前回記事に引き続き、京都大学で行われたヘルスコミュニケーション学会学術集会のシンポジウム内容をお伝えします。

シンポジウム2のテーマは「メディアにおけるコミュニケーションを〈再び〉考える」でした。医療情報とメディアといえば昨年、大手メディアが誤解を招く医療情報を配信したことで閉鎖に至ったのは未だ記憶に新しい出来事です。また、現在でも「医療情報メディアの在り方」については問題視されることも少なくなく、SNSなどでも度々取りざたされています。

この日のシンポジウムでは、「医療記事の評価」「メディア自身の取り組み」など、様々な観点からメディアについて考える時間を持ちました。「いしゃまち」も医療情報メディアの一つとして、この問題に真摯に向き合い続けたいと思います。

目次

健康・医療記事をどう評価する?

京都薬科大学の北澤京子先生を中心に開催されているメディアドクター研究会の取り組みが紹介されました。この会は、医療の専門家とメディアの関係者とが共同し、医療記事を採点・評価する活動を行っています。

このような取り組みは、海外では既に様々な形で行われています。例えばアメリカのHealthNewsReviewというサイトでは、記事の正確性・バランス・網羅性の3点を5段階で評価・公表しています。5段階中最高の「星5つ」がつく記事は全体の15%程しかなく、医療情報を発信することの難しさが伺えます。

一方、メディアドクター研究会はもともとオーストラリアで発足した取り組みです。日本ではもともと、2006年に福島県で起こった産科医師の逮捕に関する報道を受けて2007年に設立し、現在は治療や予防に関する医療記事の評価を行っています。

この会での医療記事の評価基準は、下記10項目です。

  1. 利用可能性:その記事が今、実際に使えるものなのか/誰向けのものかが書かれているか
  2. 新規性:その情報が新しいか/新しいのかどうかが明確にされているか
  3. 代替性:ほかの選択肢について記載されているか
  4. あおり・病気づくり:病気ではない(加齢現象や普通のこと)を病気であるかのように煽る表現を含んでいないか
  5. 科学根拠:エビデンスが書かれているか
  6. 効果の定量化:単に「有効」「無効」だけでなく、その効果が記されているか
  7. 弊害:薬の副作用などの有害事象が記されているか
  8. コスト:治療法のコストについて記されているか
  9. 情報源:情報源が明記されているか、その情報源のCOI(利益相反)の記載があるか
  10. 見出し:見出しの内容が本文の内容を的確にまとめているか

この評価軸で見たときにも、10要素すべてを書けている記事はほとんどないといいます。記事ごとに評価のパターンも異なるため、効果を見ることで、その記事がどこに力点を置いているかを議論する取り組みを行っています。

医療者とメディアが互いにフィードバックをし合い、様々な立場から意見交換をする場はとても貴重といえます。現在はその評価結果は公表していないということですが、ゆくゆくは公開することで、既存メディアのさらなる質の向上につながると考えられます。

クリニックのサイト、本当に信頼できますか?

PCを閲覧する人

「体調が悪い」「何らかの治療を受けたい」と感じたとき、クリニックのWebサイトを見る方は多いことでしょう。しかしそのクリニックのサイトは、信頼に値するものでしょうか?

京都大学の藤田みさお教授は、特に問題になっている臍帯血などの幹細胞治療をはじめとする怪しげな再生医療を扱うクリニックの情報発信について、下記のように評価することができるとしています。

  • eヘルス倫理コード0(日本インターネット医療協議会の定める自主規制のための基準)に従っているか
    たとえば、「運営主体が誰か明確か」「情報の提供対象は明確か」「個人情報の取扱に関する記載があるか」といった項目があります。
  • 厚生労働省の医療広告規制に準じているか
    広告規制では、「再生医療クリニック」「再生医療科」「再生医療専門医」「再生医療」という記載、ならびに患者さんのビフォー・アフターを掲載することが禁じられています。
  • その治療法のベネフィット(利点)リスク(危険性)の双方について言及しているか、その根拠は記載されているか

ただしeヘルス倫理コード2.0はあくまで自主規制にすぎない、医療広告規制は本来Webサイトを対象にしたものではないので遵守の義務はないなど、クリニックのサイトの規制については体制が整っていないのが現状です。

幹細胞治療は保険が適用されず、自費診療となります。治療を受けた後に有害な事象が発生したという報告もあります。今年(2017年)は厚生労働省による医療機関ネットパトロールが始まるなど、規制も進められていますが、患者さん側も情報をしっかり判断することが必要といえます。

医療情報メディアの取り組み

この日のシンポジウムでは、Medical Noteの取り組みについても紹介がありました。正確な情報であるエビデンスを重視しつつ、それだけでは分かりやすい情報にはならないので、そこにナラティブ(物語)を加えた情報発信を心掛けているといいます。先生方がどのように医療と向き合っているかを伝えることで、読み手にとってより親しみが沸くサイトになっています。

医療に関する情報をインターネットから得ようとする人は今後、ますます増えていくと考えられます。私たち「いしゃまち」も「正確に」「公平に」「分かりやすく」編集方針に掲げ、日々コンテンツの作成に取り組んでいますが、これからも一層の努力と工夫が必要だと痛感しています。

 

このほか、「患者さん側の語り」から患者さんも医師も学ぶことができるという取り組みの紹介がありました。例えば患者さん同士のコミュニケーションから安心感を得たり、認知症患者さんのブログから語彙の急速な減少を確認して診断材料にしたり、といった活用が成されています。

編集後記

医療情報の伝え方・メディアの在り方はいまや、「いしゃまち」が単独で考えるのではなく、他社の医療情報メディアも含めてコミュニケーションを取りながら考えていくべき段階に至っているのではないかと思います。

今回のシンポジウム2のテーマは、「メディアにおけるヘルスコミュニケーションを〈再び〉考える」でした。「再び」という言葉が示すように、医療情報にメディアの果たすべき役割や責任については今後も繰り返し考えていく必要があります。筆者自身も医療情報メディアに携わる一人の編集者として、改めて背筋の伸びる思いでした。いしゃまちは今後も、医療情報の伝え方について考え続けていきます。

シンポジウム2 メディアにおけるヘルスコミュニケーションを〈再び〉考える

座長:萩原明人(九州大学)・高橋由光(京都大学)

  • 「健康・医療記事を評価する~メディアドクター研究会の活動より~」 北澤京子(京都薬科大学)
  • 「自由診療による再生医療とその情報発信における課題」 藤田みさお(京都大学)
  • 「信頼できる医療情報をわかりやすく届けるために-メディカルノートの取り組み」 井上祥(メディカルノート)
  • 「ソーシャルメディアのコミュニケーションを医療に活かす」 荒牧英治(奈良先端科学技術大学院大学)

※登壇者の肩書・記事内容は2017年10月17日時点の情報です。