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「前に進んでいく力をちゃんと持っている」

小児がん病棟内のカート
病棟内では、カートに乗って移動するお子さんの姿も

―ご家族によっては病名を伝えたがらない、というお話もありました。実際、お子さんたちは自分の病気について知るとどのような反応を示すのでしょうか?

子どもによって様々ですが「え?!」とはなるけれど、その後は「へぇー」という反応をよく経験します。特に小学生は、学校を休まなければいけないことにショックを受けるようで、「入院?」「長いの?」と泣いてしまうことも多い気がします。ただ、告知された後ずっと落ち込み続ける子はあまりいない気がします。

年長になるとそれなりに知識も増えるので、「死にたい」「どうして自分ばかり」と言う子ももちろんいますが、それは受容のプロセスにおいて必要なことだったりします。でも、決してひとりにはしません。子どもたち本人とよくよく話をします。子どもたちのどんな言葉もきちんと聴いて受け止めます。

子どもたちは前に進んでいく力をちゃんと持っているので、私はよく、レールを敷くのではなく、一緒に波に乗る感覚だと感じます。情報や状況、気持ちを共有して、そばにいて、進む力がたまってきたらまた一緒にすすんでみる、この繰り返しです。

彼らが落ち込んでいる時、私は一緒に落ち込むわけではないけれど、その場所に一緒に降りていって隣で「落ち込むこともあるよね」って。「あなたが死にたいって言っても軽蔑もしないし、離れてもいかない。必ずそばにいるから、どうやって進んでいったらいいか考えよう」という感じです。

「どうしたらいいの?」と聞かれることは多いですが、「こうしたらいい」と答えることはあまりありません。「どうしたらいいと思う?」と返します。提案するときも「同い年くらいで、前にこういう子がいたよ」と伝えることが多いです。同い年くらいの子がどんな気分転換をしていたとか、そういう提案をして、彼らに決めていってもらうことが多いと思います。

 

―最後に、伊藤さんがCLSのお仕事で一番のやりがいだと感じていることを教えてください。

子どもと家族が「乗り越えられた」と思えた時、やりがいを感じます。笑っていても泣いていても、どっちでもいいんです。彼らがきちんと「自分達で乗り越えられた」と思えるときが、一番のやりがいだと思っています。

あとは、医療スタッフも家族も子どもも落ち着いていることが重要だと感じています。よくモビールに例えますが、モビールって全部つながっているので、1個が揺れると全部が揺れますよね。スタッフが揺れれば子どもも家族も揺れるし、家族が揺れた場合も同様です。その揺れを止めるのではなくて、分かった上で「揺れてもいいんだよ」「みんなで揺れているから大丈夫だよ」と示していくことが私たちの仕事だと思います。

病気になると、家族や学校・社会以外に「病院の人たち」が味方になるので、それは強みにしてもらえたらいいなと思います。入院していても、頑張って生きて亡くなっても、サバイバーとして生きていっても、どんな状況であれ、私たちが忘れることはないし、必ずそばで見守っている、そういう大人たちがいることが子どもたちの人生の糧にすこしでもなれば。

病気も障がいも、なったことで気をつけなければいけないことが増えます。ですが、決してずっとものすごく暗いものでもないし、その子や家族が不完全だというわけでもありません。どんな人生でも生きていくのは本人ですが、CLSとして子どもたちやご家族が少し心細いとき、安心したいときに手に取る心地よいブランケットのような存在になれればと思っています。

編集後記

今回の取材では、伊藤さんが何度も「子どもたちには前に進む力がある」「自分で乗り越えられるように」と繰り返していたのが印象的でした。子どもと家族・医療者とをつなぐ架け橋となり、子どもたちの絶対的な味方であり続けるCLSの存在が、今後日本でもさらに広まっていくことを願います。

次回は、緩和ケア科 余谷 暢之先生の取材の模様をお届けします。

※取材対象者の肩書・記事内容は2018年1月26日時点の情報です。