最近では誰もが、「PET検査」についてきいたことがあるかもしれません。「癌が見つかる」という、漠然としたイメージを持たれている方も多いことでしょう。PET検査は、1975年に最初のヒト用PET装置が開発され、すでに40年以上の歴史があります。わが国で、2002年にFDGという薬剤を用いたPET検査が保険適応となり、2005年にFDGのデリバリーが開始されると、国内でもPET検査の知名度は上がり、PET装置の台数は増え、検診で使用されることも増えてきました。

目次

PET検査の特徴

CTやMRI、超音波検査などは、主に病変の大きさや形、血流などを見ていますが、PET検査は、病変の代謝を反映しています。悪性腫瘍であれば、糖代謝を反映していますので、バイアビリティ(腫瘍が生きているかどうか、腫瘍が活発に代謝を行っているか)をより正確に反映すると考えられています。

また、PET検査では、SUVという値を測定して、その値によって、良悪性の鑑別を行ったり、悪性度の指標にしたりします。一般的には、この値が高いほど悪性の可能性が上がり、低ければ良性病変のことが多いです(炎症でも上昇するので、全ての事例にはあてはまりません)。このように、定量値が測定できるのも特徴のひとつです(正確には半定量値とよびます)。

SUVは以下の式で求められます。

SUV=放射能濃度[Bq/g]
/(投与放射能量[Bq]/体重[g])

PET検査の仕組み

現在ではPET検査は、CTやMRIと並んで、画像診断の主要な検査として位置づけられています。CTやMRIと異なっている点は、放射性化合物を含む薬剤を体内に投与して、体内で薬剤から出る「陽電子」とよばれる粒子が、電子と衝突して電荷を打ち消し合って消滅する際に、「消滅放射線」と呼ばれるγ線を放出するのですが、それを検出器で検出し、画像化しているという点です。

PET検査のように、体内で放射線を出す薬剤を注射して、放出された放射線を検出して画像化する検査のことを「核医学検査」とよび、PET検査以外に、骨転移を見つける骨シンチグラフィー検査や、心筋虚血などを検出する心臓核医学検査、肺塞栓を診断する肺換気血流シンチグラフィ検査などがあります。

PETの仕組み

出典:藤井(2015), Jpn J Med Phys. 35(1):2-9

PETの仕組み

PET検査の原理:消滅放射線を、円形に配列された検出器で検出

出典:藤井(2015), Jpn J Med Phys. 35(1):2-9

PET検査に使用する薬剤

PET検査には、陽電子を放出する薬剤が使用されます

最も広く使用されているのがフッ素の放射性同位体で標識された18F-FDGと呼ばれる薬剤です。
18F-FDGは、1970年代に井戸らによってアメリカで開発されました。これはブドウ糖化合物で、体内ではブドウ糖に類似した動態を示しブドウ糖代謝を反映します。癌細胞ではブドウ糖代謝が亢進(活発になること)するため、癌に18F-FDGが多く取り込まれ、画像で検出することができます。また、炎症を起こしている組織でも同様にブドウ糖代謝が亢進しているので、炎症組織にもよくとりこまれます。

現在では、癌の転移などの診断や、良悪性の鑑別診断、悪性リンパ腫の病期診断などに用いられています。検診にも使用されますが、検出能には限界があります。これについてはまた後述します。
また、18F-FDGは脳のブドウ糖代謝を診断することもできるので、脳機能の測定に使用されることがあります。

現在のPET検査は、圧倒的多数が悪性腫瘍の診断目的に使用されています。
18F-FDG以外にも、PETで使用される薬剤は複数あります
。それほど頻繁ではありませんが、脳腫瘍などに使用される11C-メチオニン、15Oを用いた脳酸素代謝や血流測定などがあります。
近年、様々な薬剤が開発されており、認知症のアミロイドPETなどもさかんに研究されるようになってきました。

また、PETで使用される放射性同位元素は、いずれも半減期が短いことが特徴です。半減期(放射性同位元素が崩壊して、なくなっていく速度を示す指標。短いほど消滅は早い)が短いので、被曝を最小限に抑えることができます。最もよく使用される18Fの半減期は110分、11Cは20分、15Oは2分とされています。

PET/CT,  PET/MRIとは

PET検査は、単独で行うこともありますが、薬剤の臓器や病変への集積を画像化するという検査であるため、単独の場合、集積があっても、それがどこの臓器なのか判断することが難しい場合があります。そこで、多くの場合には、CTを一緒に撮影し、部位の同定に役立てています(また、多くのPET装置では、PET画像の作成に必要な吸収補正という機能をCTが担っています)。

現在では、PET撮像の際に、CTを一緒に撮影することは一般的になっており、多くの施設に設置されているのはPETとCTが同時撮影できるPET/CTという機種です。CTとの同時撮影により、診断能は向上しますが、被曝量が上がるという問題点があります。PET検査単独の被曝量は2.2-3.5mSvと比較的少ないですが(われわれが普通に生活していて受ける自然放射線の被曝量は2.4mSvといわれています)、CTを追加すると、10mSv程度になります。PETと同時に撮影されるCTは、普段病院で撮影されるCTよりも被曝量が少なくなるように工夫はしてありますが、やはり被曝量の上昇は避けられません。しかしこれも、被曝の有害事象が出る量ではありません

また、最近では、PETとMRIを同時に行うPET/MRIという装置が導入されている施設もあり、様々な研究が行われています。MRI撮像では被曝がないので、この場合の被曝量は、PET単独の場合と変わりません。
PET-写真

PET検査の保険適応

PET検査には、研究段階のものも含めると多岐にわたる用途がありますが、全てが保険適応になっているわけではありません。

保険適応になっている疾患を下にあげます。それ以外の状態ですと、自費で検査を行わけければならない場合もあります。

  • 早期胃癌を除くすべての悪性腫瘍(病期、再発・転移診断)
  • てんかん:難治性部分転換で手術が必要とされる場合
  • 虚血性心疾患:心筋組織のバイアビリティ(血行を再建すると、もとに戻る心筋がかるかどうかということ)判定が必要な場合で、通常の心筋シンチグラフィで判定困難な場合。
  • 心臓サルコイドーシスの診断

悪性腫瘍は、早期胃癌を除いてすべて保険適応になっています。胃には正常でもある程度の集積(代謝反応が多く見られる箇所)があるので、早期の胃癌はみつかりにくく、リンパ節転移も通常はないので、適応になっていないのです。

良悪性の鑑別のための検査や、同じ月に、同じ病名で複数回の検査を受ける時同じ月にガリウムシンチグラフィ(炎症や腫瘍をみるためのシンチグラフィ検査)をしているときは保険が適応されません。

保険点数から算出すると、診断料を含めて、PET検査単独の検査代金は8万円PET/CTは約9万円になります。3割負担の場合ですと、これらの金額の3割を支払うことになります。

実際にどうやって検査をしているの?

病院で検査を受ける場合、血液検査でもCT検査でも、朝食抜きでお水だけ取ってきてください、と言われることは多いと思います。

PET検査でも同様で、検査前5-6時間は食事禁止です。飲料に関しては、砂糖が入っているものは禁止で、お茶や水は飲んでもかまいません。牛乳などの乳製品にも糖分が入っているので、飲んではいけません。無糖カフェオレなども、乳製品が入っているので飲めません。

血糖値が高いと、筋肉に薬剤がとりこまれやすくなるので、診断したい病変にうまく集積しなくなることがあります。ですので、くれぐれも禁食の指示は守りましょう。また、糖尿病の人は、薬などについては医師の指示に従ってください

検査の一時間前に、18F-FDGを注射します。注射の際に、血液を採取して血糖値を確認します。それから、約1時間の間は、安静にしていなければなりません。体を動かすと、筋肉に薬剤が集まりやすくなってしまいます。喋ったり、つばを何度も飲み込むような作業も喉の筋肉に集積しやすく、また、読書やスマートフォンを見るような作業も目の周囲の筋肉に集まりやすくなるので控えたほうがいいでしょう。

PET検査のメリットとデメリット

メリット

一度に全身の撮像が可能。

癌と診断されてPETを撮像すると、リンパ節や他の臓器への転移などを一度に診断できる場合がある。また、他の臓器に癌が見つかることもある。

定量的評価が可能である。

デメリット

被曝がある。

小さな病変は見つからないことがある。また、臓器によっても癌が見つかりにくいことがある。

費用が高い:CTやMRIとくらべて保険点数が高く、保険外診療でも高価に設定されていることが多いです。

PET検査には限界がある

癌の診断や、検診にも広く使用されているPETですが、癌の検出能に限界があることは、実はあまり知られていません。

PET装置も、近年の進歩により、解像度が高くなってきていますが、一般的には、1cm以下の病変は診断できないこともあると考えておいたほうがいいでしょう。ですので、胃癌以外にも、早期癌の発見ができない場合があります

また、細胞の密度が低いと、薬剤が集積しにくいので、比較的初期の肺腺癌や、組織型によっては乳癌も検出できないことがあります。

また、腎癌、前立腺癌、膀胱癌では、癌細胞の糖代謝が比較的低く、検出されにくいといわれています。

もともと、ブドウ糖代謝は全身臓器で行われているため、脳や扁桃、心臓、肝臓などに正常でもある程度の集積があり、また、腎臓や膀胱などの尿路系から排泄されるために、こういった臓器の病変が生理的集積にかくれてしまう場合があります。

ここに書いてきましたように、PET検査には限界がありますので、検診で受けるような場合には、メリットとデメリットをよくご理解いただいてから、受けるかどうかを決断したほうがいいと思われます。

補足:乳腺専用のPET装置も

PET装置は、通常、全身を一度に撮影する構造になっていますが、近年、乳腺専用のPET装置が開発され、欧米で研究が進み、日本でもいくつかの施設に導入されています。これは乳腺のみを撮影する、高解像度の装置で、全身PET装置で検出できない乳癌も検出することができるとされています。

乳癌の場合、超音波やMRIの診断能が高いので、PETだけで診断することはほぼないのですが、喘息などがあってMRIやCTの造影剤が使用できない人には有用な検査と考えられます。