皆さんは「診療ガイドライン」(以下ガイドライン)を知っていますか。病気の診断基準や治療法、副作用などさまざまな情報が記載された文書です。この文書、実は医師のためだけでなく患者さんら一般の人にとっても病気と向き合っていく上でとても重要なものです。

今回はガイドラインが医師や市民にとってどういう存在なのか説明します。また、国内のガイドラインを多く集めているウェブサイトMinds(マインズ)も合わせて紹介していきます。

目次

診療ガイドラインの役割

診療ガイドラインは各疾患について、研究や治療法の進歩などを目指す医師らで構成される学会が中心となって作成しています。

治療法のサポート

病気を診断、治療する手段は複数あります。治療一つとっても、とにかく治すことを優先するのか、それともできる限り副作用が少ない方法を選ぶのか判断を迫られます。医師は常に治療方針を選択しており、ガイドラインはそのサポートとなります。

ガイドラインには患者さんを実際に診察、治療する上で出てくる疑問(クリニカルクエスチョン)と、科学的根拠(エビデンス)に基づいた回答を載せています。その回答がどれだけ有効(無効)なのか、また積極的に実施したほうがいい(しないほうがいい)のか示す推奨度、根拠の質を表すエビデンスレベルなども合わせて紹介されています。

例えばお腹に痛みや不快感をもたらす過敏性腸症候群のガイドラインには、治療として食物繊維を摂取することが効くかどうかの疑問が載っています。回答欄には、摂取は有効で強く推奨され根拠のレベルも最高であることが書かれています。

またガイドラインには病気の診断方法が記載されているため、不必要な診断を受けたと感じたときに確認することもできます。

患者と医師の〝共通言語〟

治療方針は医師だけで決めていいものではありません。実際に治療を受ける患者さんにも要望はあります。とにかく治すことを優先するのか、できる限り副作用が少ない方法を選ぶのかは大変重要です。

日本医療機能評価機構(医療の質の向上、信頼できる医療の確保に関する事業を行う公益財団法人)の山口直人執行理事は「本当に重大な意思決定は本来、患者さんと医療者が共同で十分話し合って決めるべきもの」とコミュニケーションの重要性を挙げます。

ガイドラインは医師の考え、患者さんの思いを話し合う材料になるもので、お互いの理解を深める〝共通言語〟といえます。

あくまでも参考に

医師と患者の橋渡しとして活用できるガイドラインですが、治療法などを強制するものではありません。患者さんは年齢や抱えている合併疾患など一人一人状況が異なります。あくまでも参考になるものとして捉えると良いでしょう。

多くのガイドラインを掲載する「Minds」(マインズ)

Mindsホームページ-写真

Mindsとは

知っていると便利なガイドラインを見るために利用できるのが、ウェブサイトMinds(マインズ)です。Mindsとは日本医療機能評価機構が2002年から展開している事業名でもあります。現在は厚生労働省の委託を受けながら、ガイドラインを作る団体の支援、団体と利用する人たちをつなぐための情報提供などを行っています。

Mindsには全てのガイドラインが掲載されている訳ではありません。作成する目的を明確にする、さまざまな立場の医師を参加させてバランスを取るなど6つの項目を総合的にクリアしたものだけで、現在は177個あります(本文掲載のみ、2017年2月13日時点)。

またがんや認知症など、一部の病気には図などを使って一般の人に分かりやすくしたものもあります。

課題は認知度

Mindsはインターネット上で正確な医療情報を届けていますが、医師にも患者さんにもその存在がなかなか知られていないのが現状です。山口執行理事は「我々の調査では医師の10~20%に知ってもらっていて、一般の人はもっと低い状況」と認知度の低さを指摘します。日本医療機能評価機構ではこれまでリーフレットの配布や新聞広告などの広報活動を行っています。

また2017年3月14日には、ガイドラインの重要性を知ってもらおうとインターネットを通して医療情報を提供しているメディアを対象に説明会を開きました。山口執行理事はMindsが一般の人たちにとってなじみが薄い現状を紹介し、「情報のプロに活用してもらうことでガイドラインを広めたい」とこの会の目的を語りました。そしてメディアが記事を正確にする上でガイドラインを活用することなどにも期待を寄せていました。

まとめ

ガイドラインは患者さんと医師が病気の治療に向き合う上で一つの架け橋となる存在です。絶対的なものではありませんが、病気や治療への理解にも役立ちます。Mindsにはがん、関節リウマチ、認知症などさまざまな病気のガイドラインが掲載されているので、気になったものがあれば一度見てみてください。

※取材対象者の肩書・記事内容は2017年3月30日時点の情報です。

取材協力

日本医療機能評価機構