日常生活に支障が出るほど汗をかく多汗症。患者数は年々増えており、重症の多汗症患者は80万人以上とされています。ただ、病気であるとの認識がなかったり、治らないと諦めて受診しない人も多いのが現状です。最近では、症状を軽くするさまざまな治療法も開発されています。ここでは、多汗症の治療方法や専門の医療機関について紹介します。

なお、多汗症の症状の特徴に関する情報は、「異常に汗は多汗症?あてはまる症状の特徴と原因」の記事をご参照ください。

目次

多汗症の治療法について

多汗症_注射器

塩化アルミニウム外用療法

多汗症で皮膚に問題のない場合、特に手のひら・足の裏・わきの下には、塩化アルミニウム外用療法を行います。塩化アルミニウム溶液は、汗を出す管(汗管)の細胞に作用し、汗管を閉塞させるため、発汗が少なくなることが見込まれます。

わきの下には単純塗布、手のひらや足の裏には、重症度に応じて閉鎖密閉療法(ODT※)を行います。

塩化アルミニウム溶液は病院の院内または院外製剤として処方されますが、保険適応外です。価格が安く、自宅でも手軽に行え、高い有効性が報告されています。

ただし、効果は一過性であるため、効果を持続させるには継続的な治療が必要です。また、刺激皮膚炎などの副作用が出ることもありますので、必ず医師の指導のもとに行うようにします。

閉鎖密閉療法(occlusive dressing technique):手や足などに布手袋や靴下をつけ、その上から塩化アルミニウム溶液を染み込ませ、さらにゴム手袋やラップなどを巻いて一定の時間密閉した状態に保つ方法。

イオントフォレーシス療法

イオントフォレーシス療法は、簡便かつ保険適応となっている治療です。手のひら・足の裏に対して非常に有効とされています。

手のひらや足の裏を水道水に浸し、そこに医療機器によって微弱な電流を流します。そこで生じた水素イオンが汗を出す細胞に作用し、汗が作られないようにします。

医療用の高出力のものを用いた場合、週1~2回の通院を約6~8回続けると効果がみられ、中等症から重症に有効です。アルミニウム外用療法で副作用が出る場合に用いたり、外用と併用して相乗効果を得ることが期待できます。

尚、ペースメーカーを装着している方、妊婦さん、金属を体内に埋め込んでいる患者さんに対しては使用できません。

また、通院することが難しい場合、アメリカからドライオニック®という医療機器を個人輸入して、自宅でイオントフォレーシス療法と同様の治療を行うこともあります。

ボツリヌス毒素局注療法

上記の治療法でも改善しない場合、適切な診察の上でボツリヌス毒素局注療法(BOTOX®)を行うことがあります。これは、ボツリヌス菌という薬を注射によって患部に注入し、交感神経をブロックして汗腺の働きを一時的に抑える治療で、特にわきの下で大きな効果があります。

10~20分という短い施術時間で手軽に行うことができます。手のひらと足の裏では効果があまり長続きせず、わきの下でも効果が続くのは数ヶ月~1年程度であることを理解しておきましょう。

重症の原発性腋窩多汗症(原因のわからないわきの下の多汗症)に対するボツリヌス療法については、2012年11月末より保険適応が可能となっています。

胸腔鏡下交感神経遮断術

多汗症は、発汗の指令を伝える交感神経が優位になることが大きな原因となって起こります。胸腔鏡下交感神経遮断術とは、内視鏡を使って胸部交感神経を遮断する手術で、手のひらの多汗症に高い効果があります。20分~30分程度の手術時間で、日帰りで行う病院もあります。

手術の痕があまり目立たず、体への負担が少ないのが利点です。しかし、代償性発汗(体の他の部分からの発汗)や手の乾燥が起こる可能性があります。

内服療法

上記の治療法とともに、内服薬として、副交感神経を遮断する作用のある抗コリン剤(プロバンテリン臭化物)が使用されることがあります。服用して1時間で効果が出て、全身の発汗が抑えられますが、口や眼の渇き、体の火照り、便秘、頭痛、眠気などの副作用がでることがあります。

多汗症によって精神的疾患を合併している場合

多汗症では、日常生活に様々な支障が出るため、精神的苦痛を感じるケースが多く、中にはうつ病などの精神的疾患を発症することもあるようです。そうした場合は、自律神経失調症に効果のある薬(トフィソパム、商品名「グランダキシン」)や、抗不安薬で抗コリン作用をもつ薬(パロキセチン、商品名「パキシル」)が有効な場合があります。

多汗症を診察してくれる医療機関

多汗症_電話をする女性

多汗症の治療を行っている皮膚科へ

多汗症は適切な治療によって症状の改善が期待されますが、なかには医療機関を受診しても治療に至らなかった、というケースも多いようです。そのようなことを防ぐためにも、多汗症の治療を行っている皮膚科を探し、受診することが大切です。多汗症専門外来、発汗異常外来など、多汗症を専門に扱う病院もあります。

多汗症以外の病気が隠れている場合でも、まず皮膚科等で原因を調べてもらい、何科を受診すればよいか、教えてもらうことができます。

受診する際は事前に連絡を

医療機関にもよりますが、事前に必要事項を確認しておくことで診察がスムーズになる場合もあります。実際に多汗症の治療をしているか、自分の希望する治療法に対して保険を適応してもらえるか等、気になる点を前もって確認しておくことをお勧めします。

まとめ

多汗症には様々な治療法があり、保険適応の範囲も広がりつつあります。かつて受診して治療にいたらなかった経験があったとしても、医療機関を変えるなどして、症状を劇的に軽減できる場合があります。「体質だから」と諦めることなく、ぜひ自分にあった治療を受けられる医療機関を探してみてください。