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手術、抗がん剤、放射線――がんの治療には様々な方法がありますが、いずれの方法も、身体のあちこちに様々な副作用を引き起こします。

吐き気や倦怠感などの症状に加え、外見にも様々な変化が起こるのががん治療の副作用です。“がん”という病名だけで、脱毛をはじめ目に見える変化を想起する方もいるでしょう。

がん治療が発展した現在、多くの患者さんが治療を終えて社会に戻ってきています。あわせて、その社会復帰を支えるための支援も“医療” の一部として着目され始めています。

中でも「外見」に特化したケアを提供しているのが、国立がん研究センター 中央病院 アピアランス支援センターです。今回の記事ではセンター長の野澤桂子先生に、がん患者さんにとって「見た目の変化」とはどういうものか、どんなケアが患者さんを救うのかを聞きました。

お話を伺った先生の紹介

外見の悩みは「社会が消えるとなくなる痛み」

治療によってがん患者さんに起こる外見の変化には、手術の傷、脱毛、皮膚の色素沈着、爪の変色や変形などがあります。

従来、外見の問題は“症状”の問題として捉えられてきたため、そのケアも「症状を良くする」ためのものでした。しかし野澤先生は、外見変化によって生じる悩みは本来「社会関係性の問題」だと強調します。

 

あなたは、無人島に自分一人でいたら、髭を剃ったりお化粧したり髪を整えたりしますか?この質問を講演会で100人に聞くと、90人以上が『何もしない』と答えます。これは男女ともそうですし、健康な人も、そして患者さんも同じです。患者さんは『もし(世界に)自分しかいなかったら、脱毛も顔の一部の欠損も、こんなに苦痛だとは思わないだろう』と言うのです。

今まで医療が注目してきた“痛み”は、どこにいても、一人でいても辛い痛みでした。ところが外見の変化は、ものすごく苦痛なのに、社会が消えるとなくなる痛みといえます。ここが、他の痛みと決定的に違う部分です」

 

さらに野澤先生たちの調査により、患者さんたちが外見の変化に悩む本当の理由が明らかになってきました。

 

「まずは、その症状が病気や死の不安を常に呼び起こしたり、違和感を与えたりすることです。朝起きて顔がむくんでいたら『なんだか今日は自分らしくない』と思う、その感覚です。

もう一つ大きな要素が、これまで通りの対等な人間関係でいられなくなってしまう不安、つまり社会関係性の問題です。つまり、医療においてゴールにすべきは、症状を元に戻すことよりも患者さんがこれまで通りに生活できるようにすることです。そこで、アピアランス支援は“Beauty”ではなく、“Survive”するための方法だと伝えています」

 

野澤先生は「どれだけ見た目を綺麗にしても、全く外に出られなければ意味がない」と考え、症状を完璧に治すことではなく、患者さんを社会とつなぐことに重点を置いています。

 

「『かわいそうな人』『先がない人』と思われてしまうのではないか、今まで通り付き合ってもらえないのではないか。患者さんの悩みはそういった社会との関係なので、そこへの支援を大切にしています」

 

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