※本記事では、昨シーズン以前のインフルエンザ流行状況について解説しています。最新の流行状況は、本記事とは異なる場合があります。

インフルエンザワクチンは例年であれば10月より接種が開始されますが、本年はワクチンの製造・流通が例年より少なく、接種を希望してもなかなか予約がとれないという方も多いかと思います。その一方で、本年も局所的なインフルエンザ感染のニュースがあります。

ここでは、インフルエンザウイルスの基礎的知識の再確認、諸外国の最近のインフルエンザウイルス感染の情報をもとに、2017~2018シーズンの対策などを解説します。

目次

インフルエンザウイルスとは~A型・B型、それぞれのタイプ

皆様がインフルエンザシーズンに発熱した場合には、医療機関を受診して鼻から綿棒を入れて迅速診断キットによる検査を行うことはイメージがついているかと思います。検査の結果、インフルエンザウイルス陽性と診断された場合、それがA型・B型の2つに判断されます。

インフルエンザウイルスは大別すると、A型・B型にそれぞれ2つずつ種類があり、合計で4つのグループとなります。
A型は、1968年に大流行(パンデミック)し現在では「季節性」と表現される香港型(H3N2)、2009年にブタから変異を起こして流行した「新型」と表現されるタイプ(H1N1pdm09)の2つに分類されます。
一方、B型は、「ビクトリア系統」と「山形系統」の2つに大別されます。

日本・海外における最近のインフルエンザ流行傾向から、本年の流行予測は?

地球儀

1.最近の日本の流行に関して

2009年にA型の新型ウイルス(A新型:H1N1pdm09)が流行してから、日本では、前述の「A香港型(H3N2)」と「A新型(H1N1pdm09)」が交互に流行する傾向があります。この順番からは、今シーズンはA新型(H1N1pdm09)が流行する可能性が示唆されております。

みなさまの記憶に新しいと思いますが、2014~2015シーズンには12月よりA香港型(H3N2)が流行しました。特に年末年始には近年まれにみる大流行で救急外来の待ち時間が3-4時間以上となり、治療薬が不足するなどの混乱が生じました。

例年、ワクチンの効果があるかどうかの判定は1月下旬から2月にします。インフルエンザワクチンの有効率は例年は40~50%ですが、このシーズンのみ日本・米国・ヨーロッパでは、このA香港型に対しては数%の効果にとどまったことが報告されております。

2.諸外国での最近のインフルエンザの流行

日本の今シーズンの予測をするためには、季節が反対で日本の温暖気候に似た、オーストラリアなどでの感染状況を解析することが重要です。

今年のオーストラリアでのインフルエンザの流行は、例年の2.5倍程度であったことが政府より報告されました。

入院患者数は例年の2倍で、感染者は5~9歳と80歳以上の高齢者が多い傾向がありました。このオーストラリアでA香港型(H3N2)とBが流行しました。

また、香港では、5月から8月の夏のシーズンに、異例の大規模なインフルエンザの流行がみられ、こちらも香港型(H3N2でありました。

こうした状況から考えると、2017~2018シーズンのインフルエンザは、日本での流行時期は例年と同じと思われますが、A新型(H1N1pdm)・A季節型(H3N2)・B型が同程度であると考えます。いずれの場合でも、後述するワクチンでの発症および重症化(入院・死亡)の予防は重要です。

今年のインフルエンザワクチンの内容と製造が遅延している理由

本年のインフルエンザウイルスは、前述のように4つのタイプに分かれるため、それぞれに対しての株に基づきワクチンが製造されております。

  • A/Singapore(シンガポール)/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09
  • A/Hong Kong(香港) /4801/2014(X-263)(H3N2)
  • B/Phuket(プーケット)/3073/2013(山形系統)
  • B/Texas(テキサス)/2/2013(ビクトリア系統)

ワクチンは、例年5月にその対象となる4種類を厚生労働省などが決定しますが、本年はその選定が2か月程度遅れ、決定が7月になりました。また、製造過程での変更が必要となったこともあり、ワクチンそのものが国家検定を通過するタイミングも遅れたため、例年とくらべて流通が遅れております。

こうした供給の遅れにより、公費補助のある65歳以上の接種期間は通常は12月末ですが、1月末までに延長する自治体があります。

遅れても重要なワクチン接種~諸外国の予防効果のデータから

諸外国の数年間のデータからは、ワクチンの予防効果・重症化予防の効果は40~50%程度とされております。それぞれのインフルエンザのタイプからでは、A香港型(H1N1)では、ウイルスの変異がない場合には33%、変異がある場合には23%、B型では54%、A新型(H1N1pdm09)では60%という報告があります。

A新型(H1N1pdm09)の感染では、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの基礎疾患がある方、妊婦などでは、感染後に急激な呼吸困難をきたして入院する症例報告があります。予防効果も高いことから、ワクチン接種は遅れてでも行うことが重要であります。 

まとめ

この数年の日本におけるインフルエンザ流行状況、および諸外国での近年の流行状況をふまえ、ワクチン供給が遅れている本年のインフルエンザの予測される傾向とその対策に関して記載しました。ワクチンが遅れていても、接種することがインフルエンザの発症・重症化予防には重要であります。