浸潤や転移という言葉を耳にする機会が多くなり、意味や仕組みを知りたいと考えている方は多いと思います。がんはなぜ原発巣(がんが最初に発生した場所)から遠く離れたほかの臓器に広がってしまうのでしょうか。それは、がんが悪性と言われる理由となっている浸潤、転移できる性質を持っているためです。この記事では、がんがどのように浸潤、転移していくのかを解説していきます。

こちらの記事を読む前に、がんの発生メカニズムをまとめた記事を読んでいただくとよりいっそうがんを理解することができます。

目次

浸潤、転移とはどのような意味なのか

1.浸潤

がん細胞が原発巣から、周囲の組織や臓器にしみ込むようにして広がっていくことを浸潤と呼びます。

2.転移

がん細胞が血流などの流れに乗って、原発巣から離れた他の臓器へ移動し、そこで再び増殖し、腫瘍を作ることです。

浸潤と転移のメカニズム

がんは、原発巣での増殖、周囲への浸潤、遠隔臓器への転移を起こしながら広がっていきます。

1.原発巣でのがん細胞の増殖

何らかの原因によってがんが発生すると、がん細胞に対して、がん細胞自身や他の細胞が、増殖するように指令を出し続けるようになります。さらに、がん細胞は自身の成長のために新しい血管を作り、栄養分を取り入れるようになります。これにより、がん細胞はどんどん大きな塊を作っていきます。この間、がん細胞は免疫細胞の監視や攻撃を免れ、増殖を続けていきます。

2.周囲への浸潤

がん細胞は増殖した結果、大きな塊を作ります。
しかし、がん細胞が浸潤するためには、塊を小さくして、動きやすくする必要があります。この働きが浸潤や転移の第一歩となります。

通常の細胞どうしは、接着剤の役割をするたんぱく質によってくっつけられています。がんでは、このたんぱく質の量が減ったり、くっつける機能が弱まったりしています。そのため、接着剤の力が弱くなり、がん細胞の塊が小さくなっていきます。
身軽になったがん細胞が、細胞と細胞の間を埋めている細胞外基質と呼ばれる物質を壊すことで浸潤が始まります

基質は、がん細胞だけでなく、炎症反応の一環として周囲の他の細胞が作り出す酵素によって壊されていきます。

がん細胞は壊した基質の合間をぬうようにして移動し、転移するための移動手段となる血管やリンパ管などへ近づいていきます。

3.離れた場所への転移

転移には、血行性転移、リンパ行性転移、播種性転移の3つの種類があります。

(1)血行性転移

がん細胞が血液の流れに乗ってほかの臓器に移動し、そこで再び増殖を始めることを血行性転移といいます。

血行性転移は次のようなメカニズムで起こります。

 ①がん細胞が新しい血管を誘導する

がん細胞はよりたくさんの栄養分を取り入れるためや、転移するルートを作るために、新しい血管を作り出します。この働きは腫瘍血管新生と呼ばれており、「1.がん細胞の増殖」で説明したものと同じです。

腫瘍血管新生は、がん細胞がもともとある血管に対して、新しく血管を作るように指令を出すことから始まります。新しい血管は、がん細胞による指令に誘導され、がん細胞に引き寄せられるようにして作られていきます。

しかし新しくできた血管は通常の血管に比べて弱いため、がん細胞は簡単に血管内へ侵入できるようになります。

 ②血管内への侵入

血管の周りの基質を壊して、がん細胞が血管内に侵入します。

 ③がん細胞が血流にのる

侵入したがん細胞のほとんどは、がん細胞を攻撃する免疫細胞や非常に速い血液の流れによって死んでいきます。

しかし血管内では、がん細胞が自身をカモフラージュすることにより免疫細胞から逃れる作用やがん細胞が血管の中から外へ脱出しやすくする作用が働くことがあります。

このように転移のメリットとなるような働きにより、過酷な血流中でも、ごくわずかながん細胞は生き残ってしまいます

 ④がん細胞が血管から抜け出す

生きのびたがん細胞は血管を作っている細胞にくっつき、その細胞のすき間から血管の外に抜け出していきます

そして、抜け出したがん細胞は原発巣から離れた新しい場所で増殖を始めます。

がんの浸潤・転移の仕組み

(2)リンパ行性転移

リンパ行性転移は、がん細胞がリンパ管に侵入し、リンパの流れに乗って、リンパ節でがん細胞が再び増殖することです。

血行性転移と同じようなメカニズムで起こっているといわれています。
しかし、リンパ管の作りは血管よりもゆるいためがん細胞が非常に入り込みやすく、さらに、リンパ管内の免疫細胞の数も比較的少ないため、リンパ管内はがん細胞が生き残りやすい環境となっています。

(3)播種(はしゅ)性転移

播種性転移とは、がんができた臓器からがん細胞が剥がれ、体内にある空洞(体腔)部分にがん細胞が撒き散らされるように広がって行くことです。

がん細胞が撒かれるように広がるためには、細胞同士がバラバラになる必要があります。がんの播種には、細胞同士をくっつけているたんぱく質の量の変化が関係しているといわれています。

がんの播種性転移

4.転移した先で腫瘍を作る

それぞれの移動手段によって運ばれてきたがん細胞が転移した先で再び増殖し、がん細胞の塊(転移性腫瘍)を作ります。

まとめ

がんの浸潤や転移には、たくさんの因子が関わっています。がん進行の複雑なメカニズム解明のため、現在も多くの研究が進められています。

がんの発生についてさらに知りたい方は、下がん対策情報センターの下記ページもあわせてご覧ください。

国立がん研究センター がん情報サービス|再発、転移とは