副腎皮質ホルモンをご存じでしょうか。ご存じでない方もステロイドなら聞いたことがあるのではないでしょうか。副腎皮質ホルモンはステロイドの一種です(ステロイドには副腎皮質ホルモン、男性ホルモン、女性ホルモンがあります)。誰もが生きていくために必要な副腎皮質ホルモン。過不足なく作用することが必要です。今回はこのホルモンにフォーカスをあててみましょう。

目次

そもそも副腎とは

副腎ってあまり目立たない臓器かと思います。心臓や肝臓、腎臓はメジャーな臓器として認識されているのに、副腎はそこまで認知されていないように思います。でもこれがないとヒトは生きていけないので、まさに縁の下の力持ちです。

では、副腎ってどこにある臓器なのでしょうか?腰の上側の左右に腎臓があります。この腎臓の上側に重さわずか数グラムの副腎があります。

副腎は外側の皮質と内側の髄質に分かれます。皮質で分泌されるホルモンは3種類。外側から順に鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド、アンドロゲン(男性ホルモン)です。髄質ではアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌されます。

今回は皮質で分泌されるホルモンについて掘り下げてみていきます。

副腎皮質で分泌される3つのホルモン

副腎皮質ホルモンとは-図解

鉱質コルチコイド

近年、塩分の摂りすぎによる高血圧が問題となっていますが、それはさておき、ヒト、特に内陸部に住むヒトにとって塩分は欠かすことのできないものでした。塩分は大部分が塩化ナトリウムという物質です。生物の血液中で一番多く含まれている物質はナトリウムなのです。

浸透圧をご存知でしょうか?浸透圧とは簡単にいうと、濃度が大きい物質があると、それを薄めようと水が集まってくる性質のことです。ナトリウムは、この浸透圧によって、血管の中や間質に水分を引き留めるはたらきをしています。浸透圧を機能させるために、私たちは体内に一定量のナトリウムを保つ必要があります(正確にはアルブミンなどの膠質浸透圧も関係してきます)。

ところが、生物は進化の課程で海から陸に上がりました。そのためいつでもナトリウムが摂取できる訳ではなくなり、安易に尿からナトリウムをじゃじゃ漏れにする訳にはいかなくなりました。このナトリウムを体内に保つはたらきをしているのが副腎皮質の最も外側から分泌される鉱質コルチコイドです。

糖質コルチコイド

副腎皮質ホルモンというとき、糖質コルチコイドを指していうことが多いです。ここでまず血糖について考えましょう。

皆さんは不思議に思ったことがありませんか。忙しくて1食食べる時間がなかったとしましょう。それでも通常は(糖尿病でインスリン治療などをしている場合を除けば)低血糖になりませんよね(低血糖とは血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が低くなることを言います。ヒトの体の細胞はブドウ糖をエネルギーとして活動しますが、このエネルギー源が少なくなると意識障害などの不都合が生じます)。

「いや、自分は食事を食べないとフラフラする。低血糖になっているハズ」という方もいらっしゃるかもしれませんね。そんなとき、血糖を測ってみても低くても70 mg/dL程度で、実際には低血糖にはなっていません。何より意識はしっかりしており、脳に糖分(ブドウ糖)がしっかり供給されている証拠です。

この低血糖を防ぐため、体には二つの仕組みが備わっています。一つは交感神経系(本稿では割愛します)、もう一つは糖質コルチコイドです。糖質コルチコイドは、肝臓に働きかけ、蓄えていたグリコーゲンを分解したり、アミノ酸の炭素骨格部分を利用して、ブドウ糖を作ります。何とも頼もしいですね。他にも色々な作用があるのですが、詳細は後ほど。

アンドロゲン(男性ホルモン)

男性ホルモンは主に精巣から分泌されますが、副腎からも分泌されます。これは男性に限らず女性においてもです。男性においてはアンドロゲンの95%が精巣で、5%が副腎で生成されます。副腎から分泌されるアンドロゲンは、精巣から分泌されるアンドロゲンと種類が異なり、精巣から分泌されるものの数分の一の男性化作用を有しています。

よく女性はストレスが多いと男性化しやすいという話を耳にすることがあると思います。これには二つ理由があって、一つは女性ホルモンがストレスにより減ってしまうため、もう一つはストレスがかかると下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンの分泌が増えます。これは主に糖質コルチコイドを増やすのが目的ですが、その副産物といっては何ですが、副腎アンドロゲンの分泌も増えてしまうのです。そのため太い体毛が生えたりしてしまうのです。

薬として使われるステロイド

ステロイド薬を使ったことがないという方はあまりいらっしゃらないと思います。「はたして使ったことがあったかな?」と思った方も必ず一度は使ったことがあるはずです。軟膏や目薬、点鼻薬、吸入薬、飲み薬に注射薬まで多彩な剤形のものがあります。特に軟膏などは皮膚がかゆくて、もしくはかぶれて皮膚科に行ったら、皮膚炎ですねと言われてステロイド軟膏を処方されたというケースも多いのではないのでしょうか。

では様々な用途に用いられるステロイド薬とはいったい何なのでしょうか。

ステロイドを薬として用いる際には、糖質コルチコイドとしての作用を期待して使用するケースが圧倒的に多いです。ステロイドは炎症を抑える働きがあります。多くの病気は体のどこかで炎症が起きており、それにより痛みや熱、腫れ、赤みなどの症状が出るのです。

ステロイドは、こうした症状を確実に抑えてくれます。なぜ確実に効くか。それはステロイドが作用する部位である糖質コルチコイド受容体が、ほとんど全ての組織、細胞に存在するからに他なりません。

しかし炎症を抑えるのが良い場合と悪い場合があります。体に細菌が入り込み、それを一生懸命、白血球が排除しようとして炎症を起こす場合です。この場合、ステロイドは頑張っている白血球のはたらきをくじいてしまい、細菌が更に勢いづいてしまいます。こうした場合にはステロイドはむしろ使うべきではありません。

反対に細菌に感染している訳ではないのに、必要以上に炎症が起き、その炎症で組織が破壊されている状態(気管支ぜんそくや関節リウマチなど)では炎症が治まった方が良いので、ステロイドを治療に用いることもあります。

おわりに

副腎皮質ホルモンとステロイドについて、おおまかにみていきました。次回は副腎皮質ホルモンの過不足で生じる疾患について考えてみましょう。