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「チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)」という資格をご存知ですか?アメリカで生まれた資格で、病院や医療現場で子どもや家族がストレスを感じたとき、遊びや情報提供、環境設定(病院内の環境を子ども目線で整える)などを通じて、それを乗り越えるためのお手伝いをする専門職です(チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会より)。

この資格はアメリカのChild Life Councilという団体が認定しています。取得のためには渡米する必要があり、日本ではまだ人数が多いとはいえません。しかし病気と闘うお子さんと家族を支える上では、とても重要な役割を担っています。

国立成育医療研究センター 子どもサポートチームの取材連載、今回はCLSの伊藤 麻衣さんにお話を伺いました。

お話を伺った方の紹介

※写真:8階西病棟の食堂

医療者や家族と相談しながら子どもをフォロー

―CLSは、医師や看護師とはまた違う立ち位置でお子さんを支える役割を持っていると思いますが、実際どういう職種なのでしょうか?

CLSは、身体のことや病院で起こることを子どもたちにできるだけわかりやすく説明したり、処置や検査・手術を子どもたちやご家族が乗り越えられるように支援したりする職種です。医療行為はしませんが、医師や看護師をはじめとする多職種とコミュニケーションをとり、医療チームの一員として子どもたち、そしてその子どもたちのことを一番理解している親御さん・保護者の方とのコミュニケーションをとることが仕事です。

例えば、子どもが医師から説明を受けた後で、自分の病気や障がい、治療や処置などについてどんな風に理解しているのか確認したりします。まず子どもたちの話を聴いて、誤解があれば修正しますし、言葉を噛み砕いて理解をより促すこともあります。そして、その子らしく対処するにはどうしたらいいか、子どもたちと相談します。

 

―先生方が説明したことをサポートしたり、復習したりする役割ということでしょうか。

そういう場合もありますし、医師や看護師と相談しながら一緒に説明をすることもあります。他に事前に心の準備をすることを手伝う介入を“Preparation(プリパレーション)”といい、写真ブックや人形、ひとりずつに合わせて作成した絵本に加え、実際の医療物品を使って行うこともあります。

また、子どもたちが実際に経験することを、できるだけ本番と同じ手順で事前に経験してもらう“Rehearsal(リハーサル)”を行うこともあります。たとえば、事前に処置室を見学する、手術室や放射線治療室を訪問して次に来るときにやることを確認して予行演習しておくなどです。説明したことがきちんと行われ、逆に説明していないことが急に起こらないようにする必要があるので、手順や環境などを事前に医療者間で確認した上で子どもに説明します。さらに、「ここまではママと一緒にいく」「写真をとっている間はDVDを見ていることができる」など、子どもたちができることを提示した上で、どうすれば処置や検査を乗り越えやすいかを子どもたちと相談します。心の準備ができると、「ちょっとやだけど、やってみる」という主体的な協力につながります。

子どもたちとかかわるときは、必ず親御さん・保護者の方に相談します。そして医療チーム内で情報共有して、子どもたちとかかわったらまたご家族と医療チームにフィードバックして、子どもたちをさらにフォローして…というのがかかわりの流れです。コミュニケーションをとりながらその子にとって何が一番いいのかを考えていくので、「これをやります」という決まったものはありません。

 

―処置に付き添う際には、どのようにフォローしていますか?例えば、外来を含めてしばしば行われるであろう「採血」の場合、お子さんたちはどんな様子でしょうか。

まずは“採血”について一人ひとりに合わせて説明して、“腕を動かさないこと”などその子の役割を伝えます。だっこやベッドに横になるなどの体勢、そばにいる大人(家族、医療スタッフ)の存在などその子に必要な環境を整えれば、どの子もその子なりに適応できるんですよ。

“泣く”ことも、年齢や子どもによっては乗り越えるための大切な要因です。乗り越えるためのプロセスの一部なのか、パニックになっているのかは常にアセスメントするようにしています。

どの子にも、お話が聴けた、処置室に入ることができた、一度でも自分で腕が出せた、とか必ず褒める部分があるはずなんですよね。そこをきちんと見つけて、言葉で具体的にねぎらって、次につなげていきます。できなかった部分にフォーカスするのではなく、次に同じような時はどのように乗り越えるかについて子どもやご家族と一緒に考えていくんです。

また、処置を見たほうが対処しやすい子どもと、見ないほうが対処しやすい子どもなど、年齢や性格に合わせて体勢や環境をととのえるようにしています。必要があれば意識転換や視界調整のため、絵本やDVDやおもちゃを使ったりすることもあります。

可能な限りご家族を含めて医療チームで事前に打ち合わせをして、子どもが乗り越えるための環境を整えます。子ども自身が持つ“乗り越えていくパワー”はすごいですよ。

 

―手術などの大きなイベントでも、基本は同じですか?

 そうですね。年齢や理解度に合わせて、その子ども自身が実際に経験すること、麻酔導入や術後のことまで説明します。また、事前に手術室ツアーに行くこともあります。病室から手術室までの道のりと、手術室があいていれば手術室の中も見に行って、ベッドに座らせてもらったり、マスクを実際にあててみたりします。手術室の看護師や麻酔科医が一緒にお話ししてくれることもありますよ。

事前に経験することで、「どうしたら乗り越えられるか」と子どもたち自身の心の準備をするきっかけになります。ただし、強調しておきたいのはCLSの介入の目的は、子どもが泣かないで笑っていられることではないということです。子ども自身が、何がおこるのか・何をする必要があるのかを正しく理解すること、そしてそれをどう乗り越えるかについて子ども自身が自ら考えて対処できるようにすること、ご家族や医療スタッフがどう協力してそのお手伝いをするかを事前に打ち合わせること、にあります。

 

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