016年には全国的な流行が懸念されております。成人では小児と比べて症状経過が重く、髄膜炎・脳炎・膵炎、精巣・卵巣炎、難聴の合併症が多いです。

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おたふくかぜ(ムンプスウイルス感染症:流行性耳下腺炎)の歴史

おたふくかぜ(ムンプス感染症:流行性耳下腺炎)は、5世紀にヒポクラテスがThasus島で、耳の近くの組織が腫脹する病気が流行したのを記載したのが最初です。ひどい耳下腺炎を起こした患者が、痛みで「ぼそぼそ話す(mumbling speech)」と報告されているほか、合併症として睾丸が腫脹すること、耳が聞こえなくなることも記載されています。

その後の研究では、唾液などを介して感染するRNAウイルスであること、また、ワクチン接種により予防ができることが判明しました。諸外国ではMMRワクチン(おたふくかぜ、風疹、麻疹の混合ワクチン)の普及により感染数は低下しました。

一方、日本では、MMRワクチンは副反応を懸念して1993年に中止となり、おたふくかぜワクチンは単独で行っておりました。公費の対象でない任意ワクチンの区分であり、諸外国と異なり1回接種を推奨されておりました。このため、3~4年ごとでの流行のピークがありますが、2015年の年末からは報告数が増加傾向にあり、全国的な流行が懸念されております。日本では近年ようやく、日本でも乳幼児期での2回接種を推奨し始めております。

おたふくかぜの感染経路

原因微生物であるムンプスウイルスの感染経路は、感染経路は、患者のくしゃみに含まれるウイルスを吸い込むことによる感染(飛まつ感染)ウイルスが付着した手で口や鼻に触れることによる感染(接触感染)があります。感染時期は耳下腺腫脹する数日前からは解熱するまでであり、その感染力が強いです。その一方で、接触しても症状が現れない方(不顕性感染「ふけんせいかんせん」)も3割程度です。

おたふくかぜの症状(子供と大人の比較)

親と子供

一般的な初期症状としては、軽い首の痛みと頭痛。「ちょっと、疲れて体調を崩したかな……」という程度の、風邪に似た症状です。そのため、まわりにおたふく風邪になっている人がいない、また感染が流行していない時期では、自身ではおたふく風邪にかかったと気づく人ほとんどいないと思われます。その後、発熱、頭痛、耳の下が腫れだして初めて「あれ?これは、おたふくかぜ…!」と気付くようになります。

潜伏期間は2~3週間(平均18 日前後)であり、主症状である唾液腺の腫脹・圧痛、嚥下痛、発熱が4~5日程度で改善します。ウイルスは唾液腺に感染するため、腫れは両側、あるいは片側の耳下腺にみられることがほとんどであるが、あご(顎下腺)にも起こることがあります。

また、子供では4歳以下の方が多いですが、成人では小児より症状が長続き、また下記の合併症がおこる可能性は高いです。その理由として、成人の場合では、子供と比べて、体内に入ってきたウイルスを排除しようとする抵抗力=免疫が強く反応するためと考えられます。そのため、子供よりも高熱が出て持続したり、炎症がひどくなったりするようです。さらに子供に比べて成人の方が体のどこかに疾患がある場合も多く、重症化・合併症発生の確率は少なくないです。

おたふくかぜとまぎらわしい疾患

似たような症状として、風邪のウイルスであるコクサッキーウイルス、パラインフルエンザウイルスなどによる反復性耳下腺炎などがあり、子供でみられることがあります。反復性耳下腺炎は耳下腺腫脹を何度も繰り返すが、軽度の自発痛で、発熱はなく数日以内に改善します。耳下腺炎に何度もかかるお子さんの場合、この可能性もあります。

おたふくかぜの合併症~成人こそあなどれない~

頬に手を当てる男女

合併症として最も多いものは、おたふくかぜのウイルスによる「無菌性髄膜炎」です。症状が4~5日経過しても改善せず、頭痛・嘔吐がみられたら要注意です。これはおたふくかぜの症状の明らかな例のうち、約10%に出現すると推定されています。また約0.2%の割合で「脳炎」へ発展するケースもあります。髄膜炎の症状に加えて、意識障害やけいれんなどがある場合は脳炎の可能性が高いです。

膵炎」も合併症で起こる場合があります。頻度は20,000人に1人程度ですが、激しい腹痛・嘔吐などであり、ショック状態となり、症状が悪化すると腹膜炎を起こしかねません。

これらの合併症はすべて命にかかわる危険がありますので、速やかに救急外来を受診あるいは救急車を呼ぶなどして早急に受診をしてください。

一方、思春期以降では、男性で約20~30%に「精巣炎」、女性では約7%に「卵巣炎」を合併すると報告されております。

男性の精巣炎では、発熱、陰嚢部の腫れ(約5倍の大きさとされます)、うずくような痛みが出ます。陰嚢部を上に持ち上げる、冷やしたりすることで楽になるというのも特徴です。痛みがひどいときは局所麻酔をする場合もあります。この精巣炎は片方だけということが多いようですが、左右両方共に発症し睾丸に大きなダメージが起きてしまった場合、「無精子症」といわれる不妊症の原因となってしまいます。

女性では、激しい腹痛の症状があった場合は内科・婦人科を受診して検査をすることもあります。卵巣炎も男性同様片側であることが多いです。不妊になることはあまり無いようですが、長期的に後遺症となってしまうのは苦しいことです。早めの受診と適切な処置が大切です。また、妊娠中におたふく風邪に感染してしまったら、低体重児出産や流産の危険性があります。

ごくまれですが、20,000 例に1例程度に「難聴」を合併するとされております。こちらは、聴診系の細胞そのものが障害をうけ、永続的な障害となるので重要な合併症のひとつです。

おたふくかぜにかかってしまったら

頬をおさえる女性

幼稚園・保育園、学校、会社へ告知・連絡してください。基本的には法定感染症疾患であり、出席停止扱いとなります(欠席・欠勤扱いとなることは少ないです)腫れがあるうちは感染力があります。腫れが引いて、熱や倦怠感といった症状がなくなるまでの期間は安静が必要となるようです。治癒まで4~5日はかかりますので、受診して治癒証明を取得されることをおすすめします。

おたふくかぜの予防…ワクチンこそが唯一の手段

日本においては、任意ワクチンで有料ですが、1~2歳に1回、5歳前後に1の合計2回のワクチン接種が推奨されております。また、成人でも、早めにワクチンを1回接種することにより予防が可能であります。接種後はおおむね90%前後の方が、予防に有効な抗体レベルになるとされております。

まとめ

おたふくかぜ感染症は、近年、流行の兆しがみられます。合併症として、髄膜炎・膵炎・難聴・不妊のリスク(精巣炎・卵巣炎)が懸念されます。そのため、諸外国に様に、小児期には2回の予防接種が感染発症に重要であり、成人でもワクチン接種の追加をおすすめします。