腫瘍マーカーを測定したけど読み方がわからない、腫瘍マーカーにどんな項目があるのかを知りたいと思っている方は多いのではないでしょうか。

この記事では、数ある腫瘍マーカーのうちの一部を紹介していきます。

目次

基準値、カットオフ値とは?

検査結果を手にした時によく目にする基準値とカットオフ値は一体どんな意味をもっているのでしょうか。

1.基準値

健康な人から集めた検査値を並べた時に、95%の人が含まれる範囲を基準範囲といいます。この95%の健康な人の検査値を平均した値が基準値です。

2.カットオフ値

腫瘍マーカーでは、がんに対する特異性(病気のある人を陽性と判断できる能力)、感度(健康な人を陰性と判断できる能力)に乏しいため、カットオフ値が用いられます。

カットオフ値は、ある病気を持っている人と病気を持っていない人を判別する際に最適な値を指します。つまり、カットオフ値を超える健康な人はあまりいないという意味があります。

カットオフ値は、がん患者とがん患者ではない人を区別するためのはっきりとした境目ではありません。このため、がん患者だけでなく、がん患者ではない人でもカットオフ値を外れて陽性となってしまうことがあります。

それならば、カットオフ値をもっと高い値に設定すれば、がん患者ではない人が陽性にならないのではないかという意見もあると思います。しかし、カットオフ値を高くしてしまうと、腫瘍マーカーが上がりにくいがんは、がんがあるのに陰性と判断されて偽陰性となってしまいます。
反対にカットオフ値を低くしてしまうと、がん患者は高い確率で陽性と判断されますが、がん患者ではない人ががんと判断されて偽陽性となってしまいます。カットオフ値は、がん患者の偽陰性率が最小となり、かつ、がん患者ではない人の偽陽性率が最小となる値に設定されています。

腫瘍マーカーの注意点

腫瘍マーカーはがんの早期発見を行うための検査ではありません

腫瘍マーカーは進行したがんを把握するために利用されており、早期発見に有効な検査として行われているものではないという現状があります。ただし、PSA(前立腺がんを検出できる腫瘍マーカー)については早期発見に有効な項目であると言われています。

腫瘍マーカーが陽性となっていても100%がんがあるとは限りません

腫瘍マーカーの検査結果がカットオフ値を超えていても、あくまでも〝がんが存在している可能性がある〟ということを示しています。陽性となった場合は、他の検査結果を考慮して診断します。

腫瘍マーカーはがん診断におけるメインの検査ではありません

がんの診断は、血液検査、MRIやCTなどの画像検査、超音波検査、内視鏡検査、身体所見や腫瘍マーカーなどを組み合わせて総合的に行われます。つまり、腫瘍マーカーのみで診断は行わず、あくまでも補助的な役割を果たします。

各腫瘍マーカーの紹介

ここでは各腫瘍マーカーのカットオフ値と陽性となった場合に考えられる疾患を紹介しています。カットオフ値は測定方法や医療機関によって異なる場合があります

CEA

カットオフ値:2.5ng/mL以下(ng:ナノグラム mgの1/100万の大きさのことです)

CEAはがん胎児性抗原と呼ばれており、がん細胞と胎児の両方に存在しています。がん化により細胞の性質が変化し、分泌に異常が生じることで、CEAが上昇します。

CEAは健康な人でも作り出されていますが、血液中の濃度は非常に低いです。
CEAが高値となる原因には次のようなものがあります。

高値
悪性腫瘍 大腸がん、胃がん、膵臓がん、
胆道がん、卵巣がん、肺がん、
膀胱がん、甲状腺がん、乳がん
良性疾患 胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、肝硬変、
慢性肝炎、閉塞性黄疸、肺炎、
慢性気管支炎、子宮内膜症、
糖尿病、腎不全、乳腺症
その他 加齢、喫煙、妊娠

※良性疾患とは、悪性腫瘍以外の疾患を指します。

AFP、AFP-L3分画

カットオフ値:AFP 20ng/mL、AFP-L3分画 7%

AFPはα-フェトプロテインと呼ばれ、AFPもCEAと同様に胎児で多く作られており、成人ではほとんど作られることはありません。

次のような場合に、AFPは高値を示します。

高値
悪性腫瘍 肝細胞がん、転移性肝がん、肝芽腫、
ヨークサック腫瘍(卵黄嚢腫瘍)、
胃がん、肺がん
良性疾患 慢性肝疾患、肝不全
その他 乳児、妊婦

近年、AFP L3分画の測定が行われています。

AFP L3分画検査とは、がんによって変化したAFPの糖鎖(数種類の糖が複雑につながったもの)がレクチン(糖蛋白にくっつくことのできるたんぱく質)と結合する性質を利用した検査です。AFPはレクチンとの結合性によってレクチン非結合性分画(L1)、レクチン弱結合性分画(L2)、レクチン結合性分画(L3)の3つの分画に分類されます。

各分画で高値を示すものには次のような場合があります。

高値
L1 慢性肝炎、肝硬変
L2 卵黄嚢腫瘍、消化器がんの肝臓転移
L3 肝細胞がん、劇症肝炎、
肝硬変の重症化

AFP-L3分画のカットオフ値は、総AFPに対するAFP-L3の割合です。

PSA

カットオフ値:4ng/mL以下

PSAは前立腺特異抗原と呼ばれており、前立腺を構成する細胞から作り出されています。
精液の粘度や精子の運動に関与していると言われており、健康な人でもPSAは検出され、通常は約2ng/mL以下です。

次のような場合に、PSAは高値を示します。

高値
悪性腫瘍 前立腺がん
良性疾患 前立腺肥大症、
細菌感染などによる前立腺の炎症

PSAは前立腺がんの早期発見や経過観察に最も有効な腫瘍マーカーといわれています。

PSAのカットオフ値は、4ng/mLですが医療機関によっては年齢別にカットオフ値を定めていることがあります。

  • 50~64歳:3ng/mL以下
  • 65~69歳:3.5ng/mL以下
  • 70歳以上:4ng/mL以下

SCC抗原

カットオフ値:1.5ng/mL以下

SCC抗原は扁平上皮癌関連抗原と呼ばれています。SCC抗原は扁平上皮癌という種類のがんで上昇しますが、正常な皮膚や口の中を構成している扁平上皮細胞もたくさん作り出しているため、汗や唾液にもSCC抗原が含まれています

次のような場合に、SCCは高値を示します。

高値
悪性腫瘍 子宮頸部がん、食道がん、頭頚部がん、
肺がん、皮膚がん
良性疾患 皮膚の炎症性疾患、気管支喘息、
肺炎、慢性腎不全

PIVKA-Ⅱ

カットオフ値:40mAU/mL未満

PIVKA-Ⅱとは血液を固める作用を失ったいくつかの異常な血液凝固因子です。血液凝固因子とは、血液を固めるために働く要素のことです。

次のような場合に、PIVKA-Ⅱは高値を示します。

高値
悪性腫瘍 肝細胞がん
良性疾患 肝硬変、慢性肝炎、
食事の不摂生によるビタミンKの欠乏、
ワルファリン(ビタミンKの働きを阻害する薬剤)や
抗生物質の投与、アルコール性肝障害

CA19-9

カットオフ値:37.0U/mL

CA19-9は正常の場合も膵管、胆管、胆のう、胃、大腸、子宮内膜を構成する細胞に微量に存在しています。これらの臓器に炎症や癌が発生するとCA19-9が過剰に作り出され、値が上昇することがあります。

次のような場合に、CA19-9は異常値を示します。

高値
悪性腫瘍 膵臓がん、胆道がん、大腸がん、胃がん
良性疾患 膵炎、胆のう炎、胆石などによる黄疸、
肝炎、肝硬変、糖尿病、
気管支拡張症、子宮内膜症

 

低値
ルイス血液型陰性者

※ルイス血液型

血液型にはABO型だけでなく、もっと細かい型があり、ルイス血液型はその一つです。CA19-9は、ルイス血液型を決定するルイスAにシアル酸という物質がくっついたもの(糖鎖抗原)です。
日本人の5~10%の割合でルイスAを作ることのできないルイス血液型陰性者がいます。ルイス血液型陰性者の場合、本来CA19-9の値が上昇するがんが体内にあったとしても、CA19-9として測定ができないことがあります。その場合は、別の腫瘍マーカーを用いて対応します。

CA125

カットオフ値:35U/mL以下

CA125は卵管、子宮内膜、子宮頸管や腹膜などを作っている中皮細胞に存在しています。
また、CA125の値は、女性では月経周期や年齢によって大きく変動します。

次のような場合に、CA125は異常値を示します。

高値
悪性腫瘍 卵巣がん、子宮がん、腹膜がん、
胃がん、肝臓がん、膵臓がん、
直腸がん
良性疾患 良性卵巣腫瘍、子宮内膜症、
卵巣チョコレート嚢胞、子宮腺筋症
その他 月経期、妊娠中、分娩直後

 

低値
卵巣摘出後、閉経後

NSE

カットオフ値:10ng/mL 小児:15ng/mL

NSEは神経特異的エノラーゼと呼ばれる酵素で、神経細胞や神経内分泌細胞の中に存在しています。

NSEが高値を示す原因には次のようなものがあります。

高値
悪性腫瘍 小細胞がん、神経内分泌癌、
胚細胞性腫瘍、神経芽細胞腫
良性疾患 肺の良性疾患、胃潰瘍

まとめ

腫瘍マーカーでは、がん患者さんを見逃さないため、がんを患っていない人を誤って陽性としてしまわないためのカットオフ値が用いられています。カットオフ値を超えて陽性となっても、あくまでもがんが存在する可能性を示していることになります。

すでに検査を済ませ、腫瘍マーカーを含め各種検査でがんの存在が疑われている場合は精密検査を受けましょう。また、これから腫瘍マーカーの検査を行うかどうかを悩んでいる方は、腫瘍マーカーの特徴を理解しておきましょう。

がんの発生についてさらに知りたい方は、下がん対策情報センターの下記ページもあわせてご覧ください。
国立がん研究センター|がん情報サービス|腫瘍マーカー