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20~30代で多く発症する子宮頸がん。初期症状が無いため、早期発見のためには検診が不可欠といわれていますが受診率は現在も2割に留まっています。受診数の向上を目指し、政府による検診無料クーポンの配布等も行われていますが、大きな変化はまだ見込めていません。

また、子宮頸がんをめぐる問題の1つに、ある偏見が存在しています。それは「不特定多数と性交渉する女性がなる病気」―。このがんが発症する主な原因HPV(ヒトパピローマウイルス)は、多くが性行為から感染するためです。HPV自体は8割の女性が一度は感染するウイルスであるため、子宮頸がんも性経験の多さに関係なく発症します。こうした事実にも関わらず、偏見が患者さんを苦しめている状況があります。

検診、そして偏見というこの2つの問題について、前回に引き続き20代前半の女性記者が笛田サオリさんに話を伺いました。

笛田サオリ
音楽家・文筆家・作詞家・アクセサリー作家。2009年から音楽プロジェクト「さめざめ」として活動し、女性が普段言えない気持ちを赤裸々に表現し、注目を集める。2013年1月に子宮頸がんが発覚し、手術を経て同年5月に子宮頸がんを公表。そのあとも精力的に活動する傍ら、子宮頸がん検診の重要性を呼び掛けている。

「放っておくと、見つかるものも見つからない」

検診の経験を語る笛田さん
—―ご自身が不正出血で病院を訪ねる前は、子宮頸がんの検診についてはご存知でしたか?

以前に子宮頸がん検診の無料クーポンが届いていて、「行けたら行こう」くらいには考えていました。だけど当時はまさか自分が子宮頸がんにかかるなんて思いもしなかったので、ついつい後回しにしていました。

—―多くの女性が検診に行かない一番の理由はなんだと思いますか?

まず、内診で脚を広げなくてはいけない点だと思います。さらに、検査をする先生は男性の場合があります。夫でも恋人でもない人の前でそういう格好をすることにどうしても抵抗があるのでしょう。確かにいい気分ではありませんが、婦人科に行ったことがある人ならそこまで抵抗は大きくないと思います。

また、痛みがあるというイメージが先行してしまっていることもあるかと思います。細胞を削り取るために少し中を擦るので、全く痛くないとは言えませんが私はそこまで痛みがひどいわけではなかったです。

周りでも検診に行こうか迷っている子はたくさんいて、その度に行くように促すと「行ったことないから怖い」と返ってくるんですよ。だけどそうして放っておくと見つかるものも見つからないので、もどかしいなと思いますね。

—―がん闘病のリスクに比べたら、そんなに大変な検査ではないと?

私は円錐切除手術(子宮の入り口のみをレーザーで切り取る手術)だけで、抗がん剤などの治療法を使わなかったので闘病らしい闘病はしていません。だから正直なところステージが進んだ病状について確かなことは言えません。しかし、発見が遅くなったら子宮どころか命が危ない病気なので、多くの女性が「何となく嫌」という理由で検診に行かないと聞くと正直「ちゃんと考えてほしい。」と思います。

事実に反する偏見 踊らされずに支えてあげて

CDを手に持つ笛田さん
――次に「子宮頸がん=性病」という偏見について、笛田さんの周りでそのような空気を感じることはありましたか?

私の周りというよりも、ネット上で子宮頸がんについてよく知らない人が誤解を強く持っているように感じました。顔が見えない状況だと、皆さん言いたいことを言えるので、偏見混じりの意見がどんどん広がっていってしまうのでしょう。患者さん側の体験談としては、子宮頸がんを患ったことを彼氏に告げたら、浮気を疑われて距離を置かれたというエピソードもありましたね。

—―偏見の一番の原因になっているものは何だと思いますか?

原因の一部であるウイルス(ヒトパピローマウイルス)が性交渉でうつるという事実を過剰に受け取っているんだと思います。経験人数の多い女性がかかると思われがちですが、先生のお話しによると一人としか関係を持っていなくても子宮頸がんになることはあるみたいです。

そもそもすべての子宮頸がんの原因がウイルスによるものではないので、性経験が無いまま発症する可能性もあります。ただでさえ発症して負担を抱えている女性が、そういった目で見られてしまうのは本当にショックだと思います。

――そういった偏見はどんなひとが多く持ちがちだと思いますか?

男性か女性かといったら男性に多いと思います。あとは私の場合もそうだったんですけど患者さん本人の近くにいる人よりも、ちょっと離れた立場のひとはそういう見方をしがちなのかなと感じます。私の知る限りだと、がんが発覚したとき、旦那さん自身よりも旦那さんの実家から口出しされるなどですね。

—―最後に、今の時点で検診に行けていない女性に、また女性の側にいる男性にメッセージをお願いします。

検診は本当に何かのきっかけがないと行きづらいんですよね。だから私が言っても伝わらないかもしれないけど、子宮頸がんを持つ可能性は十分にあるということを知ってもらいたいです。重度になったときは、仕事もプライベートもこれまでやってきたことができなくなってしまいます。「まさか自分が」なんて思わず一度お医者さんに診てもらってほしいです。

男性にお願いしたいのは、自分の彼女や好きな子がもし子宮頸がんになったときに、変な目で見るのはやめてあげてほしいです。先生の話によると、性経験が豊富なひとがかかる病気というイメージのせいで、発覚した時に「お前が浮気したからだろう」「沢山遊んでいたのか」などの言葉を浴びせられることも多いようです。でも、先ほども言ったように経験人数が一人だけでもかかる可能性はあります。

また、ウイルスの潜伏期間は7、8年にも及ぶので、ずっと前の性交渉が発症のきっかけとなることも当然あります。ただでさえ病気で辛いときだからこそ、さらに追い込むのではなくしっかり支えてあげてほしいです。

取材後記

「『自分は健康』と過信している女の子ほど、がんを見つけられずどんどん進行してしまう。とにかく検診に行ってほしい」。インタビュー中に笛田さんが語られたこの言葉を聞き、多くの女性ファンの気持ちに寄り添う楽曲を作り続けてきたアーティストの思いを感じました。

婦人科に行く習慣がない女性にとって、子宮頸がんの検診は気軽に行けるものではありません。「今なんともないのに内診を受けるなんて嫌」と感じるのも無理はないでしょう。

しかし、検診は今の健康を守るだけでなく、これから待ち受ける重要な仕事や結婚、出産というそれぞれのライフステージを守るためのものでもあります。将来の健康のためにも、今少しだけ勇気を出してみませんか。