いままで副腎皮質ホルモンの基本的な作用・役割(参照記事:副腎皮質ホルモンとは。生命維持に不可欠なホルモン、役割、作用)や副腎皮質ホルモンの過不足で生じる疾患について(参照記事:副腎皮質ホルモンの過不足で生じる疾患)についてみてきました。

今回は医薬品として使用される副腎皮質ホルモンについて考えていきましょう。

なお概略は「喘息やアレルギーに使うステロイド、どんな薬?使用時の注意や副作用は」をご参照下さい。

本稿ではよく抱かれる疑問や誤解について述べていきたいと思います。

目次

ステロイドって「強い」薬なの?

一般にステロイドは強い薬というイメージを抱かれがちです。

その理由としては、他の薬で効果が出にくかったけれど、ステロイドを使用したら効果を実感できたという経験をされた方が多かったり、ステロイド=副作用の怖い薬と認識されており、副作用が出る=強い薬と認識されがち(決して効果と副作用が比例するという訳ではないのですが、イメージですね)だからではないでしょうか。

ステロイドの効果を実感しやすい(もちろん正しい使用方法をされた場合にですが)のは、「副腎皮質ホルモンとは。生命維持に不可欠なホルモン、役割、作用」でも述べたように、ステロイドが作用する部位である糖質コルチコイド受容体が、ほとんど全ての組織、細胞に存在するからに他なりません。

ステロイドにはどんな種類がある?(剤形の種類)

ステロイド剤には様々な剤形があり、剤形によって効果の出かたは異なりますし、様々な強さのものが存在します。

大まかに分けると全身に投与する場合と局所(皮膚や眼、鼻など病変(炎症など)が起きている部位)に投与する場合に分けられます。

全身に投与する場合というのは、血液の流れに乗って、全身に行き渡るようにすることです。

  • 飲み薬(内服)
  • 注射(血管に直接注射する場合と、点滴でゆっくり投与する場合とがあります)

があります。対して局所に投与する方法としては、

  • 外用(塗り薬)
  • 点眼
  • 点鼻
  • 噴霧剤(喘息などの治療に用いる吸入)

などがあります。どちらが「全身の副作用(高血圧、脂質代謝異常、骨代謝異常、中枢神経障害など)が出やすい」かといえば全身に投与するタイプのものでしょう。

また、どちらが「局所の副作用(局所の感染など)が出やすい」かといえば局所に投与するタイプのものになります。

ですのでどっちの剤形が強いかという議論はあまり意味をなしません。

同じ剤形の中での強さの比較

同じ剤形の中で強さを比較するのは意味があります。

例えば内服薬の糖質コルチコイド作用(詳細は「副腎皮質ホルモンとは。生命維持に不可欠なホルモン、役割、作用」を参照して下さい)の強さを比較する表などは医療従事者であれば良く目にします。

ヒトの副腎皮質から生理的に分泌されるステロイドはコルチゾール(ヒドロコルチゾン。以下ヒドロコルチゾンで呼びます)です。

ストレスがない状態の成人では、毎日、副腎皮質からヒドロコルチゾンが約10mg分泌されています。

通常、内服または注射の製剤は、このヒドロコルチゾンの強さと比較します。

ステロイドの強さの比較

ヒドロコルチゾンの糖質コルチコイド作用を1、鉱質コルチコイド作用を1とすると、例えば良く使われるプレドニゾロンは糖質コルチコイド作用は4、鉱質コルチコイド作用は0.8と表現されます。

同様にデキサメタゾンでは糖質コルチコイド作用は25、鉱質コルチコイド作用は0.01未満と表現されます。

糖質コルチコイドの作用が大きいのに比べ、鉱質コルチコイドの作用が小さいのはなぜでしょうか?ステロイドを薬として用いる場合、ほとんどが炎症を抑えたり、免疫を抑えたりする目的で用いますので、糖質コルチコイド作用を期待しているわけです。

それに対して、鉱質コルチコイド作用は極力抑えたい作用です。血圧が高くなったり、浮腫んだりしてしまうためです。

そのため、多くのステロイド製剤は、生理的なヒドロコルチゾンと比べて、糖質コルチコイド作用は大きく、鉱質コルチコイド作用は小さくなるよう設計されているのです。

作用時間による違い

作用時間の長さも薬を選択する際に考慮します。

作用時間が長い方が、1日のうちしっかりと炎症を抑えたりすることのできる時間が長くなるというメリットがある反面、下垂体のはたらき(下垂体は副腎皮質刺激ホルモンを分泌し、副腎皮質ホルモンの分泌を促します)を抑制する副作用も出やすくなるというデメリットもあります。

作用時間が長いステロイド製剤が「強いステロイド」という風にいわれることもあります。これは下垂体抑制作用が強いためです。

外用薬では薬効が強い順にストロンゲスト、ベリーストロング、ストロング、マイルド、ウィークと5段階で分けられます。

どんな場面で使われているの?

様々な場面で用いられるステロイド製剤です。全てを列挙するのは不可能ですし、ここに挙げるのはほんの一例です。

同じ疾患でもその時の病気の程度や、患者さんの体の状態、副作用などにより治療法は変わっていきますので、あくまで一例としてみてください。

  1. 関節リウマチ:プレドニゾロン1日5 mg以下で内服
  2. 膠原病(自己免疫疾患):プレドニゾロン1日60 mg以下で内服(よく体重1 kgあたり5~1 mgで計算します)
  3. 気管支喘息の基本治療として:製剤にもよりますが、1日1~2回吸入
  4. 湿疹や皮膚炎など:ステロイド外用薬を1日1~数回、塗布
  5. アレルギー性結膜炎:ステロイド点眼薬を1回1~2滴、1日1~数回
  6. アレルギー性鼻炎・花粉症:ステロイド点鼻薬を1回1~2噴霧

「リバウンド」ってなに?

俗に言うリバウンドは正確にはコルチコステロイド離脱症候群(corticosteroid withdrawal syndrome:CWS)といいます。CWSにはいくつかのタイプがあるのですが、主なものをここでは解説します。

「視床下部-下垂体-副腎系の抑制」による症状

視床下部、下垂体、副腎系の抑制

副腎皮質ホルモンの内服もしくは注射での全身投与を行っていると、自力での副腎皮質ホルモン分泌能力が一時的にですが、弱くなります。

これは下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモンの分泌が低下するためです(ステロイドによる下垂体抑制といわれます)。

また下垂体の上には視床下部があり、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(コルチコトロピン放出ホルモン)を分泌し、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンの分泌を促しています。

副腎皮質ホルモンの全身投与はこの視床下部からの副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(コルチコトロピン放出ホルモン)分泌も減らしてしまいます。これを視床下部‐下垂体‐副腎系の抑制といいます。

疾患の再燃

ステロイド投与の対象となったもとの疾患が再燃することもCWSには含まれます。下の表にCWSの症状を示します。

どの程度で症状が出るの?

どの程度のステロイドの投与量でCWSが生じ得るかについては様々な報告があり、一概にはいえません。

グルココルチコイド作用が強い薬剤、大量、長期間、1日に何回もの分割投与をした場合ほど、視床下部‐下垂体‐副腎系の抑制は起こりやすいといえます。

ステロイド投与量を徐々に減らしていく場合、これが正解という方法は存在しませんが、膠原病などの慢性的な疾患に用いていた場合には、2週間で10%程度、減量したりします。あくまで一例です。

表:CWSの症状

食欲不振 発熱
嘔気 眠気
嘔吐 無気力
体重減少 抑うつ
筋肉痛 不穏/不安
関節痛 倦怠感
手指のこわばり 起立性低血圧
頭痛 低血糖

処方箋ではなく、ドラッグストア(市販)でも購入できる?

注射薬は当然のこと、内服薬は市販されていません。医師の診断なしに副作用を伴いうるステロイドの全身投与はすべきではないからです。

またステロイド点眼薬も誤った使用により白内障、緑内障などの副作用が起きうるため、市販されていません。

市販されているのは虫刺されによる炎症を抑えたりする目的で使用される外用薬(軟膏やクリーム、ローションなど)や、花粉症やアレルギー性鼻炎に使用される点鼻薬などがあります。

正しく使うためにはどうすれば良い?

1.自己判断は厳禁!医師の指示に従って

まずは自己判断で投与を始めたり、止めたり、投与量を変えたりするのは絶対に避けるべきです。

重大な副作用がありますし、投与されている状態で急に止めたり、減らしたりするとCWSや、場合によっては急性副腎不全といって副腎皮質ステロイドが急激に少なくなることにより血圧や血糖が下がり命に係わることもあります。

医療機関から処方された場合は、処方の通りに服用しましょう。1回服用を忘れてしまった場合、何か他の病気やケガで手術を受ける場合などについても、主治医と予め相談しておきましょう。

2.使用方法を熟知した専門の医師にかかろう

ステロイドの使用に熟知した医師にかかるべきでしょう。膠原病内科、アレルギー内科の医師はステロイド治療に熟知していますし、内分泌内科の医師は慢性副腎不全などもともとの体内の副腎皮質ステロイドの分泌が少ない疾患に、補充をするのに慣れています。

しかし残念ながら、すべての医師がステロイドを適切に使用できている訳ではないのも事実です。

花粉症に対してステロイド点鼻をすることはありますが、ステロイドの筋肉注射は副作用の面から行うべきではありません。しかし一時的には花粉症の症状が良くなるからと患者ウケを狙って行ってしまう医師が少なからずいたりします。

また風邪のような通常のウイルスや細菌の感染症にステロイドを用いることはありません(副腎不全合併などの例外はありますが)。

風邪でかかると食事ができているのにも関わらずにすぐに点滴をするようなクリニックだと、ステロイドを点滴投与してしまうという不心得なところもいまだにあるようです。こうしたところにはかからない方が良いでしょう。

皮膚に赤みが出るとすぐステロイド軟膏を塗るのも考え物です。虫刺されで赤く痒みを伴う皮疹ができた場合は、使用して構いませんが、何でもかんでも皮膚の赤みにステロイドを外用すると、時に痛い目に合います。

例えば傷口から細菌が入り込んで感染による炎症を起こしているにも関わらず、抗生物質ではなくステロイドを使用すると、ステロイドが免疫作用を抑制してしまうためにさらに感染が悪化してしまいます。

原因のわからない皮膚の赤みが現れた場合には、自己判断をせず、皮膚科を受診しましょう。

どうして「怖いくすり」というイメージがあるの?

ステロイド治療を熟知した専門医の処方のもと正しく使用すれば副作用を防げたり、起きても最小限に抑えたりすることができます。しかしステロイド治療に不慣れな医師が何となく処方した場合は確かに「怖い」です。

ステロイドを慢性的に投与する必要がある膠原病などの場合は、医師選びがとても大切になってきます。

また、実際にステロイドの副作用に苦しんだ方が周囲にいるかもしれません。骨がもろくなって骨折した、もともとあった糖尿病が悪化した、顔が丸くなった、食欲が抑えられないようになり太ったなどなど。

そうした方々があなたに対して「ステロイドは怖いから止めた方がいいよ」というかもしれません。もちろん安易にステロイド治療を選ぶのは考え物です。

しかし、中には一刻も早くステロイド治療を行わないと命にかかわる、もしくは重大な後遺症が残るという疾患もあり、そのような場合は、ステロイド治療を行わないことの方が「怖い」です。

あなたが病気を抱えている場合、周囲の人々というのはあなたの病気が良くなろうが悪くなろうが責任を取ってくれるわけではありません。

しっかりと情報収集した上で、頼るべきはやはり専門家(この場合は、ステロイド治療を熟知した専門医)なのです。

ステロイドの風評と「アトピービジネス」

残念ながらステロイドは怖いという風評を煽るビジネスがあるのも事実です。一時期、アトピー性皮膚炎患者をターゲットにした「アトピービジネス」が流行した時期もありました。ステロイド外用は良くない、こうした治療の方が良いという怪しい科学的根拠のない民間療法へ誘導する手口です。

最近は以前よりも患者さん側の情報リテラシーが高くなったため、以前ほどはこうした被害にあう方も減ってきていると思いますが、逆にブログやSNSを駆使してアトピービジネスを展開する業者や医師までも存在しており、注意が必要です。

おわりに

使用方法ひとつで毒にも薬にもなるステロイド。やっぱりまだ怖いでしょうか。でも実はあなたの副腎からもステロイドは分泌されているのです。生きていく上で必要なものなのです。

大切なことは、ステロイドを自己判断で使用方法を変えたり、中断したりせず、ステロイド治療の経験が豊富な医師と一緒に治療を行っていくことです。疑問に思ったことは、しっかり質問しましょう。