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小児がんをはじめ、重篤な病気のケアには医師以外にも様々な職種(多職種)が携わります。多くの専門家が患者さんを多角的にフォローすることで、患者さんがその子らしく生きることを支えているのです。

国立成育医療研究センターの場合、小児がんの子どもたちを多職種で支える「こどもサポートチーム」のカンファレンス(会議)を取りまとめるなど、中心的な働きを担っているのが緩和ケア認定看護師の木須 彩さんです。こどもサポートチームの取材連載、今回は木須さんにお話を伺いました。

お話を伺った方の紹介

※写真:国立成育医療研究センター 病棟内のスタッフステーション

まずは患者さんと親御さんに安心していただく

―はじめに、病棟での看護師さんの役割について聞かせていただけますか?

最初の役割は、ご家族のICインフォームド・コンセント:治療法などについて患者さんが医師から説明を受け、正しく理解・納得して同意すること)に同席してサポートすることです。

診断のとき、ご家族は頭が真っ白になってしまいます。医師は話したつもりでも、ご家族は聞けていないケースが結構あるんです。私たちは、最初に家族が受けた衝撃や辛さに対してワンクッションを置きつつ、ご家族のフォローをさせていただくとともに、医師の話をどのように理解されたか確認しながらサポートしていきます。

看護師は医学的な知識も持っていますし、社会的・精神的問題もアセスメント(評価)できます。(スピリチュアルな面も含めて)4側面からアセスメントするのが看護師の役割です。ですから入院時には、お子さんの家族背景や、「今までどのように過ごしてきたか」「どういう病識があって、どういう形で入院しているか」といった部分を踏まえ、問題点をピックアップします。痛みや症状のケアや食事の形態などの身体面、本人やご家族の気持ちなどの精神面、学校のことなど、必要な箇所と連携を取るのが診断時の役目です。

治療に入ってくると、例えば化学療法では、看護師は事前に「この治療ではこういう副作用が出る」と把握しているので、そこへの予防的な介入を行います。脱毛やボディ・イメージの変化も、起こってからアプローチするのではなく、「こういうことが起きるかもしれない」と事実を伝え、前もってウィッグの希望を聞くなど、症状や治療に合わせて予防的に介入していきます。治療に伴う吐き気や便秘などは全て分かっているので、食事や排便コントロールといった環境整備も行います。

治療終了期は、社会復帰へむけた準備を行います。復学や自宅の環境、在宅医療で何が必要かといったアセスメントも看護師が行った上で、多職種と連携していきます。

 

―患者さんが病棟に入るときは、最初に木須さんと面談をされると伺いました。その面談は、どのように進めていますか?

(小児がんの患者さんは)突然の入院であることが多いので、ご家族とご本人のお気持ちを聞きながら進めます。ご両親だけでは「何をどうしたら良いか分からない」という面があるので、「こどもサポートチームでお力になれることもあるかもしれないので、一緒に考えさせてもらってもいいですか?」と伝え、まずは安心感を持っていただきます。ある程度喋れるお子さんや、病名を告げられているお子さんの場合、ご両親の了解を得た上でご本人に話を聞くこともあります。

一番大切なのは、ご本人とご家族の気持ちです。ご本人が今まで何を大事にしていて、どういう生活をしてきて、ご家族は子育てにあたって何を大切にしていて…といったことを知らないままで医療ケアを提供すると、絶対にズレが生じてしまいますよね。

例えばご家族に「辛いことがあった時、ご飯を食べられなくなることはありますか」と聞くと、そこから「実はちょっと鬱傾向で…」と把握できる場合があります。ご本人の症状に関しても、「痛みがある時に、どうすると痛みが和らぐことがありますか」など確認することが、症状マネジメントに繋がっていくんです。

家族や子どもたちだけで抱え込まず、「みんなで考えていきますよ」と伝えた上で安心していただき、「大切にしているもの」「入院中に気にかけてほしいこと」をお聞きして、そこから家族背景・身体症状などを踏まえて問題点をピックアップしていきます。

 

―診断されてすぐ、ショックを受けている親御さんにお話しされるとき、意識していらっしゃることはありますか。

一方的に喋らないようにはしています。医師のICは、事実を伝える必要があるものですし、多くの説明が入るんです。でも、実はご両親やご本人には、「こういうことが不安です」「こういうことが分かっていません」と言える場があまりないんですよね。なので私の場合、「○○さんのことを理解して医療を提供したいので、お話を聞かせていただけますか」という感じで、間も持たせつつ、ゆっくり聞くようにしています。

 

―お子さんの病気について、親御さんから質問を受けることも多いのでしょうか。

多いですし、そこが診断時における看護師の大きな役割だと思います。

看護師は病状や治療、ICの時に医師がどういう話をしたかも把握した上で面談を行うので、そこはフォローしています。ICでは皆さん、頭が真っ白になるので、先生にその場で質問できないことが多いんですよね。ですから、「もう少し落ち着いたらもう一度先生からお話が必要かな」など調整します。

実際のところ、「うちの子、退院したらどうなりますか」など、診断直後には答えを出せないような質問をされることも多いです。問題を一緒に整理して、「退院後のことは、この時期に主治医ときちんと話しましょう」とお伝えします。ご家族も、すぐに全部を考えられるわけではないですからね。

 

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