2017年9月16日・17日、京都大学医学部構内にて「ヘルスコミュニケーション学会学術集会」が行われました。

今回の学術集会のテーマは「共に変わり、共に創る:ヘルスコミュニケーションの『力』」です。医療情報をめぐる正確性や信頼性が議論になりやすい昨今、医療情報メディアである「いしゃまち」は何に気をつけなければならないのか、そしてインターネットをはじめ様々なメディアから情報を得る読者のみなさんは何に気をつけるべきなのか、「ヘルスコミュニケーション」という観点から様々な学びを得られる会となりました。

本記事ではその1日目に行われたシンポジウム0「『健康』をデザインする」・1「市民・患者と多職種の連携:『共有価値』の創造へ」の様子をお伝えします。改めて「医療情報」「健康情報」について考える機会にしていただければと思います。

目次

「ヘルスコミュニケーション」とは

ヘルスコミュニケーションは、「個人及びコミュニティが健康増進に役立つ意思決定を下すのに必要な情報を提供する、あるいはそのような意思決定に影響を及ぼすコミュニケーション戦略の研究と活用」と定義されています。医師や看護師と患者さんとのやり取りだけでなく、医療従事者同士・患者さん同士のやり取りや、私たち「いしゃまち」のようなメディアを介した情報発信もヘルスコミュニケーションの一部です。

ヘルスコミュニケーションは、社会レベル(Macro)、地域・組織レベル(Meso)、そして個人・対人レベル(Micro)のそれぞれの観点から考えることができます。

例えば対人レベルで見てみると、Shared Decision Makingという考え方があります。これは、治療にあたってどうしたら良いか分からないときには医師と患者とで共に悩み、相談しながら決めていくことで、より良い医療を選ぶことができるという考え方です。社会レベル・地域レベルも含め、様々な取り組みが成されています。

コミュニケーションは、一方が一方を変えるものではありません。医療者が患者に指示を出すだけでなく、医療者と患者との双方が共に変わることこそがコミュニケーションなのです。

作り手側の「伝え方」の工夫

医療情報をメディア側(情報発信者側)から見たとき、「つくる」「つたえる」「つかう(つかってもらう)」という3つのステップがあります。

一方、読者の皆さん(受け手側)がとる行動は「理解する」「納得する」「行動する」というステップです。この3つのステップを踏んでいただくには、そもそも皆さんに「興味を持ってもらう」必要があります。

おそらく、いしゃまちを訪れる皆さんの多くは、ご自身やご家族の身体に何らかの症状を抱えていることと思います。自分自身の身体のことであれば興味を持ちやすい一方、例えば「生活習慣病の予防」「知られていない病気の啓発」といった情報は、関心がなければ手に取ることもなければ、理解・納得・行動といったステップに移ることもないでしょう。

この項でお伝えしたいのは、決して「関心を持たない皆さんが悪い」ということではありません。「無関心」の状態を「興味がある」という状態に動かすのは、私たち情報発信者の努めです。そのために行うのが、コミュニケーションデザインと呼ばれる努力です。

例えば「禁煙」というテーマ一つを取っても、ついタバコを吸ってしまった未成年に伝える場合と、40代・50代のヘヴィースモーカーに伝える場合とではアプローチが変わるはずです。情報の中身に加え、どう伝えるかという部分は、私たち医療情報メディアの担う課題の一つだといえます。

「医療者」と「メディア」の伝えたいことは同じなの?

マイクにむかって話す医師

ここまで、医療者や研究者とメディアを「情報の発信者」と一括りにしてお伝えしました。しかし、「そこを一括りにして良いの?」と疑問に感じた読者の方もいることでしょう。

福島県立医科大学の安村誠司教授は、「判断をすべき時、メディアの力は大きい」とした上で、「報道価値の有無」という考え方はメディア特有であると指摘します。医療者が伝えるべきと考える情報を、メディアもまた伝えたいと考えるとは限らない(切り取り方を変えたり、そもそも伝えようとしなかったりする)という点は現状の問題点の一つです。医療者とメディアとのコミュニケーションは、今以上にしっかり成されなければならない部分といえます。

編集後記

京都で行われたヘルスコミュニケーション学会の、1日目のシンポジウム内容を抜粋・編集してお届けしました。

この集会にはヘルスコミュニケーションを専門にする研究者や、私たちのようなメディア、患者さんとコミュニケーションを取っている医療者など様々なバックグラウンドの人たちが出席していましたが、どの立場であれ変わらないのは「より多くの人が健康に過ごせる社会を目指している」ということだと感じました。そして、それはきっとこの記事を読んでいる皆さんも同じだと思います。インターネットを通してメディアとしてどんなことができるのか、いしゃまちはこれからも考えていきたいと思います。

次回は、「メディアにおけるコミュニケーション」を題材にした2日目のシンポジウムの様子をお届けします。

シンポジウム・ゼロ 「健康」をデザインする

座長:中山健夫(京都大学)

  • 「本大会の全体像と目的およびチャレンジ」 中山健夫(京都大学)
  • 「コミュニケーションデザインという視点で健康をデザインする」 戒田信賢(電通)、渡邊磨由子(電通)

シンポジウム1 市民・患者と多職種の連携:『共有価値』の創造へ

座長:安村誠司(福島県立医科大学)・中山健夫(京都大学)

  • 「東日本大震災後の福島におけるヘルスコミュニケーション-メディア・自治体等の情報の位置づけについて-」 安村誠司(京都大学)
  • 「災害時の専門職連携に必要な実践能力の獲得を目指した学習」 酒井郁子(千葉大学)、指定発言者・原尻賢司(総務省)
  • 「禁煙支援時をめぐるコミュニケーションと価値観などについて」 髙橋裕子(京都大学)
  • 「患者・家族と医療者が共有する意思決定:臨床におけるShared Decision Makingとその知見」 藤本修平(京都大学)

※登壇者の肩書・記事内容は2017年10月16日時点の情報です。