ホルモンって何でしょう。誰しも「ホルモン」って聞いたことがあると思いますし、成長ホルモンや女性ホルモンなど、何となくからだにとって必要なものである響きがありますよね。
人間のからだは約60兆個の細胞で成り立っています。これらの細胞が、それぞれバラバラに活動しているのではなく、それぞれ、協調し合って活動しています。この協調し合った活動を支えているのがホルモンなのです。
ホルモンはからだの中で細胞や器官、内臓などの間で情報をやりとりします。素早い情報のやりとりには神経が使われ、ゆっくりとした情報のやりとりにはホルモンが使われます。通信に例えると、神経が電話やLINE・メール、ホルモンが郵便みたいなものです。
ホルモンが作用する際の仕組み
ホルモンは、からだの中の内分泌臓器で作られます。内分泌臓器には様々なものがあります。頭の中にある下垂体や、首にある甲状腺や副甲状腺、腰のあたりにある腎臓や腎臓の上側についている副腎、男性の精巣や女性の卵巣などがあります。
内分泌臓器で作られたホルモンは、すぐ近くにある血管の中に分泌され、血液に溶けることによって全身に旅立ちます。ホルモンが作用する臓器を標的臓器と呼びますが、この標的臓器には受容体(レセプター)というものがあります。血液の流れに乗ったホルモンが受容体にくっつくことによって、作用がもたらされます。
ホルモンを調節する仕組みネガティブフィードバック機構
ホルモンは血液中の濃度が濃すぎても、薄すぎてもいけません。ちょうど良い濃度が必要です。そのちょうど良い濃度を維持する仕組みがネガティブフィードバック機構です。
甲状腺ホルモンの調節を例としてみてみましょう。甲状腺ホルモンは、その名の通り甲状腺から分泌されます。甲状腺ホルモンを調節しているのは、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンです。そして甲状腺刺激ホルモンを調節しているのは、視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンです。
会社に例えると甲状腺が平社員、下垂体が課長、視床下部が部長みたいなものです。平社員のはたらきが悪いと課長や部長が「もっとはたらけ!」と活を入れます。反対に平社員が頑張り過ぎると、課長や部長が「あんまり無理すると体を壊すぞ。ほどほどにしておけ」と言います。
具体的には甲状腺ホルモンの血中濃度が低いと、その上位ホルモンである甲状腺刺激ホルモンや甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの血中濃度が増えます。反対に甲状腺ホルモンの血中濃度が高いと、甲状腺刺激ホルモンや甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの血中濃度が減ります。このような仕組みをホルモンのネガティブフィードバック機構といいます。なんだか人間社会でいうところの“出る杭は打たれる”的なかんじですね。
ホルモンを調節する仕組みポジティブフィードバック機構
ネガティブフィードバック機構というものがあるのなら、ポジティブフィードバック機構というものもあるのでしょうか。結論から言うとあります。ただし、ほとんどのホルモン調節がネガティブフィードバック機構によるものであり、ポジティブフィードバック機構は例外的なものです。
ポジティブフィードバック機構は女性の性周期において、排卵が起きる際にみられます。
女性ホルモンのひとつであるエストロゲンは卵巣から分泌されます。このエストロゲンの分泌には、下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(以下、FSH)、黄体化ホルモン(以下、LH)が関わっています。FSHとLHをまとめてゴナドトロピンというのですが、このゴナドトロピンの分泌は、更に上位の視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(以下、GnRH)の影響下にあります。
排卵期以外には、エストロゲン、FSHとLH、GnRHはネガティブフィードバック機構によって調節されています。しかし排卵期には、エストロゲンの血中濃度が徐々に増加し、ピークに達すると、GnRHの分泌は増え、それによりLHの分泌は急増し、FSHの分泌もそれなりに増加します。
このように、“やるべき時には上位と下位のホルモンが協力して、同じ方向に作用する”しくみをポジティブフィードバック機構といいます。ネガティブフィードバック機構が“出る杭は打たれる”的なかんじなのに対して、ポジティブフィードバック機構は“部下を褒めて育てた場合の好循環”的なかんじですね。
代表的なホルモン
現在、発見されているホルモンは100以上ありますが、ここでは日頃、よく耳にする代表的なホルモンを簡単にみていきましょう。
名称 | はたらき |
成長 ホルモン |
下垂体から分泌されます。 未成年の場合には、骨を伸ばします。 成人の場合には、骨を丈夫に保ったり、筋肉を大きくしたり、 内臓を成長させます。 |
甲状腺 ホルモン |
甲状腺から分泌されます。 体の代謝を良くしたり、精神的にも肉体的にも活動的に過ごすために必要です。 |
副腎皮質 ホルモン |
副腎の皮質という外側の部分から分泌されます。 ストレスが加わると、生命の維持に最低限必要な血液中の糖分(血糖)を保つはたらきをします。 |
副腎髄質 ホルモン |
副腎の髄質という内側の部分から分泌されます。 アドレナリンとノルアドレナリン、ドーパミンがあります。よく精神的に興奮するとアドレナリンがでるといいますね。 からだに取り入れる酸素量を増やしたり、血圧や脈拍を上げたりします。ちなみにアドレナリンは世界で初めて発見されたホルモン第1号で、しかも発見者は日本人の高峰譲吉博士です。 |
男性 ホルモン |
精巣から分泌されます。 一部副腎皮質から分泌されます(女性もです)。 男性器を発達させたり、精子を作ったり、筋肉を大きくしたり、ヒゲや体毛を生やしたりします。 |
女性 ホルモン |
卵巣から分泌されます。一部脂肪細胞からも分泌されます。 女性らしいからだつきを作ったり、月経や排卵を起こしたりします。 |
インスリン | 膵臓から分泌されます。血糖値が上がらないようにするはたらきがあります。 血液中の糖分を肝臓や脂肪組織、筋肉の中へ運ぶはたらきがあります。 |
ホルモンの物質名と通称
実はホルモンの名前には物質の名前と通称とがあります。
通称 | 物質名 |
甲状腺 ホルモン |
サイロキシン(T4)、トリヨードサイロニン(T3) |
女性 ホルモン |
エストロゲン ※エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)などの種類がある プロゲステロン |
その他にもストレスホルモンというと、一般的には副腎皮質ホルモンであるコルチゾールを指して呼ぶことが多いですが、身体にストレスが加わった際には、コルチゾール以外にも副腎髄質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、成長ホルモンなどの分泌も増えるため、広い意味ではストレスホルモンといえます。
ホルモン焼きとの関係は!?
ホルモン焼きは動物の小腸や大腸、皮、胃、肝臓、心臓、腎臓、子宮、肺などの料理です。なぜホルモンというのか、さまざまな説があります。昔は食べられることがなく、捨てられていたため「放るもん」と呼ぶ由来の説もありますし、滋養強壮によく活力がつくからという説などがあります。ホルモン焼きを食べると体内での何かしらのホルモンが増えるというエビデンスはありません。
余談になりますが、人間の小腸や大腸、胃、心臓、腎臓などもホルモンを分泌しています。そういう意味では、あながち無関係でもなさそうですね。
フェロモンとは違うもの!?
よく混同されがちですが、結論から言うと違うものです。「あの子にはフェロモンを感じる」という風に使われるのと、「女性ホルモンを増やして、魅力アップ!」などという風に使われるのが、混同される原因なのではと筆者は思います。
ホルモンが1人の人間の体内で、内分泌臓器から分泌され、血液の流れに乗って標的臓器まで辿り着き作用する一方、フェロモンは1つの個体(人間なら1人)の体の外に向かって分泌され、他の個体(人間なら他人)に作用を及ぼすものです。ただし、女性ホルモンであるエストロゲンの血中濃度が高い排卵の時期に、女性は男性を惹きつけるフェロモンを対外に分泌する可能性も示唆されており、まったくの無関係という訳ではなさそうです。
まとめ
いかがでしたか。日頃よく耳にするけれど、なんだか小難しそうなホルモン。本稿で少しでも皆さんにとってホルモンが身近に感じて頂けたら幸いです。そしてからだの中で一生懸命、頑張っている愛すべきホルモンたちを意識し、健康的な生活を送って頂けたらと思います。