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がんの治療において、治療と同時に行われる大切なケアが「緩和」です。それは成人でも小児でも変わりません。

国立成育医療研究センターの「緩和ケア科」のページには、緩和ケアとは「Lifeを支えること」との記載があります。実際、緩和ケアが行うのは単なる痛みの緩和にとどまらず、患者さんが自身の治療を決めるための支援や終末期医療をはじめ、患者さんとご家族の生活・人生を支えるケアです。

国立成育医療研究センター こどもサポートチームの取材連載、今回は緩和ケア科の医師・余谷 暢之先生にお話を伺いました。

お話を伺った先生の紹介

※写真:国立成育医療研究センター内には、子どもが楽しめるような施設も各種用意されています。

言葉の裏を捉え、生活を支える

―緩和ケア科では、どういったケアを行うのでしょうか?

僕たちが行う緩和ケアは、大きく分けて3つです。

一つ目は、症状緩和。痛みや吐き気といった身体的な症状だけでなく、心理社会的な症状(不安や学校に行けないつらさなど)も含まれます。

二つ目は意思決定支援です。治療の方向性や病状の理解、そして病状の認識をもとに治療をどう選択していくかということですね。もし治癒がうまくいかないことがある程度明確になってきたら、その中での治療選択や、療養の場所の相談も受けることがあります。

そして三つ目は終末期医療亡くなる際の対応です。緩和ケアは、亡くなった先までカバーすることも必要で、そういった診療を行っています。

入院生活では、「治癒を目指す」ために加えられる制限がたくさんあります。その中には治療に伴って絶対に必要な制限もありますが、患者さんの生活を見たときに「もう少しこうできないか」と提案をするのが、緩和ケアの一つの立ち位置だと思っています。診断時、治療中、治療がうまくいかない時期、そして亡くなった後…どの時期であっても、その患者さんとご家族の生活という視点からできることはないかを考えています。

 

―患者さんの価値観に合わせて行うケアも変わってくると思いますが、どのように探っていくのでしょうか。

例えば患者さんが「家に帰りたい」という話をしたとしたら、どうして家に帰りたいのか気づく必要があります。ご家族やご兄弟と落ち着く時間を過ごしたいとして、でも病状的に帰宅することは難しいとしたら、「ご家族と一緒にいる」という本来の目的を病院の中で実現できないかと考えるのです。

本人の病状が進行し残された時間が少なくなったとき、我々医療者は「家で過ごす(在宅)=看取り」と考えて対応を検討します。もしご家族がまだ「看取る」のイメージが持てていない場合、価値観の共有が十分にできておらず、より良い最期を迎えることが難しくなってしまう可能性があるかもしれません。だから、患者さんやご家族が口にした「家に帰る」の裏にそもそもどういう希望があるのかを皆で考えます。その上で「最後を家で過ごしたい」ということであれば、もちろん、そこに沿うように支援をします。ご家族が本当に考えていることを探りながら一緒に共有していく作業がとても大事だと思っています。

 

―言葉をそのまま捉えるのではなく、その裏にある真の思いに気付く必要があるのですね。

はい。例えば、子どもが「死にたい」と言うと大人はびっくりしてしまいますよね。でもそれが「死にたいくらい治療が大変だ」ということの裏返しだとすれば、「そうだよね」と受け止められます。

ご本人が病気の中で言った言葉だけが独り歩きしてしまうことが少なくないのですが、言葉の裏にある本当の意向を確認しないで進むと、うまくいかないことも結構あります。これは大人でも同じですね。

 

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